お疲れ様の夜
「お疲れ様でした。おやおや、今夜はかなりお飲みになられたようですね」
無事に夜会が終わり、若竜三人組は同年代の友人達と飲み直すのだと聞いて会場を出たところで別れたレイは、迎えに来てくれたラスティと一緒に本部へ戻った。
「うん、歌もお酒もたくさんあって、とっても楽しかったんだよ。初めて飲むワインがたくさんあったんだよ。えっとね、皆がこれが美味しいよって言って、色んなワインを勧めてくれたの。途中までは、何杯飲んだか数えてたんだけど……途中で、わからなくなっちゃったの。でも、かなり飲んだと思います!」
赤い顔をしてご機嫌なレイは、足元こそまだしっかりしているが確かにかなり飲んでいるように見える。だが、酔い潰れるほどではないと見たブルーは、今回は特に手出しをする事もなくレイの右肩に座ったまま、酔っ払ったレイの様子を楽しそうに見ているだけだ。
もちろん、ラスティには今のブルーの使いのシルフは見えていない。
「そうですか。楽しかったのなら良かったですね。では戻りましょう」
笑顔でそう言ったラスティは、レイの横に並んで歩く。
普段は前に立って先導するのだが、今のレイはかなり酔っているので万一にも足元がふらついて転ぶような事があった時に、即座に支える為だ。
そんなラスティの様子を見て、手の空いていた数名の執事がさりげなく彼らの後ろをついて行った。万一にも、レイが転んで怪我をするような事があってはならないからだ。
「えっとね、ヴァイデン侯爵様が教えてくださった貴腐ワインがね、すっごくすっごく美味しかったの。僕が気に入ったって言ったら喜んでくださってね。えっと、それは閣下が個人的に気に入って支援しているワイナリーのワインなんだって。えっとね、それで今度本部に送ってくださるんだって。届いたら、お礼を言わないとね!」
ご機嫌なレイの言葉に、ラスティは驚きつつも笑顔で頷いた。
「ヴァイデン侯爵閣下ですね。かしこまりました。確認しておきます」
「うん! お願いします! おっと危ない!」
本部への渡り廊下を歩いていて、不意に足元がフラフラして近くにあった柱に手をついたレイを見て、ラスティが即座に背中に手をやって支える。
「うん、ありがとうね。大丈夫だよ!」
ご機嫌な様子でそう言って笑っているレイは、しかしあまり大丈夫そうには見えない。
「はい、大丈夫ですね」
苦笑いしたラスティがそう言い、レイの背中を叩いて歩くように促す。
素直に歩き始めたレイを支えながら、ラスティもそのままゆっくりと歩調を合わせて歩いた。
ようやく本部の建物に入ったところで、待機していた本部付きの執事達がすぐに駆け寄ってきてレイを支えてくれた。二人の後を付いて来ていた執事達は、それを確認してからお城へ戻って行ったのだった。
そんな彼らを見送ったブルーのシルフは、苦笑いしながらレイの後を追って行った。
『レイ、ちょっと飲みすぎたな』
ラスティにも聞こえるようにブルーの使いのシルフが話しかける。
「えへへ、だってどれも美味しかったんだもん」
嬉しそうに笑ったレイが、そう言ってブルーの使いのシルフをそっと撫でる。
「演奏も楽しかった。でも、出来ればあれは客席で聴いていたかったなあ」
『自分の演奏を客席で聴くのは、我にも難しい事よのう』
面白がるようなブルーの答えに、ラスティは笑いを堪えるのに苦労していたのだった。
「はあ、到着〜〜!」
兵舎の部屋に到着したところで、レイはご機嫌でそう言ってそのままソファーに倒れ込んだ。置いてあったブルーの色のクッション抱きつく。
「レイルズ様。お休みになられるのでしたら、剣帯を外して上着を脱いでからお寛ぎください」
困ったように笑ったラスティがそう言って、ソファーに転がっているレイからまずはブルーのクッションを引き剥がし、剣帯を外して上着を手早く脱がせた。
ご機嫌なレイは、されるがままだ。
さすがにこれは一人で湯を使わせるのは危険と判断したラスティは、しばらく休ませてからレイを湯殿へ連れて行き、体を清めるのを手伝ってやった。
ラスティにされるがままなレイの様子を見たブルーの使いのシルフは、シルフ達に命じて湯上がりのレイの濡れた髪を乾かすのを手伝ってやったのだった。
「では、おやすみなさい。明日も蒼竜様の守りがありますように」
ベッドに横になったレイに、ラスティが額にキスを贈っていつもの夜の挨拶をする。
しかしいつもなら返ってくる返事はなく、代わりに聞こえてきたのは穏やかな寝息だった。
笑ってもう一度額にキスを贈ったラスティは、すっかり熟睡しているレイの胸元まで毛布を引き上げてやってから灯りを消して部屋を出ていった。
それを見送ったブルーのシルフは、軽く指を鳴らして部屋に結界を張るといつもの癒しの歌を歌い始めた。
呼びもしないのに集まってきたシルフ達は、毛布の上やベッドの横に置かれた小さなテーブルの縁に並んで座り、そのブルーの優しい歌声にうっとりと聞き惚れていたのだった。




