ご夫人達とレイ
「優しき風が運びしは」
「精霊達の祝福か」
「優しき風が運びしは」
「精霊達の悪戯か」
「蒼天の空を連なりて」
「征くは渡りの鳥達よ」
「また戻れよと祈り送る」
「愛しき命に祝福を」
「愛しき吾子に祝福を」
「聖なる光の祝福を」
「聖なる吾子に祝福を」
ハーモニーの輪とエントの会の全員が参加しての見事な合唱で古の子守唄を歌い終えたレイが、最後に幾つかの和音を響かせて演奏を終える。
会場に響いていた音が途切れた瞬間に大きな拍手が沸き起こり、竪琴を抱えたまま立ち上がったレイは満面の笑みで深々と一礼してから舞台から下がろうとした。
しかし観客達から手拍子が始まりもっと聞きたいとの声が上がる。
「えっと……」
まさかのここでのアンコールに、何も考えていなかったレイが困ったように場内を見回す。
「レイルズ様、それならば、地下迷宮への誘いはいかがですか?」
レイに近い位置にいたハーモニーの輪の会員でもあるミレー夫人がそう言ってくれ、ハーモニーの輪とエントの会の人達も皆、笑顔で頷いてくれたのを見てレイも笑顔で頷く。
「ありがとうございます。ではもう一曲だけ歌わせていただきますね」
改めてそう言い椅子に座り直したレイを見て、手拍子が静かになりかける。
しかし、笑顔のレイが弾き始めた曲を聴いて顔を見合わせた人達は笑顔で頷き合いまた手拍子が始まった。
合唱団の方々の見事な歌声とレイの歌声、そしてレイ演奏する竪琴の音が場内に響きわたり聴いていた会場内の人達までが一緒に歌い始める。
久し振りに歌った地下迷宮への誘いはそれは見事な合唱となり、最後は会場の人達までもが参加しての大合唱になったのだった。
「ありがとうございました!」
歌い終えて満面の笑みで演奏を終えたレイに、会場中からの大きな拍手が送られたのだった。
「お疲れ様。いやあ見事な演奏だったね」
「うん、聞き惚れたよ」
「合唱の倶楽部の最高峰と名高いハーモニーの輪とエントの会の両方を従えての演奏と歌だったんだからな。いやあお見事でした」
竪琴を楽器担当の執事に預けたレイが会場に戻ったところで、若竜三人組が笑顔でそう言いながら出迎えてくれた。
「はい、すっごく気持ちよく演奏させていただきました!」
「この贅沢者が〜〜〜!」
笑ったロベリオに脇腹を突っつかれて、悲鳴を上げたレイが慌ててタドラの後ろへ逃げる。まあ、体格差のせいで全く隠れられてはいなかったのだけれど。
「全然隠れられてないから意味ないって。ほら、これ好きだろう?」
笑ったユージンが、近くにいたワイン担当の執事から貴腐ワインをもらってレイの目の前グラスを差し出してくれる。
「ありがとうございます。ちょっと喉が渇いていたんですよね」
嬉しそうにそう言ったレイが、差し出されたグラスを受け取る。
「見事な演奏と有能な後輩に乾杯!」
「見事な演奏と有能な後輩に乾杯!」
「見事な演奏と有能な後輩に乾杯!」
同じく貴腐ワインの入ったグラスを掲げたロベリオが、笑顔でそう言ってレイの肩を叩く。
ユージンとタドラも、同じく貴腐ワインの入ったグラスを掲げて笑顔でロベリオの言葉を唱和する。
「頼り甲斐のある先輩方に乾杯!」
それを聞いてもうこれ以上ない笑顔になったレイがそう返して、ワインを飲んでから顔を見合わせた四人全員が揃って吹き出したのだった。
「おやおや。仲がよろしい事」
笑みを含んだ優しい声に四人揃って振り返ると、そこにはミレー夫人をはじめとした婦人会のご婦人方が並んでこっちを見ていた。
それを見た若竜三人組が、無言で少し下がってレイから距離を取る。
「ああ、見事な歌をありがとうございました。おかげですっごく楽しかったです!」
婦人会の中にはミレー夫人をはじめハーモニーの輪の会員が何人もいる。
笑顔のレイの言葉に暖かな笑いが起こり、改めて用意してもらった貴腐ワインでもう一度乾杯する。
そのままワイングラスを片手に夫人達と楽しそうに談笑するレイを見て、若竜三人組の面々は揃って感心するようなため息をもらした。
「いやあ、魔女集会と名高い婦人会の面々と、あそこまで楽しそうに話が出来るあいつを冗談抜きで尊敬するなあ」
「だよなあ。あれだけのご婦人方に取り囲まれたら、俺なんて怖くて泣き出すぞ」
「だよね。僕も絶対に無理だと思うなあ」
少し離れたところで苦笑いしつつそう言ってうんうんと頷き合う若竜三人組の周りでは、同じように苦笑いしつつ密かに頷いている男性達が何人もいたのだった。
『何を言っておるか』
呆れたようなブルーの使いのシルフの言葉に、揃って誤魔化すように笑っているロベリオ達だった。




