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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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ようこそニーカ!

「おお、無事に到着だな」

 ゆっくりと進んで来たディレント公爵家の紋章の入った馬車が、竜騎士隊本部の玄関前に到着して止まる。

 出迎えに出ていたルークの呟きに、レイも笑顔で頷く。

 その時、竜騎士達の後ろに控えていたジャスミンが、一礼して駆け足で進み出てきた。

 停まった馬車の後ろから執事が降りて来たのを見て、その執事に駆け寄って何か小声で話しかけている。

 突然ジャスミンに話しかけられ、即座に足を止めて軽く膝を曲げて彼女の視線に合わせて話を聞いていたその執事は、一瞬驚いたように目を見開いてから笑顔で大きく頷いた。

「はい、もちろんです。では、お願いいたします」

 笑顔で頷き合う二人を見て、レイは首を傾げる。

「えっと、ジャスミンは何を言ったのかな?」

 その呟きに、見ていた全員が呆れたように小さく笑う。

「そりゃあ、ニーカの出迎えを自分がするって言ったんだよ。ほら」

 笑ったルークの言葉に納得する。

 執事と一緒に馬車の横に立ったジャスミンは、執事が馬車の扉をノックするのを胸を張って見つめている。



「ニーカ様、竜騎士隊本部へ到着いたしました。失礼いたします」

 馬車に声をかけて、執事がゆっくりと扉を開く。

 完全に扉が開いて執事が下がったところで、馬車の中から巫女服のままのニーカが降りてきた。

「ようこそニーカ! 待っていたわ!」

 俯いたまま足元を見て馬車から降りてきたニーカが地面に降り立つのを見て、ジャスミンが満面の笑みでそう言って飛びつく。

「ジャスミン!」

 その声に慌てたように顔を上げたニーカも、笑顔で両手を広げて飛びついて来たジャスミンを抱き返す。

 歓声を上げて笑いながらお互いを抱きしめる二人を、大人達は皆笑顔で見つめていた。

 しばらくして先に我に返ったニーカが、まだ自分に抱きついているジャスミンの腕をパンパンと叩いて慌てている。

 小さく吹き出したジャスミンは、抱きついていた手を緩めて少し離れて改めて彼女と向かい合う。

「改めまして、ようこそ竜騎士隊本部へ。今日からここが貴女のお家よ」

 戸惑うニーカの両手をそっと握り、改まった口調でそう言ってから背後を振り返る。

 整列したまま笑顔で自分達を見つめる竜騎士隊の人達を見上げたジャスミンは、満面の笑みで大きく頷いてからニーカの手を引いてアルス皇子の前へ連れて行った。

 その後ろを、馬車の後ろにいたラプトルから降りた護衛の人達が少し離れて付き添う。



「ようこそニーカ。竜騎士隊一同、貴女を心から歓迎します。貴女の、ここでのこれからの生活が良きものになるよう心から願います。何かあれば、いつでも遠慮なくどんな些細なことでも相談してください。必ず力になると約束しましょう」

 彼女の視線に合わせるように軽く膝を折って屈んだアルス皇子の優しい言葉に、やや緊張の面持ちだったニーカは嬉しそうな笑顔になる。

 年相応のその笑顔に、アルス皇子だけでなく竜騎士隊の皆も揃って笑顔で頷いている。

「はい、ありがとうございます。まだまだ未熟者ゆえ、ご迷惑をおかけする事も多いかと……思います。どうぞ、よろしく……えっと……」

『よろしくご指導いただきますようお願いいたします』

『だよニーカ』

「う、うん、ありがとうね。えっと、よろしくご指導いただきますよう、お願いいたしましゅ! はうっ!」

 しかし、教えてもらった挨拶を頑張ってしたのだが、緊張のあまり途中で何を言っていたのか分からなくなり、クロサイトの使いのシルフにこっそり助けてもらうニーカだった。しかも、最後の最後で噛んでしまい、焦って口元を押さえて俯いてしまう。



 間違えてしまった!

 しかも、失礼した事を謝ろうと思っているのに焦るあまりパニックになって声が出なくて、もうニーカの頭の中は真っ白だ。

 叱られる。

 こんな簡単な挨拶も覚えられない馬鹿な奴だと思われて、呆れて見捨てられるかもしれない。

 咄嗟にそう考えてしまい、血の気が引いて真っ青になる。



「もうニーカったら、何をそんなに緊張しているのよ。大丈夫よ。例え何か間違ったって、ここには怒って貴女を苛める人なんていないから、安心していいのよ」

 俯いたまま真っ青になっているニーカを見て、笑ったジャスミンがそう言ってニーカの肩を叩きながら、首だけで振り返ってレイをチラチラと見る

「そうだよ。ようこそニーカ!」

 ジャスミンの目配せにさすがに気がついたレイが笑顔で進み出て、出来るだけ明るい口調でそう言って笑う。

「う、うん、ありがとうレイルズ。改めて、よろしくね」

 恥ずかしそうに顔を上げたニーカは、少し安堵したようにそう言ってから改めてアルス皇子に向き直った。

「大変失礼をいたしました。こんな無知な未熟者ですが、頑張りますのでどうぞよろしくご指導ください」

 今度はちゃんと自分の言葉で挨拶出来たニーカに、その様子を心配そうに見ていた竜騎士達は、密かに安堵のため息を漏らしつつ笑顔で拍手を送ったのだった。



 今日はとても寒いので、その場での挨拶はアルス皇子のみにして、そのまま全員揃って一旦建物の中へ入る。

 竜騎士達は本部の休憩室へ、ニーカはジャスミンと一緒に、まずは兵舎の女性用の階に用意されたニーカの部屋へ向かった。

「だって、まずは着替えないとね。ここでの貴女は竜司祭見習いなんだから、もう巫女服を着る必要は無いのよ」

 竜騎士達との個々の挨拶もないまま、まずは部屋へ向かうと言われて驚くニーカにジャスミンがそう言って笑う。

「そっか。もうこの服は着ないのね……」

 階段を上がりながら小さくそう呟き、巫女服の胸元をそっと押さえる。

「ねえ、ジャスミン。この巫女服って返さなきゃ駄目だよね」

「まあ、そうだけど……どうしたの?」

「今着ているこの三位の巫女服、実を言うと正式に見習い巫女になった時からすっごく憧れだったの。三位の巫女の資格をいただいてこれを着る事が出来た時は、本当に嬉しかったのよ。だから、出来れば一着くらいは手元に残しておきたいなあって思っただけ。そうよね。やっぱり借りたものは返さなきゃ駄目だよね」

 しょんぼりするニーカを見て、ジャスミンは笑って彼女の肩を叩いた。

「それなら買い取ればいいわ。あとでやり方を教えてあげる。基本的に巫女服って貸与、つまり神殿から貸してもらっているのだけれど、実は買い取る事も出来るのよ。そうすれば、そのお金でまた新しい巫女服を仕立てられるからね。私が着ている見習い巫女の制服は、全部買い取ったものよ」

「ええ、そうだったの。じゃあこれ、買い取らせてもらいます」

 笑顔になったニーカの言葉に、ジャスミンも笑顔で大きく頷き、顔を見合わせて揃って手を叩き合った。

 そして、到着したニーカの部屋に用意されていた、仕立てを終えた普段着用のドレスや装飾品の数々を見て、ニーカは驚きの悲鳴を上げる事になったのだった。

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