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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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奥殿にて

 翌日の午後、レイはティミーと一緒に執事に案内されて奥殿を訪れていた。

 ジャスミンとニーカは、午前中から奥殿に招かれていたそうで一緒ではない。

 到着した奥殿で待っていたいつもの執事に案内されて通されたのは、いつもの庭が見える広い部屋だ。

 大きな火蜥蜴が番をしている古くて大きな暖炉の前には並べて置かれた大きな毛皮製のクッションがあり、その上ではそれぞれ猫のレイとタイムが並んで熟睡中だ。

「ああ、ここにいたんだね。ううん、お腹がぬくぬくになってる」

 笑って駆け寄ったレイは、完全に脱力している猫のレイのお腹をそっと撫でた。

 薄目を開けてレイを見た猫のレイは、そのままゴロゴロと喉を鳴らし始めた。

「うわあ、ふわふわですね。うちのセージよりこの子の方が毛の量は多そうです」

 笑ったティミーも、嬉しそうにそっと猫のレイを撫でる。一段とゴロゴロの音が大きくなる。

「セージも元気にしているんだね」

「はい、そう言えばこの前、僕が休暇で屋敷に戻った時の話って、しましたっけ?」

 もう一匹タイムを撫でながら、顔を上げたティミーがそう言ってレイを見る。

「え? 何も聞いていないけど、お母上と何かあったの?」

 心配になってそう言いながらティミーを見たが、彼は笑って首を振った。

「いえ、何も問題ありませんのでご心配なく。実は、久しぶりに屋敷に帰ったら、僕、セージに忘れられていたみたいなんです」

「ええ? 何それ!」

 驚きの告白にレイが大きな声でそう言うと、寝ていた二匹が嫌そうに顔を上げて揃って文句を言うようにニャーと鳴いた。

「あはは、うるさくしてごめんね。えっと、そもそも忘れるってどう言う事? そんな事ってあり得る? だって、飼い主だよ?」

 手を伸ばして猫達を交互に撫でてやりつつ、レイは不思議そうにもう一度ティミーを見る。

「屋敷に戻った時、僕の部屋のベッドでセージが寝ていたんです。それで、僕が嬉しくなってセージの名前を呼びながら駆け寄ったら……」

 笑いながら口をつぐんだティミーを見て、レイは不思議そうに首を傾げる。

「えっと、ティミーの部屋のベッドで寝ていたのなら、それはきっとティミーを想って……違うの?」

「全く違います。多分、一番静かで整った部屋がずっと留守な僕の部屋だったみたいです。それで、僕を見るなり飛び上がって一目散に逃げて行ったんですよ」

「ええ、何それ!」

「それで、マーカスと一緒に慌てて追いかけて、階段のところで追いついたんです。だけど本当に僕の事を完全に忘れていたみたいで、目をまん丸にして階段の真ん中辺りで固まっていたんです」

 あまりの事に笑っていいのか同情すべきなのか困っていると、小さく吹き出したティミーがレイの腕を叩いた。

「笑ってくださっていいですよ。それで僕がこうやってセージの鼻先に手を持って行って匂いを嗅がせてあげたんです。それはそれは真剣にしばらく匂いを嗅いだ後、突然目を輝かせて喉を鳴らしながら僕の指に頬擦りし始めたんです」

「何それ。それってもしかして、完全にティミーの事を忘れていて、匂いを嗅いでやっと思い出して、甘えて誤魔化してたの?」

「まさにその通りです。初めて聞くぐらいにすごい喉の音でしたからね」

「あはは、それはちょっと見てみたかったかも。じゃあ、セージに忘れられないように、定期的にお屋敷に泊まりに行った方がいいかもね」

 笑ったレイの言葉に、ティミーも笑いながら何度も頷く。

「はい、まさに僕もそう思いました。なので休暇が終わった後にロベリオ様に相談して、お休みの前の日に、月に一回か二回くらいは一晩だけ屋敷に帰らせていただく事にしたんです。この間帰った時は、ちゃんとお出迎えして大歓迎してくれましたよ」

「よかったね。じゃあ頑張ってお屋敷に帰らないとね」

 レイの言葉に顔を見合わせた二人は、同時に吹き出したのだった。



「まあまあ、セージったら、そんな事になっていたの?」

 その時、笑った優しい声が聞こえて猫達の横に膝をついていた二人が慌てて立ち上がる。

 そこには、笑顔のマティルダ様とカナシア様、そして車椅子に乗ったサマンサ様とティア妃殿下の姿があった。

「し、失礼しました。本日はお招きいただきありがとうございます」

「失礼しました。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

 背筋を伸ばして直立したレイとティミーが、揃って笑顔で挨拶をする。

「二人とも、来てくれて嬉しいわ。さあ、こっちへどうぞ」

 笑顔のサマンサ様の言葉に、レイとティミーも揃って笑顔になる。

 部屋に置かれた大きなテーブルの上には、いつの間にかお茶の準備が整っていて、運ばれてきたワゴンには、何種類ものケーキやお菓子が並んでいる。

「うわあ、これは美味しそう!」

 目を輝かせるレイの言葉に女性陣が揃って吹き出し、部屋は暖かな笑いに包まれたのだった。

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