本部へ戻る
「えっと、じゃあ僕達は先に戻るね」
「お先に失礼します」
「はあい、それじゃあまたね」
レイとティミーが笑顔で手を振ると、見送ってくれていたジャスミンとニーカは揃って笑顔で手を振り返してくれた。
ニーカとジャスミンは、竜司祭の衣装を着ているのでそのまま帰るわけにはいかず、レイとティミーは彼女達と別れて先に本部へ戻る事にしたのだ。
「サマンサ様、とても嬉しそうでしたね」
部屋を出て廊下を歩きながらティミーが嬉しそうにそう呟く。
「大切なお友達との約束を守れたんだから、本当に良かったよね。それに、体調も良さそうで、お茶と一緒にお菓子もしっかり食べておられたよね。お元気そうで安心した。夏頃はかなり痩せておられて体調も悪そうだったから、実を言うとちょっと心配だったんだ」
真顔になったレイの言葉に、ティミーも真顔で頷く。
「確かに、今日はかなりお元気そうでしたね。でも、ご高齢ですから無理はしないでいただきたいです」
「そうだね。僕らの知らないところで、まだサマンサ様にも何かのお役目があるのかもしれないけど、出来ればゆっくり休んでいただきたいな」
ティミーの言葉に、レイもそう言って小さく頷く。
「ええと、基本的にサマンサ様が公式な公務として担当なさっている事は、もう無いはずです。今回の慈善事業の件にしても、名義上は今でも代表者のお一人にサマンサ様のお名前がありますが、もう実際の業務には一切関わっておられないはずです。活動の報告程度は受けておられるでしょうがね」
「あれ? そうなんだ」
驚いたレイが足を止める。
釣られて立ち止まったティミーが笑顔でレイを見上げる。
「特に皇族の方が慈善事業の代表に名を連ねていただけると、その団体の信用が上がりますので、今でもサマンサ様のお名前を代表者のお一人に戴いている団体は、大きいところでも幾つかあったはずですよ」
「へえ、そうなんだね。ティミーはなんでも知っていて凄いなあ」
無邪気に感心するレイの言葉に、ティミーは苦笑いして首を振る。
「母上も、慈善事業には積極的に参加なさっておられますから、その辺りの事は裏事情も含めてよく話を聞いていましたから。それに、僕も以前は奉仕活動に参加したり、即売会用のカードをたくさん書いたりしていましたよ。竜の主になってからは、カードを書くくらいで実際の活動への参加は無くなりましたけどね」
「そうだね。僕らの立場だと、活動そのものを支援したり、場合によっては主催したりする側だものね」
「そうですね。僕も、成人になるまでにはレイルズ様のように何か一つでもいいから支援活動に名前を連ねたいです」
揃って話しながら歩き出した二人を見て、立ち止まって控えていた案内役の執事もゆっくりと歩き始めた。
「ティミーなら、何に支援したいと考えているの?」
レイは、一歩間違えれば自分がなっていたかもしれない、親を亡くした孤児達への支援をブレンウッドの街で立ち上げてもらい支援している。もちろん他にもいくつもの慈善活動に資金面での援助をしている。
「今回の一件で増額を願い出たけど、具体的にはどんな風になるんだろうね。その辺りは僕には全然分からないや」
「そうですね。じゃあ本部に戻ったら、ルーク様かマイリー様にお願いして今の状況を教えていただきましょう。あの後どうなっているのか、僕も出来れば詳しく知りたいです」
「そうだね。じゃあお願いしてみようか」
笑顔で頷き合った二人は、ちょうど奥殿の敷地を出たところで待っていてくれたラスティと合流する。
ここまで案内してくれた執事に笑顔で手を振り、ラスティと一緒に本部へ戻って行った。
「えっと、ルークは今日はどうしているのか分かる?」
本部への渡り廊下を歩きながらレイがラスティにそう尋ねる。
「今日は朝から、元老院の方々との会議にマイリー様と共に参加なさっておられましたね。少し前に本部にお戻りになられました。先ほど私が本部を出る際には、マイリー様と共に休憩室におられましたよ。お二人で陣取り盤を挟んで何やら真剣にお話をされておられましたね」
笑顔のラスティの言葉に、レイとティミーは顔を見合わせて頷き合う。
「マイリーもいるのなら、きっと詳しく教えてもらえるだろうね。戻ったら休憩室へ直行かな?」
「そうですね。それでいいと思います」
笑顔の二人の言葉に、ラスティが驚いたように二人を見る。
「おや、何かありましたか?」
「えっと、グラディア様の遺された慈善活動について、その後どうなったかなって話をしていたの。ルークかマイリーなら、どうなったかご存知かなって思ったんです。えっと、ラスティは何か知ってる?」
レイの説明に納得したように頷いたラスティは、目の前の本部の建物を見上げて首を振った。
「それならば、先ほどユージン様が本部にお戻りになられていますので、そちらにお聞きする方が早いと思いますね。ルーク様やマイリー様ともお話をされておられましたよ。恐らくですが、お二人が本部に戻られたら、ユージン様の方から詳しくお話しくださるかと思います」
「そうなんだね。確かにユージンなら詳しく知っていそう。じゃあ、教えてもらおうっと」
ラスティの言葉にレイが目を輝かせて頷き、横で聞いていたティミーも納得したようにうんうんと頷いている。
「まだまだ、知らないことがたくさんあるね、もっともっといっぱい勉強しないと」
渡り廊下の柱の段差に座って自分を見ているブルーの使いのシルフに気がついたレイは、笑顔で手を振りながら自分に言い聞かせるように小さくそう呟いたのだった。




