竜騎士の剣と裏方の仕事
「じゃあ、これもお披露目だな」
笑顔でそう言ったカウリは、目を輝かせて駆け寄ってきた四人に頷き、ゆっくりと竜騎士の剣を抜いた。
紛う事なきミスリルの輝きに一斉に感嘆の声が上がる。
「うわあ……」
「すっげえ……」
「うわあ……」
「す、すごい……」
四人の口からほぼ同時に呟きがこぼれたきり、誰も何も言わずに目の前の抜き身の剣に視線は釘付けのままだ。
やや幅広のそれは片刃と呼ばれる一方だけに刃がついた片手剣で、柄の部分には握った手を守るためのガードがついて、剣先部分が少し湾曲した作りになっているのだ。
そして、柄の部分にはカウリの竜の守護石であるややオレンジがかった大粒のカルサイトが嵌め込まれている。
ただ、他の竜騎士達の剣と違い、その石の周囲だけでなく石の表面部分にも格子状に細工されたミスリルが嵌め込まれていて、硬度が弱く衝撃で割れる危険があるカルサイトをしっかりと守っている。
これは間近で見ないと気が付かない細やかな細工だ。
もちろん、柄やガードの部分に刻まれた見事な細工だけでなく剣に刻まれたあのラトゥカナ文字で書かれた誓いの言葉や、鞘に刻まれた、これまた見事な細工にも四人の視線は釘付けになっていた。
「ミ、ミスリルの剣なら見た事は何度もありますが、これは何と言うか、全てが桁違いだ……素晴らしい……」
呆然と剣を見つめたままのルフリーの呟きに、カウリが嬉しそうな笑顔になる。
「褒めてもらって嬉しいよ。確かにこれは、普通のミスリルの剣とは違うよな」
そう言って軽く片手で構えて見せたカウリの言葉に、四人が全員揃ってコクコクと頷く。
「カウリの剣は、片手剣でちょっと湾曲しているんだよね。やっぱり改めて見るとすごく綺麗だね。いいなあ。僕も早く欲しいです」
無邪気なレイの言葉に、皆苦笑いしている。
「レイの叙任式までも、きっとあっという間なんだろうな。ちゃんと俺達が段取りして、一からきっちり準備してやるからな」
笑ったルフリーの言葉に、二等兵達三人も揃って笑顔で頷く。
「任せろ! 完璧に準備してやるからな」
「まあ、多分また叙任式自体には俺達は参列出来ないだろうけどさ」
「だよなあ。こればっかりはちょっと悔しい」
苦笑いするケイタムの言葉に、レイが目を見開く。
「ええ? 確かカウリの叙任式の時って、お城に勤める第二部隊と第四部隊の人達は後ろに整列していたよ? 皆もあそこにいたんじゃあないの?」
驚くレイの言葉に、顔を見合わせた四人が揃って吹き出す。
「俺達はあの時、現場の後方応援に入っていたから叙任式の表で整列はしていないんだ。もちろん声や音は聞こえていたけど、実際の現場そのものは誰も見ていないんだよ」
「カウリ様の叙任式は見たかった」
「だよなあ。裏方担当だって聞いた時には、割と本気で悔し涙が出たんだよなあ」
「裏方の担当は交代で順番に担当するから式典を選べないんだよなあ。そんなの分かっているから仕方ないんだけど、それでも悔しかったよなあ」
四人が口々にそう言い、顔を見合わせては苦笑いしている。
「ああ、やっぱりそうだったのか。確かに、あればっかりは順に交代で担当するから、どの式典の裏方になるかは時の運だもんなあ」
納得したカウリもそう言い、手にしたままだった竜騎士の剣を見た。
「でも、お前らが用意してくれたおかげで立派に整った舞台に立って、俺がこれを陛下からいただけたんだからさ。皆、本当にありがとうな」
笑ったカウリの言葉に、揃って涙目になった四人がまたしてもコクコクと頷く。
「俺達こそ、こうしてお屋敷に招いてくださって、お嬢様をご紹介くださり、豪華なお菓子やお茶をご馳走になり、更にはこんな間近で竜騎士様の剣まで拝見させていただけました。本当に、本当にありがとうございます。一生の思い出になりました!」
「ありがとうございます! 一生の思い出になりました!」
その場に直立したルフリーの言葉とほぼ同時に、その横に並んで整列して同じく直立した三人の声が続く。
「構わないから楽にしてくれ」
笑ったカウリが、手にしていた竜騎士の剣をそっと鞘に戻す。
「ほら、レイルズの剣も見せてやれよ。それはレイルズが遠征訓練から戻って来た時に、優秀な成績を収めて紺白の新星の勲章を持って帰った彼に、陛下から贈られた剣だぞ」
カウリの言葉に一斉に目を見開いた四人が、レイの胸元にある略綬を見た。
「うわあ、紺と白の略綬だからもしかしてって思っていたけど、やっぱり紺白の新星だったんだ。すっげえ」
「さすがはレイルズ様。紺白の新星って、遠征訓練で最優秀の成績を上げた新人に贈られる勲章だよな」
「最優秀って、レイルズ様凄すぎ!」
「紺白の新星って、新人一年目にしか手に入れる機会がない貴重な勲章ですよね。さすがだなあ」
四人に口々に褒められたレイは、困ったように笑ってから立ち上がって剣置き場に置いてあった自分の剣を手に取って戻り、カウリの隣に座った。
「じゃあ、僕の剣も見てください」
少し恥ずかしそうに笑顔でそう言い、手にした剣をゆっくりと抜いて見せたのだった。




