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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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初勝利と出発

「いよいよだね。楽しみだなあ」

 その日、レイは朝食を食べながら、何度もそう言っては嬉しそうに笑っていた。

 今日はカウリの屋敷と、赤ちゃんのお披露目会の日だ。

 今日は、レイはルークと若竜三人組と一緒に行くのだと聞いている。

 一応、怪我でもしたら大変なので今日の朝練はお休みにして、食堂へ来る前に部屋で軽く体を解して柔軟体操だけはしておいた。

「えっと、今日って食事をしたらもう出発ですか?」

 レバーペーストをたっぷりと塗ってからレバーフライを二枚重ねにして挟んだパンを食べていたレイは、今日の時間を聞いていなかった事を思い出して、慌てて口の中のものを飲み込んでから隣に座るルークにそう尋ねる。

「いくらなんでも、そんな早くからは行かないって。一応、昼食を用意してくれているって聞いているから、十一点鐘頃に向こうへ到着するようにここを出るよ。まあ、それまではゆっくりしてくれていいからな」

「そうなんですね。了解です」

 頷いたレイは、まずは残りを黙々と平らげたのだった



 食事を終えてまずは事務所へ行き、用意されていたいくつかの書類にサインをしたレイは、そのあとはルーク達と一緒に休憩室へ向かった。

 マイリー達が出版した攻略本を片手に、時折ルークに助けを求めつつロベリオに相手をしてもらいながら真剣に駒を進めていたのだった。

 最近ではレイもかなり腕を上げていて、なかなかに複雑な駒の進め方をして相手の主要な守りの駒である女王や騎士の駒を取る事に成功したりもして、相手をしてくれるルークやロベリオ達を時折驚かせていた。

 今回も最初は、攻略本を片手に実際に打ち合いながらもある意味レイへの教えの時間だったのだが、せっかくなので一手お願いしますと笑顔のレイが言い、ロベリオ対レイでの対決が始まったのだ。

 ルークはレイの隣に並んで座り、ユージンがロベリオの横に、タドラは対決を横から見学出来るようにテーブルの横にある一人用のソファーに座っている。

「では、よろしくお願いします!」

「おう、よろしくな」

 目を輝かせるレイの言葉に、笑顔のロベリオがそう言ってくれる。

 最初はお互いに自分の陣地を作りながら動き、中盤以降は本格的な駒の取り合いになる。ルーク達はまずは黙って見学するつもりらしく、誰も特に何も言わずに見ているだけだ。

 レイは、幾つかの仕掛けを出来る限りさり気なく行い、ロベリオに気付かれていない事を内心で祈りつつ、必死になって素知らぬ顔で駒を進めていた。



「あれ?」



 お互いの駒が少なくなってきた時、ロベリオが不意にそう呟いて駒を動かす手を止めた。

 レイは素知らぬ顔をしつつも、その心臓は全力疾走した後のように早くなっている。

「待てよ? これって……?」

 幾つかのレイの駒を指を指しながら小さくそう呟いて考えていたロベリオが、唐突に思い切り吹き出して顔を両手で覆ってユージンが座っているのと反対側のソファーに倒れ込む。

「うわあ、これってどこを打ってもその次の手で詰みだよ。やられた〜〜〜!」

「よし! 上手くいった! これで、一対一で初めての一勝だ!」

 ロベリオの叫びとレイの喜ぶ声と同時に、見学していた三人が揃って吹き出す。

「ロベリオ君、ちょっと今のは軽率だったねえ。もうちょっと全体を見て指したまえ」

 呆れたようなルークが、そう言いながらソファーに転がるロベリオの後頭部を指で突っつく。

「俺もそう思う〜〜ってか、これは俺がどうこうって言うよりレイルズの手柄だよなあ。うう、ちょっと冗談抜きで悔しい。お前、いつの間にそんなに強くなったんだよ」

 ソファーに転がってクッションにしがみつきながら、ロベリオがレイを見上げてそう言って泣く真似をする。

「はい、頑張りました! もう、最初はこっちの仕込みに気付かれて反撃されたらどうしようって考えて、思いっきり怖がっていたんです。でもここの僧侶を取った時に、これは絶対に仕込みに気が付いてないって分かって、そこからはもう思い通りに進みすぎて笑いそうになるのを必死で堪えてました!」

「だよなあ。俺もそう思うよ〜〜! これはもう完敗だ! うああ、悔しい!」

「ようやく、一対一での一勝だな。後でマイリーに報告しないと」

 笑ったルークの言葉に、満面の笑みで頷くレイだった。

 そのあとは、先ほどの二人の対戦をルークとタドラが再現してくれて、ロベリオが引っかかった時の仕掛けや、本当ならどう対処するのが良かったのかなどを実戦形式で順に再現しながら教えてくれて、レイはもう必死になって二人の説明を聞いていたのだった。



「そろそろお時間となりますので、出発のご準備をお願いします」

 カナエ草のお茶を飲んで一服したところで執事にそう言われて立ち上がる。

 外していた剣を装着してお互いの背中の皺を直してから、執事の案内で揃って部屋を出る。

 今日は良いお天気なので、馬車ではなくラプトルに乗って出かけるのだと聞きそのまま揃って厩舎へ向かう。

「ゼクス。今日は一の郭のカウリのお屋敷へ行くんだよ。よろしくね」

 久し振りのゼクスに乗ってのお出かけだ。

 レイの言葉にまるで返事をするかのように甘えて鳴いたゼクスを見て、レイは嬉しくなって、そっとゼクスの鼻先にキスを贈ったのだった。



『さて、いよいよ赤子との対面だな。可愛らしい子だよ。楽しみにしているといい』

 軽々とゼクスの背に飛び乗ったレイの右肩に現れたブルーの使いのシルフが笑いながらそう教えてくれる。

「うん。赤ちゃんに会うの、楽しみだね。それに、カウリのお屋敷がどんな風なのかもすっごく楽しみなんだ」

 目を細めてご機嫌でそう答えるレイを見て、ブルーの使いのシルフが笑って何度も頷く。

『まあ、楽しみにしていなさい。面白いものが見れられるだろうからな』

「え? 面白いものって?」

『まあ、これ以上は言わずにおくよ。その目で見て確かめると良い』

 笑ったブルーの使いのシルフにそう言われて、首を傾げつつも笑顔で頷くレイだった。

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