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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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祈り

「ごちそうさまでした。とっても美味しかったわ。ええと、いろいろ助けてくれてありがとうね」

 用意された食事を残さずいただいたニーカが、食後のカナエ草のお茶も飲み干してから嬉しそうにそう言ってジャスミンを見た。

「どういたしまして。大した事はしていないって。でも後半は、カトラリーの扱い方もかなり上手になっていたわよ」

 笑顔のジャスミンの言葉に、レイも同じ事を思っていたので笑顔で何度も頷く。

「うん、確かにかなり上手になっていたよ」

「ありがとうね。お世辞でも嬉しいわ」

 笑ったレイの言葉に、ニーカがそう言って苦笑いしながら肩をすくめる。

「まあ、こんなのは慣れだから今は遠慮なくどんどん失敗していいよ。そのほうが上達も早いって」

 ルークに笑顔でそう言われて、真顔で頷くニーカだった。

「えっと、午後からは本部を案内するんだって聞いたけど、ルークは行かないの?」

 確かロベリオ達が交代してきてくれると聞いたが、ルークはどうするのだろう。

「おう、ちょっと午後からは俺もマイリーも出ないといけない会議があってさ。だからこの後はロベリオと交代だ。本当ならユージンも一緒の予定だったんだけどな」

「ユージンの大伯母様のグラディア様ですよね。お加減がお悪いと聞きましたが、どうなんでしょうか?」

 レイの遠慮がちな質問に、ジャスミンとニーカが驚いたように顔を上げる。

「ええ! グラディア様のお加減が悪いんですか!」

「ええ! そんな!」

 慈善事業活動に熱心なグラディア様の事は、直接ではないもののお名前程度は当然ジャスミンもニーカも知っていて、彼女がどれだけ街の孤児達の事を気にかけて下さっているのか、そして実際にどれだけ様々な支援活動に援助してくれているか知っている。

 驚いた声を上げて顔を見合わせた二人は真顔で頷き合い、その場で手を組んで目を閉じてグラディア様の回復を祈ったのだった。

「今の私達が神殿へ直接出向くのはいろいろと問題があるわね。じゃあ、あとでここの本部のいつも私達がお掃除をしていた祭壇で、グラディア様の回復を願うお祈りをさせてください」

 しばしの祈りを終えて顔を上げたジャスミンの言葉に、ニーカも真顔で何度も頷く。

「ああ、俺達は、後で神殿へ出向いてグラディア様の回復を願って蝋燭を捧げて来ようと思っていたんだけど、確かにこの時期にジャスミンとニーカが直接神殿へ行くのはちょっとまずいな。了解だ。じゃあ俺達は今から神殿へ行ってくるから、その間に二人は本部の祭壇へ行って気が済むまでお祈りするといい」

「ありがとうございます!」

 真顔でお礼を言った二人は、ルークに一礼してから頷き合い、そのまま執事達の案内で女神の祭壇のある部屋へ早足で向かったのだった。



「えっと……」

 そんな彼女達を見送ったレイが、戸惑うようにルークを振り返る。

「ここへ来る前にユージンから連絡を受けたけど、話を聞く限り、かなりお加減が悪いみたいだ。万一って事態も十分にあり得ると思うぞ」

「そこまでですか?」

 一緒に話を聞いていたティミーも驚いたようにそう言ってルークを見る。

「かなりのご高齢だからな。でも、これに関しては俺達に出来る事なんて、本当に祈る事くらいしか出来ないよ」

 困ったようにそう言ったルークは、一つため息を吐いてからレイを振り返った。

「グラディア様は、サマンサ様の数少ない同年代のご友人のお一人なんだよ。きっと今頃心配しておられると思う。万一の時には、サマンサ様もお力を落とされると思うから、こっちも心配だよ」

 驚くレイに、真顔のルークが頷く。

「万一の際には、行って慰めて差し上げてくれよな」

「もちろん喜んで何でもします。でも、その……慰めるって何をすればいいんですか?」

 レイの短い人生の中で、今のような状況になった事はないので、本当にどうすればいいのか分からない。

 レイはまだ、レイ個人としても竜騎士見習いとしても、誰かの葬儀に出席した事が無いのだ。

 もちろん、葬儀に出席した際にどうすればいいかは習っているが、誰かを亡くして落ち込んでいる人を慰める方法なんてレイは知らない。

「別に何かする必要はないよ。いつものように笑って側にいて差し上げればいい」

 ルークにそう言われて、思わず隣にいたティミーと顔を見合わせる。

「えっと……」

「僕もそう思います。万一の場合、人をやってサマンサ様のご様子を確認しておく方がいいと思います」

 戸惑うレイを見て、真顔になったティミーがそう言って頷く。

「さすがにティミーは分かっているな。まあ、冗談抜きで万一の場合は、奥殿からお前に何か言ってくると思うから、その時は言われた通りにすればいいよ。ちょっと予定の確認をしておくほうが良さそうだな」

 小さくそう呟いたルークは、残っていたカナエ草のお茶を飲みした。

「じゃあ俺達も、まずは神殿へ行って蝋燭を捧げてこようか。恐らく神殿は人でいっぱいだと思うから、早々に戻って来よう」

 立ち上がったルークの言葉に頷きタドラも立ち上がる。それを見て真顔で頷き合い、揃って立ち上がったレイとティミーだった。



 一方執事に伴われて見慣れた部屋に到着したジャスミンとニーカは、二人揃って祭壇の準備を整え始めた。

 まずは大きい方の燭台を引き出しから取り出して、いつもの燭台と交換する。

 そして用意されていた大きい方の蝋燭を取り出し、それを燭台に差し込んで準備を整える。

「じゃあ、私がつけるわね」

 ニーカがそう言って、そっと蝋燭の先を指で触れていく。

 ニーカの火の守り役の小さな火蜥蜴が指輪からするりと出てきて、蝋燭に火を灯していく。

 全部で十二本の蝋燭に火を灯したニーカは、ジャスミンの隣に並んで二人揃ってそれはそれは真剣な様子で祈り始めた。

 火を灯した大きな蝋燭が燃え尽きて消えるまで、ニーカもジャスミンも顔を上げる事なくずっと祈り続けていて、そんな二人を窓辺に座ったクロサイトとルチルの使いのシルフ達が揃って心配そうに見つめていたのだった。

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