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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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驚きの才能!

「まだ、どなたもお戻りになられないわね。どうなったのかしら」

 広い部屋の壁際に置かれた大きなソファーに並んで座りながら、分厚い本を手にしたニーカが小さな声でそう呟く。

 昼食の準備をいたしますのでそれまでどうぞこちらへ、と執事に言われて座る場所を移動した三人は、それぞれ読み掛けていた本を読み始めたのだが、やっぱりどうにも集中出来ない。

 ティミーは、改めて目の前に持って来てもらった陣取り盤に向かい、手にした攻略本を見ては何やら真剣に考えながら時折駒を動かしている。

 しばらくその様子を横から見ていたニーカは、ティミーが手を止めてため息を吐いたのを見てちょっとだけ身を乗り出して陣取り盤を見た。

「ねえ、それって一人でも出来るものなの?」

「え? ああ、これ? ええと、今僕がやっているのは攻め方の確認だよ。これは陣取り盤って言って、一対一で互いの陣地と兵を取り合い、相手の王様を倒せば勝ちっていう単純な遊びだよ。でも、簡単だからこそ奥が深いんだ」

「へえ、いろんな形の駒があるのね」

 興味津々なニーカにティミーが嬉しそうな顔になる。

「じゃあ簡単に説明するね。これが王様の駒だよ」

 そう言って、手前側真ん中にある大きな駒を手に取って見せる。

「一番大きな駒ね。じゃあ、これを取られたら負けなのね」

「そう、それでこれが女王、つまり女性の王様だね」

「ええ、王様がいるのに、女王もいるの?」

 無邪気な疑問に、ティミーが堪えきれずに吹き出す。

「あはは、確かに言われてみればそうだね。女王は取られても負けにはならないから、一応扱いは王様の方が上だよ」

 ティミーの答えに感心するように頷くニーカを見て、横ではジャスミンが遠慮なく吹き出していた。

 一通りの駒の説明をした後、ティミーは小さな椅子を持ってきて陣取り盤を挟んでニーカの前に移動して座った。

 せっかくなので、擬似戦で陣取り盤がどんなものかを見せたかったからだ。

 ここで笑顔になったジャスミンがニーカと一緒に陣取り盤を見る。

「じゃあ、私はニーカと一緒に戦わせてもらうわね。一応、父上から駒の動かし方くらいは教えてもらったからね」

「ボナギル伯爵様も、陣取り盤はかなりお好きと聞いています」

「そうね。私はあまり面白いとは思えなかったけど。ああ、こうやって動かすのよ。ほら一番前の兵隊をどれか一つ前に進ませてみて」

 綺麗に並べられた駒を見てから、ジャスミンが笑顔で隣に座るニーカの腕を軽く叩いた。

「どれでもいいの?」

「ええ、最初だからね」

「ええと、じゃあこれ」

 ジャスミンの言葉に少し考えたニーカは、一番端の兵隊の駒を一つ前に進ませた。

 そこから交互に駒を動かし、最初にジャスミンに教えてもらってニーカがティミーの兵士の駒を取る。

「取った駒はもう使えないからここに置いてね」

 笑顔で頷いたニーカが、盤の横にあった小さな箱に取った駒を入れる。

 そこから少し兵士の駒の取り合いになり、ティミーがそれをしながら簡単に防御のための陣を張るのだと説明する。

「つまり、こういう事ね」

 すると、驚いた事にニーカは誰に教えられた訳でもなく自分の王様の周りにいる強い駒をせっせと動かして、数手で初歩的な防御の陣を張ってみせたのだ。

 隣で、それを見たジャスミンが驚いたように息を呑む。

「ええ? ニーカは、戦略や防御についてどこかで習った事があるんですか?」

 平静を装いつつ尋ねるティミーだが、明らかに動揺しているのが分かる。

「戦略と防御? ええと、何それ?」

 無邪気な質問に、ジャスミンがまた吹き出している。

「ええ、全くの無知でこれをされたら、教えている僕の立場が無いなあ」

 苦笑いするティミーの呟きに首を傾げるニーカを見て、口元を押さえたジャスミンが何度も頷いていた。



『おやおや』

『何やら楽しそうな事をしておるな』

 その時、ティミーの右肩に現れた大きなシルフが笑いながらそう言って陣取り盤を覗き込んだ。

「ゲイル。ニーカが凄いんだよ!」

 目を輝かせたティミーの言葉に、笑顔のターコイズの使いのシルフが頷く。

『どうやらそのようだな』

『これは驚きだ』

 いつの間にか、三人の右肩にはそれぞれの竜の使いのシルフが現れて座っている。

『すごいねニーカ!』

 目を輝かせたクロサイトの使いのシルフが、陣取り盤を見ながら興奮したようにそう言ってニーカにキスを贈る。

「だって、動かし方を教えてもらって、王様が取られたら駄目だって聞いたから、これでいいかなって思っただけなんだけど、もしかして正解だった?」

『大正解だよ!』

 やや戸惑うようなその言葉に、クロサイトの使いのシルフが大きく頷く。

「でも、ここからどうすればいいかがさっぱり分からないわ。ねえ、どうするべき?」

 もう兵士の駒の周りにすぐに取れる駒は無いし、他の駒を動かそうとすると作った陣が崩れてしまう。

『じゃあここからは僕が教えるね』

『こっちから攻めればいいんだ』

『この駒を動かすんだ』

 得意そうなクロサイトの使いのシルフがそう言って僧侶の駒を突く。

「ええと、どこへ動かせばいいの?」

 素直に駒を取ったニーカが教えられた場所へ僧侶の駒を進める。

 そこからは、双方の陣を崩すための駒の取り合いが始まった。

 ティミーの背後には少し前に戻ってきたマイリー達が集まってきていて、クロサイトの使いのシルフに教えてもらいつつ無邪気に駒を動かすニーカを、言葉もなく驚きの目で見つめていたのだった。

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