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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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勉強会の始まりとニーカの頑張り

「頼りにしてるわ、ニーカ!」

「頼りにしてるわ、ジャスミン!」

 顔を見合わせて吹き出した二人の口からもう一度全く同じ言葉が出て、もう一回二人が揃って吹き出す。

「やだもう、ニーカったら!」

「やだもう、ジャスミンったら!」

 何故か同時にお互いの口から出る全く同じ言葉に、二人はもう笑いが止まらない。

「何? ずいぶんと楽しそうだね」

 その時、笑ったレイの声が聞こえて笑い転げていた二人が揃って顔を上げる。

「ああ、レイルズ」

「ああ、レイルズ」

 またしても同じ言葉が同時に出て、また揃って吹き出す二人。

「あ、言葉が同じだ。仲良しだねえ」

 彼女達が何を笑っているのか分かったレイが面白がるようにそう言い、納得したタドラとルークも笑顔になる。

「ずいぶんと楽しそうだな。だけど今からはもっと楽しいお勉強の時間だぞ」

 にんまりと笑って書類の束を見せたルークの言葉に、また仲良く顔を覆った二人の口から全く同じ悲鳴が上がり、今度は全員揃って吹き出す事になったのだった。

「はあ、お腹痛い」

 しばらくしてやっと笑いが収まったところでジャスミンがお腹を押さえながら小さくそう呟く。

「はあ、お腹痛い」

 しかしそれと同時にニーカもお腹を押さえながら全く同じ言葉を呟いたものだから、またしても顔を見合わせた二人が揃って吹き出してしまい、どうにも笑いが止まらない二人だった。



「はあ、失礼しました」

 ようやく笑いが収まったところで、ジャスミンがそう言ってルーク達に向かって深々と頭を下げる。それを見たニーカも慌ててそれに倣って深々と頭を下げた。

「構わないから楽にしていて。じゃあしばらく時間を取るから、まずはこの辺りの資料に目を通してもらえるかな。これから先、自分達が学ぶ事が簡単にまとめてあるからね」

 分厚い書類の束を目の前に置かれて、ニーカは密かにため息を吐きつつ隣のジャスミンを伺う。

 真剣な顔をしたジャスミンは、目の前に積まれた書類を上から取って黙って目を通し始めた。

 もう一度密かにため息を吐いたニーカも、目の前の書類を上から取って黙って読み始めたのだった。

 並んでソファーに座って書類を読み始めた二人を見て、ニーカの隣にレイが、ジャスミンの隣にはティミーが座って、同じく渡された資料を真剣な様子で読み始める。

 ルークとタドラは、そんな四人を見て笑顔で頷きあうと、この後に使う資料をせっせとテーブルの上に並べ始めた。



 しばらく無言の時間が過ぎ、聞こえて来るのはそれぞれの小さな呼吸音と書類をめくる音、そして時折聞こえる小さなため息だけだった。

「ねえ、レイルズ。これってどう言う意味か分かる?」

「ああ、それはね……」

 ジャスミンは特に何も言わずに渡された資料を黙って読んでいるが、ニーカは時々分からない言葉や文章があるらしく、隣に座るレイに遠慮がちな小さな声で質問している。

 今の所、レイでも分かる質問なのでなんとか教えてあげられているので、ルークとタドラは特に何も言わずにそんな二人を黙って見ている。

 ニーカの右肩にはクロサイトの使いのシルフが座って一緒に書類を読んでいるが、こちらも特に何か言う事はせずに、ニーカがレイに何か質問しても黙って見ているだけだ。

 それぞれの竜の使いのシルフ達も来ていてそれぞれの主の肩や頭の上に座っているが、こちらも特に何か言うような事はせずに黙って一緒に書類を読んでいる。



 ニーカよりも先に資料を読み終えたジャスミンは、一つ深呼吸をしてから置いてあった自分のノートを取り出して何やら真剣な様子でメモを取り始めた。

「何をしているんですか?」

 それを見たティミーが、ごく小さな声でジャスミンに尋ねる。

「うん、この資料を読んでみて質問したい事や、読んでいて分からなかった部分をとりあえず忘れないうちにメモしておこうと思って。こうしておけば後で質問出来るでしょう?」

「ああ、それはいいですね」

 彼女のメモを横から覗き込みながら、ティミーがうんうんと頷いている。

「ジャスミンは凄いなあ。私なんて読むのが精一杯で、読んだ端から全部こぼれ落ちちゃってるわ」

 大きなため息を吐いたニーカの言葉に、顔を上げたジャスミンは小さく笑って首を振った。

「そりゃあニーカと私だと、元々持っている基礎知識が違うもの。今もらった資料に書かれている事の半分くらいは、今までに簡単にでも教えてもらったり聞いた事があったりしたからね」

 特に、渡された資料の最初に詳しく書かれた竜の主の義務と責任、そして求められる役割については、ジャスミンはここへ来て以降にタドラやマイリー、そしてルークからかなり詳しく聞いているので、軽く読み流せたのだ。

「そりゃあそうかもしれないけど……ううん、やっぱり私の頭はあんまり良くない気がするわ。全然覚えていないもの。もう一回初めから読み直そうっと」

 もう一度ため息を吐いたニーカは、そう言って手にした書類の最初の一枚目を取り出して改めて読み始めた。



 ところが、しばらく読み進めていたニーカが、驚いたように何度か目を瞬いてからルークを見た。

「ん? どうかしたかい? 質問ならいつでも受け付けるよ」

 それに気付いたルークが、笑顔でそう言ってニーカの手元を覗き込む。レイも驚いたようにニーカの手元の資料を横から覗き込む。

「いえ、さっきはもう読むのに必死でほとんど読んだ内容が頭に残らなかったと思っていたんですけど……今改めて読み直したら、意外に内容が理解出来ていてちょっと驚いたんです」

「ああ、成る程。二回読んで、初めて読むこの内容が少しでも理解出来るのなら充分優秀だよ」

 笑ったルークが安心したようにそう言い、手を伸ばしてニーカの頭をそっと撫でてくれた。

「ありがとうございます。お世辞でもそう言ってもらえたら嬉しいです」

 機嫌の良い時の竜のように目を細めたニーカは、嬉しそうにそう言って自分の頭を撫でてくれていたルークの腕にそっと触れた。

「私、ここへ来た初めの頃は、自分に向かって伸ばされる男の人の大きな手が怖かったんです。だって、私の知るそれは、いつだって私を殴ったり酷い目にあわせるだけの手だったから。だけど、だけどこの国へ来てから何人もの人に頭を撫でてもらって、撫でるために伸ばされる手の暖かさと嬉しさを知りました。もう怖くないです。撫でてもらえてすっごく嬉しいです」

 驚いたように目を見開いたルークは、なんとも言えない顔をしてもう一度ニーカの頭を撫でてくれた。

「ここには、もう君を殴ったり酷い目に遭わせるような奴はいないよ。だから安心してしっかり学んで、そしてしっかり遊んでおくれ」

「はい、頑張りますのでよろしくお願いします!」

 笑顔のニーカの言葉に、もう一度ニーカを撫でてやったルークも笑顔で大きく頷いたのだった。

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