カウリへの贈り物
「レイルズ様、お呼びいただきありがとうございます。カウリ様への出産祝いとの事でしたので、おすすめのものをご用意いたしました。どうぞご覧ください」
「うん、忙しいところをごめんね。よろしくお願いします」
その日の午後、早速クッキーが贈り物のおすすめを山と持って本部へ来てくれた。
笑顔で挨拶するクッキーとこっそり手を叩き合ったレイは、会議室のテーブルに並んだ様々な品を見て感心したようなため息を吐いた。
「うわあ、凄いね。へえ、赤ちゃんの服って、こんなに小さいんだ」
手前側のテーブルに並んでいたのは、赤ちゃん用の服や前掛け、日よけの帽子などだが、どう見てもお人形用としか思えないくらいに小さい。
無邪気に感心するレイをクッキーは笑顔で見ていた。
「お生まれになったのはお嬢様との事ですので、服の色はこの辺りの淡い色がおすすめですね。おくるみは、オルベラート産のレースの付いたものが人気ですよ」
横についたクッキーが、完全に営業の口調でそう教えてくれる。
何枚も並べられたレイの腕よりも小さそうな服を見て、思わず笑顔になる。
「えっと、色々あるので、じゃあまずは一通り見せてもらいますね。正直に言って何を贈ったらいいかなんて、全然分からないから教えてください」
最後は小さな声でいつものように砕けた口調で話す。
「おう、任せろ」
こちらもごく小さな声で笑いながらいつもの口調でそう答えてくれ、目を見交わしてから揃って小さく吹き出した。
「失礼しました。こちらの赤子用の服は何枚か選んでいただいて、こういった箱に入れてお贈りするのが一般的ですね。その際には、服だけでなくこういった前掛けや帽子、靴など、一通りまとめて贈るのもおすすめです」
実際に見本として用意された一式を綺麗に並べて入れてある木箱を見せられ、感心したような声をあげる。
「へえ、好きなのを選んだらそれを組み合わせてこんな風に箱に入れてくれるんだね。これは良いね。うん、これは候補にしよう」
笑顔でうんうんと頷くレイの呟きを聞いて、服担当のスタッフが張り切っておすすめの組み合わせを早速何種類も並べ始めていた。
「こちらはお祝い用のカトラリー、つまり赤ちゃん用の銀食器になります。単品でお選びいただく事も出来ますし、こちらのように何種類かを組み合わせたものもございます。こちらの列は、少しだけミスリルを混ぜてあります。通常の銀食器と違ってほぼ錆びる事がありませんので、お手入れは格段に楽になりますね」
「へえ、ちょっと色が違うと思ったら、これはミスリルと銀の合金なんだ。これも良いね」
普段自分が使っているものよりもかなり小さめなそれらを、また感心したようにそう呟きながら顔を近づけてじっと見つめている。
そんなレイの右肩の上には、ブルーの使いのシルフが現れて座っていて、無邪気に感心するレイを優しい眼差しで見つめている。
クッキーは、訓練所でも見慣れたその大きなシルフに笑顔で一礼すると、特に何も言わずに商品の説明を続けた。
「こちらは、揺り籠や移動式の赤子用のベッドです。もう少し大きくなられたら庭やお部屋で日光浴をなさったりする事もありますから、そういった際にお使いいただく用の物です。まあ、おそらくもうご用意なさっていると思いますが、別の部屋に置いておいて使ったりも出来ますし、予備としてあってもいいものですからお祝いの品としても人気ですね」
そう言って紹介してくれたのは、綺麗に編まれたやや細長いカゴで、大きめの手提げがついている。
また、小さなベッドの下に馬車のような小さな車輪がついていて、手押し車のようになっているものもある。
カゴの中や手押し車の中には、真っ白でふわふわの綿入りの布が敷き詰められていて、カゴの縁には細やかなレースが縫い付けられている物もあった。
「へえ、ここに赤ちゃんを入れて運ぶんだね。それにしても小さいなあ」
次々に紹介される初めて見る品々に、もう感心するしかないレイだった。
次に紹介してくれたのは赤ちゃん用の玩具で、手に持って振ると可愛らしい鈴の音がしたり、木製の格子状の立方体の木枠の中に入った玉が転がって可愛らしい音を立てたりするものなどがある。
また、その横には細長い木箱に入れられた不思議なものがあった。
それは、手のひらほどの木製のお皿の縁に何本もの長めの紐が括り付けられた品で、その紐の途中のところどころに布製の小さな魚や動物、あるいは意匠化された竜などが縫い付けられた品だ。よく見ると木製のお皿の反対側には金具があって、持てるようになのだろう、輪っかのようなものが取り付けられている。
だが、これが何なのかが全く分からず思わず真顔になる。
「えっと、これは何ですか?」
「ああ、それはベッドの上に飾る玩具ですね。見本をご用意していますので、どうぞご覧ください。ここを引いてみると意味が分かりますよ」
笑顔のクッキーの言葉を聞いて、別のスタッフがレイの背丈よりも大きいくらいのハンガーのようなものを引いてきた。そこにはここに並んでいるものと同じものがすでに取り付けられている。
「ベッドの上にこのように置いて、赤ちゃんが見上げた時に見えるようにします」
ハンガーを受け取ったクッキーは、そう言って先ほどの見本の赤ちゃん用のカゴを下に置いた。
「どうぞ、これを引いてみてください」
そう言って渡された長い紐をそっと引いてみたら、何と、吊り下げられた土台の木のお皿ごと飾り紐がクルクルと回り始めた。
「へえ、面白い!」
思わずそう呟いて何度も引っ張って回してしまう。
この玩具はシルフ達に大人気で、レイが紐を引いてクルクルと回す度に歓声を上げて飾り紐を追いかけるシルフ達に、二人揃って思わず吹き出してしまう一幕もあった。
「これは幾つも要りませんからね。候補になさるのなら、カウリ様にお持ちかどうかを確認してからの方がいいですね」
「そうなんだね。えっと、どうしたらいいだろう?」
確認と言われてもどうしたらいいのか分からずに困っていると、笑顔のラスティが進み出てそっとレイの腕を叩いた。
「では、ちょっと確認してまいりますので、お待ちください」
そう言ってから部屋を出ていくラスティを、レイは驚きながら見送る。
しばらくして戻ってきたラスティは、レイを見て首を振った。
「どうやら、お生まれになる前にこれはカウリ様ご本人がご用意なさっていたようですね。残念ですが、これはそう幾つもは要らないものですので、候補からは除外ですね」
「ああ、お手数をおかけしました。では残念ですがこれは無しですね」
クッキーの言葉に、ラスティも苦笑いしていた。
一通り見て回ったが、どれも良くて選べないと困った様に呟くレイを見てクッキーが提案してくれたのは、最初に見た赤子用の服などの組み合わせに、銀食器を加えたものだった。
確かにそれならば見栄えもするし、良いだろう。
用意してくれていたおすすめの組み合わせの中からレイが選び、それにミスリルの合金の銀食器を合わせた。
『ふむ、なかなか良い贈り物になったな』
綺麗に見えるように木箱に詰めてくれているクッキーを見て、ブルーの使いのシルフが笑いながらそう言ってくれた。
「うん、大変だけど贈り物を選ぶのって楽しいね。喜んでくれると良いなあ」
『そうだな。喜んでくれるといいな』
無邪気に笑うレイの頬に、笑ったブルーの使いのシルフは、そっとキスをくれたのだった。




