第六班の面々
「おお、来た来た」
懐かしい第二部隊の制服を着たカウリが出迎えに出て間も無く、ラプトルに乗った一団が街路樹越しに見えてカウリがそう呟いた。
「さあて、あいつらの反応やいかに、だな」
面白がるように笑ったカウリの呟きに、隣に立つ執事が困ったように笑いを堪えていたのだった。
「うわあ、遠くから見てもめっちゃデカい!」
「だよなあ。今からあの中へ入れてもらうんだぞ」
「しかも午前中のお茶会とか。農家出身の俺達に、そんなところで一体何をしろって言うんだよ」
遥か遠くに銀鱗の館の塔が見えてきたところで、ラプトルを止めた彼らは鞍の上で笑いながら楽しそうに話していた。
話しているのは、ケイタム二等兵とジョエル二等兵、クリス二等兵の三人だ。
「だよなあ。でも、主催者がカウリ様で奥方様がチェルシー様で、今日は、正式にはお嬢様のお披露目会なんだぞ。絶対可愛いんだから、ここは遠慮なく褒め倒していいところだよな!」
うんうんと頷きながらそう言ったケイタム二等兵の言葉を聞いて、ルフリー上等兵が笑いながら頷く。
「おう、お嬢様とお屋敷に関しては、どれだけ褒めても絶対に間違い無いから安心しろ。お茶会はまあ……ほどほどに頑張れ。一応最低限の礼儀は聞いてきたんだろう?」
面白がるようなフルリー上等兵の言葉に、二等兵達三人が揃って遠い目になる。
実はカウリからの正式な招待状が第六班の面々に届いた時点で、彼らは急遽上司であるダイルゼント少佐が開催してくれた礼儀作法講習会に駆り出され、毎晩仕事が終わってからお茶のいただき方や最低限無作法にならない程度の立ち居振る舞いなどを教えられたのだった。
もちろんあくまでも一時的な付け焼き刃だがそれでも覚えなければいけない事が山のようにあり、必死で覚えた事が今にもこぼれ落ちてきそうで、もう今から胃が痛くなっている彼らだった。
この中で唯一余裕のある顔をしているのがルフリー上等兵で、彼は実家が小さいが宝石商を営んでいる為、地方貴族との付き合いもそれなりにある。その為、子供の頃に貴族を相手にする際の最低限の礼儀作法は仕込まれている。一応彼もダイルゼント少佐に見てもらって、これなら大丈夫だと唯一褒められたのだ。
「まあ、お茶会の主催者もカウリ様で、場所はカウリ様のお屋敷なんだから、いくらなんでも貴族のような立ち居振る舞いをお前らに求めるようなことはなさらないよ。いざとなったら対応は俺がするからお前らは大人しくしてろ」
「「「はい! よろしくお願いします!」」」
綺麗に三人の返事が重なり、全員揃って吹き出したのだった。
「あの通りに入れば、もう銀鱗の館は目の前だ。いいなお前ら!」
「はい!」
ルフリー上等兵の声に、二等兵三人の元気な返事が返る。
ちなみに今回、第六班に招待状が届いたのはカウリと一緒に働いていた面々だけで、彼がいなくなった後に配属されたドルフィン一等兵や三人の二等兵には、後日お菓子が届いただけで招待状は届いていない。
なので今ここにいるのは四人だけだ。
「まあ、招待された日が、ダイルゼント少佐と一緒じゃあなかっただけ、良しとしないとな」
「だよなあ。いくらなんでも少佐と一緒にお茶が飲めるかって聞かれると……」
「絶対無理!」
これまた二等兵三人が揃って吹き出し、顔を見合わせた三人は慌てて背筋を伸ばしたのだった。
「お、お出迎えに出てくださっているぞ。ん? 第二部隊の制服を着た人がいるなあ。俺達だけかと思ったが、他にも招待客が……ブフォ!」
鞍上で伸び上がるようにして前を見ていたルフリー上等兵が、突然勢いよく吹き出して咳き込む。
「ちょっ、どうしたんですか?」
驚いたクリス二等兵が慌ててラプトルを寄せて咳き込むルフリー上等兵の背中をさする。
「だって、あれ……」
口元を押さえたルフルー上等兵が、必死になって前を指差す。
「いったい誰が出迎えにきているって……あはは! そうきたか! さすがはカウリ様!」
クリス二等兵の笑う声が聞こえたのか、遠くにいた第二部隊の制服を着た人が大きく手を振るのが見えて、残る二人もそこでそれが誰なのかにようやく気がついた。
「カウリ伍長!」
全員の声が揃い、手を振っていたカウリが声を立てて笑うのを見て、顔を見合わせた四人はラプトルを一気に進ませたのだった。
「ようこそ、銀鱗の館へ!」
笑顔で両手を広げたカウリは、懐かしい第二部隊の制服に身を包んでいる。しかし、剣帯に装着されている剣を見て全員が真顔になる。
「お招きいただきありがとうございます!」
とりあえずラプトルから降りた全員がその場で直立して、代表してルフリー上等兵が大きな声でそう言う。
「おう、休んでよし」
にんまりと笑ったカウリの言葉に、休めの体勢になる一同。
「まあ、寒いからとりあえず中に入ってくれ。ほら、こっちこっち」
駆け寄ってきた執事達にラプトルを預け、カウリの案内でそのままお屋敷の中へ入る。
もう全員が緊張のあまり右手と右足が出そうな勢いだ。多分、叙任式に一般兵として参加する時よりも緊張しているだろう。
そんな彼らを見て、こっそり笑いを噛み殺すカウリだった。




