瑠璃の館とレイの肖像画
「レイルズ様。一つ、我ら護衛一同からわがままを言わせて頂いてもよろしいでしょうか?」
円形交差点を回って瑠璃の屋敷へ通じる道へ入ったところで、レイ達の後ろと左右に控えていた護衛の者達の中から、キルートが笑顔でそう言って軽く右手を上げてみせる。
「うん、どうしたの?」
普段そんな事を一言も言わない彼らのわがままなら大歓迎だ。驚きつつも、絶対に叶えてあげようと内心で大いに張り切ったレイがキルートを振り返る。
「実を言いますと、レイルズ様の肖像画なら我らも見たいといつも話をしておりました。ご迷惑でなければ、一緒に拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」
にっこり笑ったキルートの言葉に、他の護衛の者達も笑顔で頷いている。
普段であれば、護衛の者達は屋敷に到着したら、その後は執事達と一緒に何処かへ行ってしまいレイと一緒にいる事はない。
恐らく屋敷の中は護衛は必要ないとの判断で、護衛の人達用の控室のようなところへ行っているのだろう。
「あはは、すっごく恥ずかしいけどもちろん構わないよ。じゃあ、出来れば感想を聞かせてください」
ちょっと赤い顔になったレイの言葉に、護衛の者達は揃って笑顔でお礼を言ったのだった。
「ああ、寒いのにわざわざ出迎えてくれてありがとうね」
到着した瑠璃の館の門前には、執事のアルベルトを先頭に執事達が出迎えに出てきてくれていて、笑顔でお礼を言ったレイは慌ててゼクスから飛び降りた。
即座に来てくれた執事にゼクスの手綱を渡してキルート達を振り返る。普段ならここでキルート達とは一旦お別れなのだが、今日はどうするのだろう。
どうしたらいいのか分からず困っていると、ラスティが執事に何かを耳打ちしてくれた。
一瞬驚いたようなその執事は、キルート達と笑顔で頷きあうと揃ってレイに向き直った。
「では、後ほど」
笑顔で一礼して下がる彼らにレイも安心して笑顔で頷き、ラスティや執事達と一緒にとにかく屋敷の中へ入った。
「ううん、中は暖かいね」
いくら火蜥蜴があたためてくれるとは言え、二の月のオルダムの街はとても寒く芯から冷えるような気温だ。
だが、屋敷の中は意外なくらいに暖かくて驚いた。
「この辺りは、冬は竜の鱗山から吹き下ろす風がまともに当たるので、雪が積もらないのはありがたいのですが相当気温が下がります。なので、暖炉で温められた風を屋敷内に循環させる仕様になっているのです。その為、廊下も部屋の中ほどではありませんが、底冷えがする程には冷えないようになっております。有り難い事でございます」
にっこりと笑ったアルベルトの説明に納得して頷く。
「へえ、そんな仕様になっているんだね。確かにオルダムの冬は底冷えするもんね。屋敷の皆が寒くないようにしてくれてありがとうね」
広い廊下を見回してそう言い、そのままアルベルトの案内で一旦広い部屋に通された。
ここでまずは温かなカナエ草のお茶とお菓子をいただく。
「体が冷えていたから、温かいお茶が美味しいです。そっか、以前ここへ来たのはお披露目会の時だったから、暑い時だったんだよね。以前と全然違うや」
笑うレイの言葉に、アルベルトとラスティも苦笑いしていた。
「では、こちらの部屋にご用意しておりますのでどうぞご覧ください」
お茶を飲んで一休みした後、アルベルトに案内されて部屋を移動する。廊下に出たところで待っていたキルート達と合流してそのまま一緒に案内されたのは、広い部屋で特に大きな家具などが置かれていないためややがらんとした印象だ。
だが、その部屋の真ん中には専用の大きな台に立てかけられた一枚の肖像画が置かれていた。
しかも、その絵はあえて扉とは反対側に向けて置かれていたため、部屋に入っただけではその絵を見られないようにしてあったのだ。
「うわあ。凄く大きいんだね!」
まず、部屋に入ったところでレイがその大きさに驚く。
やや縦長のそれは、すでに見事な額縁の中に入れられていて、その高さは余裕で3メルトを超えている。
「ほぼ等身大で描くのが、屋敷に飾る肖像画の場合は慣例ですからね。レイルズ様の身長ならばこうなるのはまあ当然かと」
笑ったラスティがそう教えてくれて、なんとなく納得する。
確かに、屋敷に飾られている歴代の当主の肖像画も、壁に飾られていて見上げる形だから気づかなかったが、どれもかなり大きなものだ。
「あそこに僕の肖像画が飾られるなんて……うう、絶対直視出来ないよ」
顔を覆ったレイの呟きに、キルート達も苦笑いしている。
「では、どうぞご覧ください」
にっこり笑ったアルベルトの言葉に、一つため息を吐いたレイが小さく頷いて肖像画の正面に回る。
「うわあ、すっごい! 誰、この男前!」
正面に回って自分の肖像画を見上げたレイの開口一番の感想にキルート達が揃って吹き出し、早足で肖像画の正面に駆け寄って行く。
まだ仕上がった肖像画を見ていないラスティも慌ててその後を追って肖像画の正面に回り、こちらは揃って歓声を上げる事になったのだった。




