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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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願い

「あの、今のお話って……グラディア様がなさっていた、さまざまな団体や個人への支援金の事ですよね?」

 話が一段落したところで、おとなしく座って聞いていたジャスミンが、意を决したように両手を胸元に握りしめてそう尋ねた。

「ああ、まあ……そうだよ」

 座り直したユージンが、困ったように苦笑いしながら頷く。

「そんな……」

「大丈夫、何とかするから」

 ユージンの言葉に、マイリー達も真顔で頷く。

「でも……」

 小さくそう呟いたジャスミンが、隣に座ったニーカを見る。

 二人は無言で見つめ合った後に揃って大きく頷いた。

「マイリー様、一つ教えていただきたいのですがよろしいでしょうか」

「ああ、何だい? 何でも聞いておくれ」

「グラディア様がなさっていた様々な団体への寄付や支援は、具体的にはどのようにして行われていたのでしょうか?」

 真顔のニーカの質問にマイリーは少し考えてから、彼女にも分かりやすい言葉を使って慈善事業の仕組みや

 実際に携わっている人達がどのようにして動いているのかについて教えてくれた。

 真剣にその説明を聞いていたニーカは、話が一区切りついたところで小さく頷いた。

「あの、私はまだ未成年ですが、私の口座にはかなりのお金が入っていると聞きました。必要な金額に比べれば僅かかもしれませんが、それを使って欲しいです」

「私の口座のお金も使ってください」

 ニーカに続き、ジャスミンまでもが真顔でそう言って二人揃って深々と頭を下げた。

「待ちなさい。気持ちは嬉しいがこれは我々大人の仕事だ。口座のお金は、君達の将来の為に使われるべきものだよ」

 真顔のマイリーの言葉に、顔を上げた二人は笑顔で首を振った。

「昨日ジャスミンから、グラディア様がどのような支援をしてくださっているのか、少しですが聞きました。私には親も兄弟もいません。スマイリーに出会わなければ、一歩間違えれば野垂れ死にしていたかもしれない身です。そんな子達を一人でも救えるのなら、私に出来る事はしてあげたいです。幸い、ここにいれば自分でお金を払うような機会はそうは無いって聞きました。お願いします。僅かですが役に立ててください」

「私も、一歩間違えれば孤児院へ行っていたかもしれない身です。オルダムの父上と母上が守ってくださったから、今の私はここにいます。あの時の私のような子を一人でも助けてあげられるのなら、私だって力になりたいです。お願いします。私達にも何かさせてください!」

 ジャスミンまでが、ニーカに続いてそう言ってマイリーを見た。

 マイリーは困ったようにヴィゴと顔を見合わせ、顔を寄せて相談を始めた。



「僕が先に言おうと思っていたのに、先に言われちゃった」

 その時、ティミーが小さくそう呟いてロベリオの腕をそっと叩いた。

「ロベリオ様、僕も支援に参加したいと思っていました。母上は、グラディア様へ伯爵家としての支援への協賛を行なっていると聞いていますが、それとは別に、僕個人からもお手伝いしたいです」

 ティミーの言葉に、ロベリオとユージンがそろってティミーを振り返る。

「ティミーだってまだ未成年なんだから、無理はしなくて良いって。お母上が充分な支援を行なってくださっているんだからさ」

 ロベリオの言葉に、ティミーは笑って首を振った。

「レイルズ様だって、未成年の時から基金への援助をかなりの金額で行われていると聞いています。そしてなお、その三倍まで追加で出せると言ってくださっているんですから、そんなの聞いたら、僕だって黙っていられません。お願いします」

 そう言って頭を下げるティミーを、ロベリオとユージンは無言で見つめていた。

「ああ、うちの未成年の子達は、どれだけ良い子揃いなんだよ!」

「未成年だった頃の自分を思い出したら、穴を掘って埋まりたくなる気分だ!」

 両手で顔を覆ったロベリオとユージンは情けない声でそう叫ぶと、二人揃ってそのままソファーに置いたクッションに突っ伏した。

 その叫びを聞いて、マイリーとヴィゴとカウリが揃って吹き出し、遅れてタドラとレイも吹き出す。

「了解だ。具体的な金額については今後の展開次第にはなるが、三人も支援予定の人員に入れさせてもらうよ」

 笑いを収めたマイリーの言葉に、ニーカとジャスミンが笑顔で頷き、ティミーはレイと手を叩き合った。

「わがままを聞いていただき、ありがとうございます!」

 笑顔でそう言ってもう一度頭を下げるジャスミンとニーカを見て、マイリーは大きく頷いた。

「まだまだ子供だと思っていたが、雛鳥達が成長するのは本当にあっという間だな。いやあ、見事だ。このままでは、あっという間に俺達は爺いになってしまいそうだよ」

 腕を組んだマイリーのしみじみとした呟きに、またしてもあちこちから吹き出す音が聞こえて、部屋は温かな笑いに包まれたのだった。

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