二の月の予定
「まあそんな感じ。終わりよければすべてよし、って言っていいのかなあ。これ」
レイにもたれたユージンが、大きなため息と共にそう言って手にしたままだったカナエ草のお茶をゆっくりと飲み干す。
「えっと、さっきマイリーが言ったみたいに、結果として支援も全て継続になって、その上、グラディア様が最後になさろうとしていた事業までが新規で立ち上げられたんだから、これは良い結果と言ってもいいんなんじゃあないでしょうか?」
少し考えながらのレイの言葉に、ユージンが笑って頷く。
「だよな。まあ、父上達の苦労も報われたって事にしておくよ。まだまだ、色々とありそうだけどね」
「まだまだ色々と、ですか?」
一人だけ意味が分からずに不思議そうなレイの言葉に、ティミーを含めた全員が苦笑いしている。
「そう、色々と、だよ。まあその辺りは実際に問題が起こればその時にまた教えてあげるよ。具体例を挙げながら教えた方が、誰かさんは覚えが良いみたいだからな」
「はい、お願いします」
笑ったルークの言葉に、目を輝かせて頷くレイだった。
翌日からは、またいつもの日常が戻ってきた。
レイは事務所で資料整理をしたりルークに教えてもらいながらさまざまな書類を書いたり、昼食会や夜会にも出席して竪琴の演奏をしたりもした。
ニーカやジャスミンの事をさりげなく聞かれる機会も増えたが、彼女達に関しては話してもいい事を事前にルークから具体例を挙げて詳しく教えられていたので、レイは大真面目に教えられた通りに答えては、質問者を密かにがっかりさせていたのだった。
二の月に入ってすぐの頃、カウリから一通の招待状が届いた。
屋敷のお披露目を兼ねて赤ちゃんを紹介するので、是非お越しくださいと、流暢な文字で書かれたそれには、二の月の十日から十三日までの日付が記されていた。
「へえ、四日間もあるんだ」
部屋でその招待状を開けたレイは、驚いたようにそう呟く。
「招待者の方々は、竜騎士隊の皆様だけでなく両公爵閣下をはじめカウリ様と親しい方々ですからね。さすがに一日だけでは都合のつかない方もおられるでしょうから、四日間となさったのだと思います。レイルズ様のお屋敷のお披露目の時もそうだったでしょう?」
当然招待状の内容はすでに知っていたラスティが、笑顔でそう教えてくれる。
「そっか、僕よりも間違いなくカウリの方が交友関係は広いだろうからね。確かにそれなら最低でも四日くらいは必要そう」
納得して頷くレイを見て、にっこり笑ったラスティが胸元から手帳を取り出す。
「この件について、レイルズ様のご希望を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょうか?」
招待状を見ていたレイは、突然の質問に驚いて慌てて背筋を伸ばしてラスティに向き直った。
「ああ、どうぞ楽にしてください。そんな難しい話ではありませんよ。この、カウリ様のお屋敷へ行く日程についてなんですが、候補がありますので、ご希望をお聞かせください」
「はい、何があるの?」
わざわざ聞かれる意味が分からなくて首を傾げつつそう尋ねる。
「一つは、初日にルーク様と一緒に行く予定です。この場合は、他にもロベリオ様とユージン様、それからタドラ様が一緒に行かれる予定です」
恐らくそうなるだろうと思っていたので、改めて聞かれて逆に考える。
「えっと、僕はそうなるかなって思っていたんだけど、それ以外があるのなら、僕は誰と行くんですか? マイリーやヴィゴと一緒に?」
首を傾げるレイを見て、ラスティが何故かにっこりと笑う。
「四日目の午前中、城の第二部隊、第九小隊第六班の皆様方がお越しになるそうです。カウリ様から、もしもレイルズ様が第六班の皆と久し振りにお会いになりたいのなら、その日に来てくださっても構わないとの事です。確認しましたが、どちらも特に動かせない予定はありませんから、どちらの日でも大丈夫ですが、いかがいたしましょう?」
ようやく質問の意味が分かって、レイは口を押さえて小さな悲鳴をあげた。
「ええ、そんなの選べないよ〜〜! せっかくだから真っ先に赤ちゃんに会いたいけど、でも第六班の皆とも久し振りに会ってゆっくりお話ししたいです!」
首を振りながらのレイの叫びに、またにっこりとラスティが笑う。
「では、両日共に予定に入れておきます。どうぞせっかくですから楽しんで来てください」
言われた言葉に、レイが驚いて目を見開く。
「え? 両日共に行っていいの?」
「もちろんです。ただし四日目の午前中は、本部から参加なさるのはレイルズ様だけなので、銀鱗の館へはお一人で行く事になります。もちろん護衛の者達は一緒に行きますので、お一人というわけではありませんがね」
「そうなんだね。ありがとうラスティ。じゃあ、せっかくだから両方行かせてもらいます」
「かしこまりました。ではその予定で連絡しておきます」
手帳に書き込んでそう言ったラスティの言葉に、満面の笑みで大きく頷くレイだった。




