星好き仲間
「ううん、この赤鹿の濃厚な味わいの素晴らしい事。この赤ワインとの相性も抜群だね」
「確かにこれは美味しいね」
ルークの感心したような呟きに、ロベリオ達も赤ワインを手に笑っている。
レイも、分厚く切った目の前の肉を一切れ切って口に入れながら笑顔で何度も頷いていたのだった。
レイ達男性陣の前に置かれているのは、分厚い赤鹿の熟成肉を焼いたもので、スパイスの効いた赤ワインのソースがたっぷりとかけられている。
しかし、女性陣の前に置かれているのは同じ赤鹿の熟成肉だが、ごく薄く切った肉を焼いたものが扇状に盛り付けられている。そしてこの中では唯一未成年であるアミディアの前には、さらに食べやすいようにそれを小さく切り分けたものが用意されていた。
まだ拙い手つきながらも上手にカトラリーを使ってそれをいただくアミディアを、ヴィゴは何度も愛おしげに見つめていた。
「ううん、大満足だね」
デザートまで綺麗に平らげたレイは、小さくそう呟いて食後のカナエ草のお茶を飲んでいたのだが、不意に何かを思い出したかのようにカップを置いてお皿の縁に座って自分を見ているブルーの使いのシルフを見た。
「ねえブルー。さっき出掛ける前に、面白いものが見られるって言っていたけど、あれって何の事?」
『ああ、それは食後のお楽しみだな』
笑ったブルーの使いのシルフの言葉はレイの隣に座っていたルークにも聞こえたらしく、同じくカナエ草のお茶を飲んでいたルークが不思議そうにこっちを見た。
「何々? なんの話だよ?」
興味津々なその様子に小さく笑ったレイは、顔を寄せて今朝ブルーから聞いた、何か面白いものがここで見られるのだと言われた話をした。
「面白いもの? なんだそれ」
カウリにも聞こえていたらしく、彼も不思議そうにしている。
「あれ? 面白いものって、ここのお屋敷にあるものだと思っていたけど……違うの?」
カウリが知らない事に驚き、レイがそう言ってブルーの使いのシルフを見る。
『まあ、本人がどう思うかはまた別の話だからなあ』
完全に面白がる口調のブルーの使いのシルフの言葉はテーブルにいる他の皆にも聞こえたらしく、シルフが見えるマイリー達だけでなく、両公爵夫妻や女性達も不思議そうにしている。
「面白いもの……ですか?」
こちらも分からないらしいチェルシーが、困ったようにそう呟いて考え込む。
「何だ?」
同じく考え込んでいたカウリが、いきなり横を向いて咳き込んだ。これは完全に何かを誤魔化す仕草だ。
「お、思い当たるものがあったみたいだな。で、何を隠しているんだ? ん?」
にんまりと笑ったルークの言葉に、もう一度咳き込むカウリ。そして、その直後にどうやらこちらも何か思い当たるものがあったらしく、横を向いて咳き込むチェルシー。
「ええ、何々?」
「なあラピス。一体何なんだよ?」
ロベリオとユージンが、興味津々でブルーの使いのシルフを見る。タドラも興味津々だ。
『我が今ここでそれが何かを言うのは反則な気がする故、ここは、後ほど御当主殿に直々に案内していただかねばな』
笑ったブルーの使いのシルフの言葉に、もう遠慮なく笑ったカウリが何度も頷く。
「そうだな。あれは俺が案内しないと仕方がないよな。うん、確かに当主の責任だな」
うんうんと頷きながらのカウリの言葉に、不思議そうにしつつも、皆、とりあえず残りのお茶をまずはいただく事にしたのだった。
食事が終われば、カウリの案内で屋敷の中を一通り案内された。
瑠璃の館と同じくらいの広さがあるこの銀鱗の館は、南北に大きく広がるやや縦長の建物で、北側部分の端が高い塔になっている。
「そうそう、ここは元々天体観測をする為の塔だったらしいぞ。塔の一番上にある部屋の窓は、天体望遠鏡を置けるように窓の一部分だけが開くようになっているらしいぞ」
北側の塔部分は今は使っていないらしく、塔に上がる為の階段には大きな扉が設置されていてそれは閉まったままになっているが、カウリはその前で立ち止まってレイを振り返った。
「へえ、それは凄い。ちょっと見てみたいですけど、今は使っていないんですね」
閉じたままの扉を見て、レイが残念そうにそう言って首を振る。
「とりあえず掃除は終わっているけど、何もない部屋だよ。じゃあ今度、個人的に招待するから天体望遠鏡を持って泊まりにきてくれよ。上の部屋を使えるようにしておくからさ」
時々、カウリは兵舎のレイの部屋に天体望遠鏡を覗きに来てくれるくらいには星に興味を示してくれている。レイは何だか嬉しくなって満面の笑みで頷いた。
「呼んでくだされば、いつでも天体望遠鏡を持って駆けつけますよ。あ! それなら一台贈らせてください。扱い方は教えますので!」
「いやいや、安いものじゃあないんだし、そんな無理はしなくていいって」
慌てたようにカウリがそう言って顔の前で手を振る。
「そんな事言わずに覚えてくださいよ。それでせっかくだから、チェルシーにも扱い方を教えて上げてください。輪っかのある星や赤い星はきっと喜んでもらえると思うな」
嬉しそうなレイの言葉に一瞬驚いたように目を見開いたカウリは、笑顔で大きく頷いた。
「確かに。それなら自分で買うから取り扱っている業者を紹介して一緒に見てくれよ。実は一台欲しいと思っていたんだけど、自分で買おうにもどんなのがいいのか分からなかったからさ」
「そうなんですね。もちろん喜んで紹介しますよ!」
「おう、じゃあ本部に戻ったら詳しく教えてくれよな」
笑ったカウリの言葉に、レイも笑顔で胸を張る。
『良かったな。星好きな仲間が増えたではないか』
笑ったブルーの言葉に、満面の笑みで何度も頷くレイだった。




