贅沢な暮らしとは?
「えっと、この後は着替えたニーカとジャスミンを招いて歓迎のお茶会があるって聞いたけど、何処でするんですか?」
竜騎士隊の本部へ引っ越してきたニーカを出迎えたレイ達だったが、まずは彼女を着替えさせるのだと言ってジャスミンと一緒にニーカは兵舎の四階にある彼女の為に用意された部屋へ行ってしまった。
なのでレイ達は、一旦いつもの本部にある休憩室に戻ってきたところだ。
見る限り休憩室はいつも通りなので、ここでするのでは無いみたいだ。
「ああ、今日は別に部屋を用意してもらっているから、歓迎会はそっちでするよ」
「えっと、降誕祭の時にディーディー達や、ティミーやジャスミンやヴィゴのご家族を招待した時に使ったあの広いお部屋ですか?」
「いや、あれとはまた違う来客用の部屋だよ」
レイの質問に、振り返ったルークが教えてくれる。
「へえ、知らない部屋がまだあったんだね」
感心するように笑ったレイの言葉に、ルークも苦笑いしている。
「まあ、ここの階は確かに来客用の部屋が大小幾つもあるからなあ。しかもここへ招待するのって基本的に竜騎士の身内やよほど親しい者達のみだから、特に広い部屋は本当に滅多に使わないよなあ」
ルークの隣に座ったカウリも、そう言って笑っている。
「まあ、そういう無駄な部屋を用意しておくのが贅沢って言うんだろうさ」
「だよなあ。本当に贅沢な暮らしだ」
苦笑いしたルークの言葉に、カウリもそう言って苦笑いしている。
「確かに贅沢だね」
同じ事を思っていたレイも、そう言って笑いながらうんうんと頷く。
「ええ? 必要な時があるからこそ用意してある部屋なのに、それが贅沢?」
生粋の貴族出身のロベリオの言葉に、ユージンとティミーも不思議そうにしている。そしてアルス皇子も、横で彼らの会話を聞きながら同じように不思議そうにしている。
「成る程。こういうのは贅沢というんだね」
逆に、アルス皇子にそう言って感心されてしまい、一般出身のレイ達だけでなくどちらの生活も分かるヴィゴとマイリーも一緒になって笑っていたのだった。
「成る程なあ。市井の民の生活と貴族の生活は、根本から違うんだって事がよく分かる会話だったなあ」
苦笑いしたルークが、そう言って肩をすくめる。
「石造りの建物に住んでいるお貴族様は、一部屋しかないあばら屋の生活なんて想像も出来ないわけか」
「一部屋しかない?」
ルークの呟きに、ロベリオが不思議そうにそう言ってルークを覗き込む。
「おう、以前も少し話した事があったと思うけど、俺やレイルズが元々住んでいたような家は、多分お前らには想像もつかないような、家とも言えないようなものだぞ。壁といっても板切れ一枚、柱だって腕くらいしかないような粗末な木の家だから、ちょっと強い風が吹けば隙間風が入ってくるし、雨が降れば雨漏りなんてしょっちゅうだったんだぞ」
「僕の家は細い木の丸太小屋だったから、歪んだ木の隙間はいっぱいあったね。それに、確かに雨漏りもしょっちゅうだったね。あれって、雨が降るまでどこが傷んでいるのか分からないのが困るんだよね」
ルークの言葉に、レイはゴドの村にいた頃の粗末な家を思い出していた。
「そうそう。ちょっとした隙間から伝ってくるから、晴れた時に見てもどこが傷んでいるのか分からないんだよなあ」
ルークも困ったように笑いながらそう言って首を振る。
「屋根の修理は、さすがに僕や母さんでは出来ないから村の男の人がやってくれたよ。毎年寒くなる前に、僕は草や藁を刻んだのを土に混ぜたのをたくさん作って、家の壁の割れ目の修繕をしたよ。こうやって隙間にヘラを使って家の中からひび割れや隙間部分に押し込んでいくの」
「ああ、それは俺もやったなあ。うちは農家でわりと太い木を使った丸太小屋だったんだけど、それでも隙間風はきていたなあ。材料の藁は大量にあったから、刻んだ藁を使って石を砕いて壁材を作って、子供達総出でやっていたな」
ヘラを使う仕草をするレイの言葉に、カウリも笑いながら同じように右手で何かを塗る仕草をする。
「俺は着古してボロボロになった服を裂いたのを使っていたなあ。街の中では藁なんて手に入らないからな」
笑ったルークが、そういって指で何かを押し組む仕草をする。
「ボロ布は、冬場の応急処置に使ったね」
笑ったレイの言葉に、カウリもうんうんと頷いている。
「ごめん、全然想像がつかないよ」
困ったようにそう言うロベリオの言葉に、ルークとカウリ、それからレイの三人が揃って笑う。
「考えたら、そんな生活をしていた俺達が、生粋の貴族出身のお前らと一緒にこうして竜騎士隊の本部に勤めているんだから、精霊王も悪戯がお好きだよなあ」
笑ったルークの言葉に、皆それぞれに真顔で頷くのだった。
「それを言ったら、ニーカもそうだよな。あまり詳しくは聞いていないが、幼い頃の向こうでの生活は、かなり酷いものだったみたいだからなあ」
ため息を吐いたルークの呟きに、レイが顔を上げて頷く。
「そうだね。確かにかなり大変だったみたいだよ。でもニーカは、いつも今はすごく幸せだって言って笑っているよ」
「そう思ってくれているのなら、良かった。これからは、新生活に馴染むまでは色々と大変な事もあるだろうが、もっと幸せになってもらわなければね」
笑顔のアルス皇子の言葉に、皆も笑顔になる。
「まずはドレスに慣れてもらうところからだね。普段着用に仕立てたドレスをちょっと見せてもらったけど、どれもすっごく可愛いかったよ」
笑ったタドラの言葉にレイも笑顔で頷く。
「この前の竜司祭の正式な衣装もすっごく素敵でしたよね。あれは、普段は着ないんですか?」
自分達は竜騎士用の制服を普段から着ているが、女性は違うのだろうか?
「一応、竜騎士隊の本部にいる時は、基本的に普段着用のドレスを着てもらうよ。言ったように、まずはドレスでの生活に慣れてもらうところからだね。竜司祭の服は、今後、神殿での祭事に参加する際に着てもらう予定だよ。まあ、とは言ってもまだ未成年の彼女達なので、最低でもこの一年は表舞台には一切出さないよ。成人後の社交会への参加は……まあ、今後の様子を見ながらだね」
「ええ、社交会への参加は、ジャスミンはまだしもニーカにはかなり難しいと思いますけど……」
戸惑うようなレイの言葉に、ルーク達も困ったように笑っている。
「だからそっちはまだ一切決まっていないんだよ。だけど、お前にだって出来たんだから、ニーカには無理だと最初から決めつけるのも……な?」
苦笑いするルークの言葉に、レイも納得して頷く。
「確かにそうだけど……大丈夫かなあ……」
割と本気で心配していると、執事がやってきてアルス皇子にそっと耳打ちした。
「ああ、ニーカの準備が出来たみたいだね。では行こうか」
笑って立ち上がるアルス皇子の言葉に、ソファーに座っていた竜騎士達が立ち上って部屋を出ていく。
考え事をしていて執事が来たのに気づかなかったレイも、慌てて立ち上がってそれに続いたのだった。




