ニーカへの贈り物選び
「えっと、じゃあ資料を置いたら上がってきてね」
「了解しました!」
「はい、すぐに伺わせていただきます!」
離宮から戻り厩舎にラプトルを預けたレイは、目を輝かせてそう言いながらマークとキムを振り返った。
しかし、ラプトル担当の兵士達が周囲に大勢いるので、当然マークとキムはいきなり改まった口調になってしまい、レイは分かっていてもつまらなさそうに眉を寄せて口を尖らせた。
「うう、やっぱりその喋り方嫌だよ」
しかし、いつものような笑った返事は無く、二人ともその場に直立している。
「ほら、構わないからとにかく荷物を下ろせって。俺達は先に本部に戻っているからな。階段のところにいる警備の兵士には申し送りしておくから、そのまま上がってきてくれて構わないぞ」
「かしこまりました!」
「ご配慮感謝致します!」
三人の様子を見て苦笑いしたルークに背中を叩かれて即座にもう一度直立して返事をした二人は、同じく苦笑いした竜騎士達がまだ拗ねているレイを引っ張っていき、竜騎士隊全員が厩舎を後にするまでその場に直立していた。
竜騎士達の姿が見えなくなったところで直立を解いて揃って深呼吸をした二人は、大急ぎで資料の入った木箱を下ろして荷運び用の台車を借りると、半ば駆け足状態で台車を押して大急ぎで厩舎を後にしていった。
そしてそんな彼らを厩舎にいた兵士達は、こっそりと、あるいは堂々と羨ましそうに見送っていたのだった。
「えっと、ところでクッキー達は何処に来てくれているの?」
本部の建物に到着したところで、階段を上がりながらレイが隣にいるルークにそう尋ねる。
「ああ、いつもの会議室だよ。ちなみに俺とロベリオ達はもうニーカへの贈り物の準備は終わっているんだけど、ちょっと別口でいくつか見たい贈り物があるから、ご一緒させてもらうよ」
「そうなんですね。じゃあニーカに何を贈ったらいいのか一緒に考えてください」
さっきとは違う意味で眉を寄せているレイの様子に、ルークは横を向いて吹き出す。
「別に決まりがあるわけじゃあないんだから、お前が良いと思うものを贈ってやればいいさ。そういえば、ジャスミンがハンドル商会から天体望遠鏡を購入したらしいぞ。まあ、買ったのはボナギル伯爵だけどさ。彼女がお前から色々と月や星の話を聞いて、自分の目で見てみたくなったんだってさ。多分、ジャスミンに会ったら天体望遠鏡の扱い方を教えてくれって頼まれると思うぞ」
「ええ、それは嬉しいなあ。じゃあ、今度会ったらどんなのを買ったのか見せてもらって、扱い方を一から教えてあげます!」
目を輝かせるレイの言葉に、階段を上っていたルークの足が急に止まる。そして、二人の話を聞いていた全員の足が同じように止まる。
「うわあ、急に止まらないでください! えっと、どうしたんですか?」
全員が何か言いたげに自分を見つめているのに気付いて、不思議そうに首を傾げながらそう尋ねる。
「お前……まあいい。とにかく戻ろう」
呆れたようにため息を吐いたマイリーがそう言い、なぜか全員が揃ってため息を吐きながら階段を上がって行った。
「皆どうしたんだろうね? 変なの?」
最後尾にいたレイは、階段を上がりながら目の前にいたニコスのシルフにそう言って肩をすくめた。
『主様は相変わらずだねえ』
『もうちょっと女性との適切な距離感を教えてあげるべき?』
『どうしたらいいかなあ』
ニコスのシルフ達は、呆れたように笑いながらそう言って、揃ってブルーの使いのシルフを見た。
『我に聞くな。どう考えても我よりも其方達の方が適任であろうに』
嫌そうなブルーの使いのシルフの言葉に、ニコスのシルフ達だけでなく、彼らの頭上を飛び回っていたそれぞれの竜の使いのシルフ達までもが揃って吹き出していたのだった。
「うわあ。凄い!」
特に荷物もなかったレイ達は、そのまま執事の案内で会議室へ向かった。
そして、並べられた数々の贈り物候補の品々を見て、レイは歓声を上げたのだった。
「お待ちしておりました。どうぞゆっくりとご覧ください」
レイの近くにいたポリティス商会のクッキーが、レイを見て笑顔で一礼する。
「うん、じゃあ見せてもらうね!」
別の列に並んだハンドル商会の天体関係の物も見てみたいが、まずは無難なのはこっちだろう。
そう考えて、クッキーと一緒にまずは一通り見て回る。
「へえ、これは見事な細工の入った箱だね」
入ってすぐに目に入った、やや小さめの木箱を見ながら嬉しそうにそう呟く。
蓋の部分には全面に渡って細かな幾何学模様が彫り込まれていて、時折やや大きめの四角があって、そこには意匠化した竜が彫り込まれている。縁の四隅には小さいがおそらくダイヤモンドと思われる石が嵌め込まれている。
そっと蓋を開くと、ポロポロと軽やかな音が流れた。
「あ、これはオルゴールだね。へえ綺麗……ねえルーク、ちょっと聞いてもいいですか?」
レイの手にすっぽり収まるくらいの小さなオルゴールを見ていたレイは、急に黙り込んでから少し離れたところにいたルークを振り返った。
「おう、どうした?」
驚いたルークが、顔を上げてこっちを振り返る。
「えっと、別に贈り物は一つじゃあなくてもいいですよね?」
「そりゃあもちろん構わないけど、どうしたんだ?」
思わぬ質問に、不思議そうに側まで来てくれる。クッキーは黙ったまま少し離れて控えている。
「えっと、このオルゴールは可愛いし綺麗だから候補にしようと思うんだけど、仮にこれを選んだとしたら、これだけだと、逆に贈り物としてはちょっと寂しいかなって思って」
レイの手を覗き込んで納得したように頷いたルークは、ちょうどその時部屋に駆け込んできたマークとキムを横目で見てからクッキーを見た。
「この辺りって、一応持ってきた分だよな?」
「はい、その通りです。念の為に思って持ってきたのですが、もしやあの二人も?」
笑ったルークが頷くのを見て、納得したように頷いたクッキーはレイの手をそっと叩いた。
「レイルズ様。この列の品物は、あの二人の為に置いておくべきですよ」
あえて何故かを言わないクッキーの言葉だったが、さすがにここは察する事が出来たレイは、笑ってオルゴールをそっと元の位置に戻した。
「今のは分かった。じゃあ僕はこっちのを見せてもらうね」
確かにこの列の品物は、他よりも小さいし細工も簡単な気がする。恐らくこの中ではこの列は低価格帯なのだろう。となると、これはマークとキムのために置いておくべきだ。
笑ったレイの言葉に苦笑いしたクッキーがもう一度頷き、別の列へ向かうレイの後ろをついて行ったのだった。




