贈り物の数々
「じゃあ、私達は本部の部屋に戻りますね。お仕事ご苦労様です」
離宮の湖へ戻るブルーを見送った笑顔のジャスミンがニーカの手を取ってそう言い、それを聞いたタドラも笑顔で頷く。
「うん。もう今日のところは何も予定を入れていないから、後はもう兵舎の四階の部屋でゆっくりしてもらって構わないよ。明日はいくつか注意事項の説明やここの本部の中を案内をするから、資料を持った僕が、マイリーかルークのどちらかと一緒に行くからね。朝食は部屋に用意してもらってあるから、それを食べたら本部の四階にある休憩室で待っていてください」
「分かりました。では、改めましてこれからよろしくお願いします!」
笑顔のニーカの言葉に、皆も笑顔になる。
「うん、僕の方こそよろしくね。大変な事だらけだろうけど、一つずつ覚えていこうね」
タドラの言葉に、もう一度笑顔で頷き改めて頭を下げたニーカだった。
護衛の者達や執事達に取り囲まれて、兵舎にある部屋に戻るジャスミンとニーカを見送ったレイ達は、そのまま全員揃って食堂へ向かい、遅い昼食をいただいたのだった。
「ニーカの歓迎会を、そのまま昼食会にすればよかったのにね」
山盛りに取ってきた燻製肉とレバーフライを食べながら、ふと思いついたようにレイがそう言ってロベリオ達を見る。
「確かに時間的には昼食会にするのがよかったんだろうけど、まだニーカにはちょっと難しいかなと思ってね。それでもう少し気楽なお茶会にしたんだよ」
同じくらいに山盛りに取ったレバーフライを豪快にパンに挟んだタドラの言葉に、レイは納得して自分のお皿の横に座っているブルーの使いのシルフを見た。
『まあそうだな。まだまだニーカのそういった礼儀作法への知識はごくごく初歩の段階だ。なのにここへ来てすぐに、いきなりルビーの主を含む竜騎士達全員との昼食会と言われたら、恐らく何も食べられないくらいに緊張しただろうな』
苦笑いするブルーの使いのシルフの言葉に、ロベリオ達も同じく苦笑いしながら何度も頷いていたのだった。
「えっと、じゃあ僕がここへ来た最初の頃に教わったみたいに、ニーカも礼儀作法については、まずは部屋で練習するんだね」
「そうだな。まずは食事に関する礼儀作法を改めて一からみっちりと教えて、その次に最低限の会話や挨拶などの知識。一応ダンスも一通りは覚えてもらう予定だよ。彼女が社交会へ参加するかどうかについては、言ったようにまだ決まっていない部分も多いんだよね。まあそっちは、ルーク達がニーカの様子を見ながら決めてくれるだろうけど、一応社交会にも出るって前提で一通りの事は勉強してもらうよ」
「うわあ、ニーカ大変! 頑張って〜〜」
悲鳴をあげるレイを見て、ロベリオ達も揃って笑っていたのだった。
レイの場合は、ここへ来た時点で最低限の礼儀作法はニコスから教わっていたので、多少混乱はしたが全くの無知の状態で一から覚えたわけではない。
でも、ニーカはディレント公爵閣下が寄越してくれた執事から礼儀作法を習っているとは言っていたが、それはある意味説明だけに近く、ほぼ実践については未経験と言ってもいいくらいだろう。
これからのニーカが覚えなければならないたくさんの事を考えて、ちょっと気の毒になったレイだった。
食堂から戻った後は、ロベリオ達と一緒に事務所へ行って日報を書いたり、ロベリオ達に教えてもらって報告書を書く練習をしたりして過ごした。
「うわあ、なんだかすっごくたくさん荷物があるけど、これは何ですか? 片付けるなら手伝います」
ジャスミンと一緒に兵舎にある自分に用意された部屋に戻ったニーカは、見た事もないくらいに積み上がった大小の木箱の山を見て、驚いたようにそう言いながら侍女頭であるシモナを振り返った。
「とんでもございません。片付けは我らが致しますので、ニーカ様とジャスミン様は、こちらへお座りください。どうぞ」
大きなソファに、言われた通りに二人並んで座る。
釘抜きを手にして進み出てきた執事を見て、ニーカは興味津々だ。
「まず、この荷物が何か分かる?」
しかし、ジャスミンが執事を軽く身振りだけで止めてから、にっこりと笑ってニーカに向き直る。
「ええと……分かりません」
改めて聞かれて、少し考えたニーカは、肩をすくめて困ったように小さな声でそう言ってジャスミンを見る。
「これは、竜騎士隊の皆様やディレント公爵閣下から届いた貴女への贈り物よ。いわば歓迎の贈り物ね。私も初めてここへ来た時に、皆様からたくさんの物を頂いたわ」
これが全部自分宛だと聞き、驚きに目を見開くニーカ。
「では、失礼して開けさせていただきます。まずこちらの木箱五個は、ディレント公爵閣下より届いております品物でございます」
笑顔で一礼した執事が、そう言って手前側に積み上がっていた木箱を下ろし、順番に釘を抜いて蓋を開けていく。
「これは見事な鏡台ね。花の模様がとても可愛いわ」
感心したようなジャスミンの呟きに、ニーカは感激の声を上げていた。
木箱から取り出されたのは、やや小さめのテーブルの上に置ける綺麗な金属製の鏡台で、小さな引き出しが下側の台の部分に作り付けられている。
部屋にはニーカの背丈よりも大きな三面鏡があるのだが、この小さな鏡台は部屋のどこへでも持っていけるものだと説明され、もう感心するしかない。部屋に三面鏡があるのだから、鏡が見たければそこへ行けばいいと思うのだが、これはソファーに座ったままでお化粧をする為のものだと説明されて、驚くニーカだった。
竜騎士達からの贈り物は、さまざまな宝石をあしらった装飾品をはじめ、ドレス用の生地や大量のレース、それから綺麗な金線が入ったポットとカップのセットや花瓶などもあり、一つ開けるたびにジャスミンは感心したように声を上げてからこれが何をするものなのかをニーカに詳しく説明して、聞いていたニーカはもう途中からはほぼ放心状態で、コクコクと頷く事しか出来ないでいたのだった。
「うわあ、これは綺麗ね。装飾文字用のペンセットだわ。こっちの天球儀と一緒に、これはレイルズからなんですって」
ジャスミンの言葉に、放心していたニーカが目を輝かせて身を乗り出す。
「へえ、天球儀なのね。これって、神殿の夏至や冬至の際に祭壇に大きな天球儀が飾ってあるのを見た事があるけど、あれとは少し違うわね。まあ、神殿にあった天球儀は遠くから見ただけだから、詳しくはないわ。ええと、レイルズによると、天球儀は空の星を分かりやすく作ったものらしいけど……ううん、何が何だかよく分からないわね。今度レイルズに教えてもらわないと」
天球儀を見て嬉しそうにそう言ったニーカは、ジャスミンと顔を見合わせて小さく吹き出してから、テーブルに並べられた装飾文字用のペンを手にした。
「本当に嬉しい。すっごく綺麗ね。後でレイルズや皆様にもお礼を言わないと」
そして、最後に取り出された小さな小箱から出てきた竜の細工の入ったオルゴールの送り主を聞いて、ジャスミンと二人揃って大喜びしたのだった。




