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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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勉強の時間

「えっと……?」

 一人だけ、ガンディが持って来てくれたのだという、関係ない本、の意味の分かっていないレイが戸惑うように首を傾げながらマークを振り返る。

「俺に聞くな。経験豊富な大先輩がこっちにおられるだろうが!」

 慌てたように顔の前でばつ印を作ったマークが、苦笑いしながらロベリオとユージンを示す。

 もっと首を傾げるレイを見て、ロベリオとユージンが揃ってにんまりと笑う。

「お相手がいるとは言っても、やっぱりレイルズ君は、まだまだお子ちゃまだねえ」

「だよねえ。精霊魔法訓練所のご友人方も、これに関してはずいぶんと心配してくれているのになあ」

「えっと、精霊魔法訓練所のご友人方、ですか?」

 もっと意味が分からなくて困ったようにレイがそう呟くと、ロベリオとユージンが顔を見合わせてうんうんと頷き合っている。

「瑠璃の館のお披露目会が終わった後、ご友人方を代表してジョシュア君がルークのところまで訪ねてきて」

「ご友人方として何かしなくていいのかって、わざわざ確認をとったくらいだからなあ」

 ロベリオと友人の会話を聞いたマークとキムが、揃って堪えきれずに勢いよく吹き出す。

「えっと、瑠璃の館のお披露目会って……?」

 またしても無言になったレイだったが、しばらくしてようやく彼らがなぜ笑っているのかを理解した。



「ああ! それって、それってそういう意味だったんですか〜〜!」



 大きな声でそう叫んだレイを見て、書斎にいた全員が揃って吹き出し大爆笑になったのだった。

「ティ、ティミーも分かっていたの?」

 耳まで真っ赤になったレイの慌てたような質問に、何度も頷きながら遠慮なく大笑いして、最後には笑いすぎて若干呼吸困難になっているティミーだった。



「はあ、本当に何やってるんだって」

 しばらくしてようやく笑いが収まったところで、笑いすぎて出た涙を拭ったロベリオがそう言ってわざとらしく大きなため息を吐く。

 そこからは一応本読みの会が始まり、ガンディとケレス学院長、そしてダスティン少佐はびっしりと本が詰まった本棚を見上げて、何度も感心したように頷いていたのだった。

「それで、今は何をしているんだ?」

 一通りの本棚を確認した三人は、マークとキムの周りに集まり彼らが差し出した資料を真剣な様子で読み始めた。

 それを見て、ロベリオ達も集まってきて彼らの手元を覗き込む。

 先に資料を読み終えたガンディは、マークとキムが差し出したあの新しい魔法陣を無言で見つめて考え込んだ後、算術盤を取り出して何やら真剣に検算を始めた。

 それを見て、慌てたようにマークとキムがガンディの左右に座る。レイも、読んでいた本を置いて慌ててマークの隣に座ってガンディの手元を覗き込んだ。



 しばらくの間、時折ガンディが弾く算術盤の音と、ロベリオ達が小声で話をする声が聞こえる程度だったが、午後の二点鐘の鐘が鳴る頃に、一仕事終えたルークとマイリーとヴィゴとカウリの四人が離宮にやってきた。

 通常なら一旦別室に通されてお茶くらいは飲むものだが、彼らは当然のようにそのまま書斎へ向かった。

 心得ている執事達は、そんな彼らを見ても特に何も言わない。

「おお、やってるな」

 書斎にガンディ達が来ているのを見てそれぞれ笑顔で挨拶を交わした四人は、当然のようにマーク達の周りに集まり、彼らが新しく描いた魔法陣を前にガンディやケレス学院長、ダスティン少佐まで参加して早速討論会が始まっていたのだった。

 この顔ぶれの中では一番精霊魔法の初心者であるティミーは、あまり積極的な発言はせずに目を輝かせて彼らの討論を聞き、広げたノートに気になる点や気付いた点などを必死になって書き続けていたのだった。



「頑張ってるなあ。おお、こりゃあ凄い」

 討論が一段落したところで、ルークがびっしりと書き込まれたティミーのノートを覗き込んで、感心したようにそう呟く。

「はい。僕の場合は、知識が先行しているだけで実技の方はまだまだなので、すっごく皆様のお話は勉強になります。せっかくなので、気になった点や疑問点などをこっちのページに、僕でも出来そうな事はこっちのページに書いているんです。でも途中からちょっとぐちゃぐちゃになっちゃったので、後で改めて書き直します」

 描き散らかしたノートを見て、少し恥ずかしそうにそう言って笑うティミーの言葉に、ルークは笑って首を振った。

「いやいや、すごく良い感じにまとまっていると思うぞ。へえ、ノートの取り方にも個性が出るもんだな。成る程、そういう分け方もあるのか。俺のと全然違うぞ」

 感心したようなルークの言葉に、こちらも討論が一段落して資料整理をしていたレイとマークとキムの三人が揃って振り返る。

「見せて見せて」

「俺も見せてください!」

「ああ、俺も見たいです!」

 一旦資料を置いたレイ達が、目を輝かせてティミーの横に並んで座る。

 そこからは、ティミーが取ったノートの内容をもとにしたノートの取り方やまとめ方についての討論が始まり、慌てたティミーが手元の鞄から新しいノートを出して、これまた必死になってノートを取り始めたのだった。

 それを見たロベリオとユージンが改めてティミーのノートを覗き込み、時折教えてあげながら彼のノート制作の手伝いを始めた。



 精霊魔法訓練所で下位の座学と実技、それから上位の座学は余裕で及第点をもらえたティミーだったが、今取り掛かっている上位の精霊魔法の実技については、実はまだまだ安定度が低く、何度も発動の失敗や暴走を経験している。

 特に攻撃系の術は苦手意識もあってなかなか上手く安定して発動しないのだ。

 癒しの術についてはある程度安定して発動出来るようになっているので、この後は竜騎士達とも相談をしてティミーの成長を見守りながらゆっくりと上位の実技の指導する事になっている。

 だが、ジャスミンやニーカと違い成人後は確実に実戦への参加が決まっているティミーが、攻撃魔法を苦手だからと言って練習しないわけにはいかない。

 この事は、最近の教授達の間でも密かな問題点として扱われているのだ。



『ふむ、性格や本来の気質に沿った向き不向きというのは、なかなかに難しく御し難い問題のようだな』

 積み上がった本の上に座ったブルーの使いのシルフが、そんな彼らを見て小さくそう呟く。

『そうだな』

『だが我はさほど心配はしておらぬよ』

『我が主殿は何事も真面目に取り組むお方ゆえ』

『良き点も悪い点も人より目につきやすいようだ』

『だが彼もまたとても強き力を秘めておる』

『いつどこまで開花してくれるか』

『実を言うと楽しみにしておるのだよ』

 隣に座ったターコイズの使いのシルフの言葉に、同じ事を思っていたブルーの使いのシルフも笑顔で頷くのだった。

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