赤ちゃんと精霊達
「じゃ、じゃあそろそろ食事にしようか!」
まだ赤い顔をした焦ったようなカウリの言葉に、レイ達はもう一度笑ってから揃って立ち上がった。
「仕方がないなあ。それじゃあ、誤魔化されてやるか」
笑ったルークの言葉に、レイ達だけでなく両公爵夫妻やマイリー達も顔を見合わせて笑っていた。
「じゃあ、俺達は食事に行くから大人しくしていてくれよな」
小さなベッドに戻されたオリヴィエ嬢にカウリはもう蕩けそうな優しい声でそう言い、すやすやと眠るその額にそっとキスを贈った。
「あんなに大きな声で泣いていたのに、もう寝ちゃいましたね」
同じくベッドを覗き込んだ笑顔のレイの言葉に、カウリも笑顔で頷く。
「そりゃあ寝るのと泣くのが赤ちゃんの仕事だからな。オリヴィエは良い仕事をしてくれるよ」
「あはは、確かにそうだね。じゃあ凄腕の仕事人?」
「そうだな。確かに凄腕だ」
レイの言葉にカウリも笑って頷き、それを聞いていたルーク達もこっそり吹き出していた。
「じゃあ、お守りをよろしくな」
眠る赤ちゃんの頭上に集まり、ふわふわの髪を撫でたり柔らかな頬に先を争うようにキスを贈り始めたシルフ達に、笑ったカウリがそうお願いする。
『まかせてまかせて』
『大好きだもんね〜〜!』
『すやすやご機嫌』
『おやすみおやすみ』
『可愛い可愛い』
『大好きだもんね〜〜!』
大はしゃぎしながらそう言って胸を張るシルフ達の言葉に、カウリは笑って頷く。
「そっか、赤ちゃんってシルフ達が大好きだって言っていたね。えっと、もしかしてオリヴィエ嬢にはシルフが見えているの?」
以前、エルと初めて会った時にも聞いたが、精霊達は赤ちゃんが大好きでいつも周りにいるのだという。
そして当の赤ちゃんもまだ目が見えない間は精霊達が見えて、やがて目が見えるようになると精霊達の事が見えなくなるらしい。
その事を思い出してそう尋ねると、カウリは笑って頷いた。
「おう、間違いなく見えているな。シルフだけじゃあなく、時々光の精霊達まで目で追っているから。ガンディによると、通常の赤ちゃんよりも周囲にいて面倒をみようとしてくれる精霊達の数が多いそうだ。そういう場合って、成長しても精霊の姿が見える事が多いんだって。それなら嬉しいんだけどなあ」
シルフ達を見上げるカウリの言葉に、レイも思わずシルフ達を見上げた。
「そうなんだね。オリヴィエ嬢と仲良くね」
『もちろん仲良しだよ!』
『仲良し仲良し』
『キスすると笑ってくれるもん』
『大きな泣き声も可愛いの』
『大好き大好き』
『仲良しだもんね〜〜〜!』
『ね〜〜〜〜!』
レイの言葉に、集まってきたシルフ達が嬉しそうにそう言って胸を張る。
それどころか、光の精霊達までが集まってきてシルフ達と一緒になって頷いているし、いつの間にかオリヴィエ嬢が眠っているベッドの横に置かれた小さなテーブルの上にはウィンディーネ達が集まってうんうんと頷いているし、オリヴィエ嬢の毛布の上では小さな火蜥蜴が丸くなっている。どうやら彼女が寒くないように温めてくれているらしい。
そして、ベッドの横に置かれた緑の葉をつけた枝を伸ばす木が植った植木鉢の縁には、何人ものノーム達が現れて座ってこっちに向かって手を振っている。
「もしかして、精霊達総出?」
「おう、生まれてすぐの頃はシルフ達と光の精霊達だけだったんだけど、少し前にかなり冷えた夜があっただろう? あの夜に夜泣きが酷くてさ。もしかして寒いんじゃあないかって俺が何度もオリヴィエに聞いていたら、俺の火の守り役の火蜥蜴が出てきてオリヴィエを温めくれたんだ。それ以来、ああして交代しながらいつも温めてくれているんだよ。おかげで、夜泣きが少し減った気がするんだ」
「へえ、凄いね。でも、彼女が風邪をひいたりしたら大変だから、火蜥蜴達が温めてくれるのなら安心だね」
「おう、いつも思うけど精霊達の助けって有り難いよな」
笑顔のカウリの言葉に、シルフ達だけでなくそれぞれの場所にいた精霊達が揃って得意そうに胸を張ったり手を叩いたりしていたのだった。
その後、カウリの案内で、全員揃って昼食の為に別の部屋へ移動した。
赤ちゃんはそのまま部屋に置いていく。もちろん、お世話係の侍女達や白の塔から派遣されているのだという看護婦達が何人もいてくれるので安心だ。
「では、皆様。本日はお寒い中をようこそ我が館のお披露目会と、年が明けてすぐに生まれた我が娘オリヴィアのお披露目会へお越しくださり、ありがとうございました。ささやかですが昼食をご用意させていただきましたので、どうぞごゆっくりとお召し上がりください」
ワインのグラスを持ったカウリの言葉に、それぞれ手にしたワイングラスを掲げる。レイも笑顔でグラスを掲げた。
案内された部屋には、真っ白なテーブルクロスがかけられた丸いテーブルが並べられていて、綺麗にカトラリーが並べられていた。という事は、用意された料理を自分で好きに取るのではなく、執事達が一皿ずつ用意してくれるいわば正式なお食事会と言う事になる。
丸いテーブルなのは、恐らくだがこういった場に慣れていないチェルシーへの配慮だろう。
何しろ、カウリと並んで席についているチェルシーの横にはディレント公爵夫妻が並んで座り、カウリの反対側にはゲルハルト公爵夫妻が並んで座っているのだから。
笑顔でワイングラスを持ち、挨拶をするカウリを目を細めて見ているチェルシーだが、明らかに緊張しているのが分かって、向かい側に座ったレイまで何だか緊張してしまう程だった。
「我が家と思ってどうぞお寛ぎください。ここでの時間が皆様方にとって良きものとなりますよう願います」
こちらもやや緊張気味のカウリがそう言い、手にしたグラスを高々と掲げた。
「精霊王に、感謝と祝福を!」
「精霊王に、感謝と祝福を!」
カウリの乾杯の言葉に、皆も笑顔で唱和する。
一気に飲み干したワインは、やや甘めだがとても美味しい。
あちこちから感心する声と笑い声が聞こえて、レイも笑顔で追加のワインをいただいたのだった。




