おやすみの後
「皆、本当にすごいなあ。僕ももっともっとたくさん勉強しないとね」
その日、葬儀を終えて本部に戻ったレイは、着替えている間中、ラスティに今日の出来事をやや興奮気味に語り続けていたのだった。
そして支援の継続をひとしきり喜んだ後に、ようやくいつもの竜騎士見習いの制服に着替え終えてソファーに座った。
当然、ラスティは関係者一同の裏での大騒ぎも含めてほぼ全て知っていたが、そんな様子はおくびにも出さずにレイが話してくれる内容を聞いて一緒になって笑顔で喜んでいたのだった。
話が終わったところで、レイが脱いだ制服を一旦ハンガーにかけたラスティは、にっこり笑ってソファーに座るレイを振り返った。
「ところで、サマンサ様とマティルダ様の連名で、レイルズ様とティミー様、それからジャスミン様とニーカ様宛に奥殿でのお茶会へお招待状が届いております。お茶会は明後日の午後からですので、予定の調整をしておきます」
驚くレイに、もう一度ラスティがにっこりと微笑む。
「恐らく、皇族としてのお立場から見た今回の一件についての詳しい説明をしてくださると思いますので、しっかりと聞いてきてくださいね。ああ、もちろんお茶会そのものは、今回の事が無くてもお招きいただけたと思いますよ」
「そっか。新しくここへ来たニーカの、皇族の方へのお披露目って事だね」
一瞬考えた後に笑顔で頷くレイを見て、ラスティも同じく笑顔で頷く。
「はい。特にサマンサ様から、早く竜司祭のお衣装を纏ったお二人を見てみたいとの仰せだと聞いております。なのでこのお茶会では、奥殿にてお二方には竜司祭のお衣装に着替えていただく予定なのだとか。ですから、もしかしたらジャスミン様とニーカ様は、奥殿へはレイルズ様達とは一緒には行かないかもしれませんね」
「へえ、そうなんだね。以前見せてもらった竜司祭の衣装は本当に素晴らしかったからね」
これ以上ないくらいの笑顔でそう言ったレイが、側にあったブルーの色のクッションを抱きしめる。
「前回のお披露目以降、いくつか装飾品などに変更点があったと聞いておりますから、きっともっと豪華になったのでしょうね」
「そうなんだ。凄い! お茶会は明後日だね。楽しみにしておこうっと」
嬉しそうなレイの言葉に、ソファーの背に座っていたブルーの使いのシルフが笑顔で頷く。
『ああ、我が知る古い時代の司祭や女司祭達の衣装の様子をいくつか詳しく教えてやったからな。あの衣装担当の女性達が、それを聞いて大喜びしていたぞ』
笑ったブルーの使いのシルフの言葉に、レイだけでなくラスティも一緒になって驚きに目を見開く。
「へえ、それってその昔の司祭様や女司祭様の衣装を参考にして、彼女達の衣装の装飾品が変更されたって事?」
『ああ、そうだよ。なかなかに良き衣装になったと思うぞ』
ちょっと得意そうに胸を張るブルーの使いのシルフの言葉にレイは頷き、笑顔でそっとキスを贈った。
「ありがとうね、ブルー。やっぱりブルーは凄いな」
感心したようにそう言って笑ったその時、レイのお腹がクウと大きな音を立てた。
「あはは、お腹が空いたって言ってます」
確かにもうかなり遅い時間になっているので、そろそろ夕食の時間だ。
レイの言葉に、ラスティも苦笑いしながら頷く。そしてその時、タイミングよく部屋の扉がノックされた。
「おおい、そろそろ食事に行くけど着替え終わったか?」
「はあい、もう着替えは終わってます! 今まさに、お腹が空いたねって言っていたところです!」
嬉しそうなレイの返事に、扉から顔を覗かせたルークが小さく吹き出す。
「あはは、腹は正直だな。じゃあ行こうか」
「はあい、今行きます!」
ラスティから竜騎士の剣を渡されたレイは、急いで剣帯に剣を装着してから急いでルークの後を追って部屋を出て行ったのだった。
その夜、おやすみなさいを言ってベッドに入ったレイは、小さなため息を吐いてから枕元にいるブルーの使いのシルフを見た。
「ねえブルー、ニコスは今どうしている?」
ゆっくりと起き上がってベッドに座ったレイの言葉に、ブルーの使いのシルフがふわりと飛んで膝の上へ移動してくる。
『皆におやすみを言って部屋に戻っているよ。水を飲んで着替えを終えたところだ。呼んでやろうか?』
「うん、お願い」
少し真顔になったレイを見て、何も聞かずにブルーの使いのシルフが頷くと、一斉にシルフ達が現れてレイの膝の上に並んで座った。
『ああレイか』
『こんな時間にどうしたんだ?』
並んだシルフ達が、いつものようにニコスの声をそのまま届けてくれる。
「こんな遅くにごめんね。えっと、話しても大丈夫ですか?」
もし疲れているようなら明日でもいいかと思ってそう尋ねたが、伝言のシルフは笑って首を振った。
『もちろん構わないよ』
『まだ眠くないから本でも読もうかと思っていたところさ』
軽い口調でそう言って何かを持つふりを伝言のシルフがする。
『じゃあ軽く一杯飲みながら話そうか』
笑ったその言葉にレイも笑顔になる。
「どうぞ、ゆっくり飲んでください。僕はさっきラスティにおやすみを言ってベッドに座ってるよ。あのね、実はちょっとニコスの意見を聞きたくて連絡したんだ」
最後はちょっと真剣な口調でそう言って伝言のシルフを見る。
『どうした? 何があった?』
一気に真剣な口調になったニコスの言葉に、慌てたように顔の前で手を振る。
「ああ、ごめんなさい。僕に何かあったわけじゃあなくて、貴族の考え方っていうか、その辺りを聞きたかったの。実は今日ね……」
自分に何かあったわけではない事を先に言ってから、レイは今日あった一件を時折ブルーに解説してもらいつつ詳しく話し始めたのだった。




