新たなる目標!
「いやあ、見学しているだけでもすごく勉強になるな。戦略的な考えと攻略の仕方とかは、ちょっと真面目に勉強したくなってきたなあ」
「確かに。それにこの、何かを賭けるわけでなく純粋に勝負を楽しむっていうのが、またいいよな」
アルス皇子とマイリーの対決はマイリーの勝利で決着がつき、あちこちから素晴らしい勝負を讃える拍手が起こるのを聞きながら、同じく拍手をしたマークとキムが二人揃って目を輝かせてうんうんと頷きつつ話をしている。
「ああ、確かに下級兵士達の間で遊ぶゲームといえば、ほぼ賭けカードだからな。なんだよ。お前らはやらないのか? 第四部隊って下級兵士でも給料良いんだって聞くぞ」
積み上がっていた資料に目を通していたカウリが、呆れたようにそう言って顔をあげて二人を見る。
「無茶言わないでください。俺は今でも実家に仕送りをしていますから、そんな賭け事なんかに使えるような金はありませんって」
慌てたようにマークがそう言って顔の前で必死に手を振る。
「俺もそれほど小遣いに余裕があるわけじゃあありませんって。同僚達は、空き時間によくカードで遊んだりしていますけど、俺も賭け事には向かないので誘われても断ってます」
「俺も何度か誘われた事がありますけど、正直言って俺も自分は賭け事には向かないのを自覚しているんで、一応全部断ってます。まあ、もう最近では俺達は賭け事はしないって理解してもらったみたいで、無理に誘ってくる奴はほぼいなくなりましたね」
苦笑いする二人の答えに、資料を置いたカウリも苦笑いしている。
「まあ、賭け事は確実に向き不向きがあるからなあ。向いていないと自分で思うのなら、やめたほうが賢明だな」
カウリの言葉に、二人も揃って何度も頷いていた。
「是非とも、しっかりと勉強して強くなってくれたまえ。そしてそんなマーク君には、一つ良い事を一つ教えてやろう」
その時、横で彼らの話を聞いていたルークがにんまりと笑って、カウリ越しにマークを見て小さく手招きした。
「なんですか?」
不思議そうにしつつも、マークは立ち上がってルークの横へ行って座る。
「いいか、よく聞けよ。ボナギル伯爵もこの陣取り盤はかなりお好きだし強いぞ。どれくらいお好きかと言うと、ご自分で陣取り盤愛好会の倶楽部を立ち上げるくらいにお好きなんだよ。だから、お前さんが陣取り盤を勉強している初心者なんだと聞けば、間違いなく張り切って教えてくださるぞ」
顔を寄せてルークから耳打ちされた予想外の言葉に、マークが唐突に真っ赤になる。
ルークの隣に座っていて声が聞こえたカウリが堪えきれないように大きく吹き出したのを見て、他の皆も何事かと揃って振り返って、唐突に真っ赤になっているマークを見て不思議そうに首を傾げた。
「そ、それは大変有意義な情報をありがとうございます! まだまだ初心者とも言えないような知識しかありませんが、せめて恥ずかしくない程度の勝負が出来るように、頑張って精進します!」
顔だけでなく、耳や首まで真っ赤になったマークが直立して答えるのを見て、誰の事を言っているのか即座に理解したレイ以外の竜騎士達全員が、揃って吹き出す。
「しっかり頑張れ。ちなみにボナギル伯爵は、どちらかと言うと俺のように戦略そのものや勝つ事に重きを置くのではなく、交流を目的に対戦する相手との会話を楽しみながらのんびりと指すのがお好きなんだよ。特に勝ち負けにも拘らないと聞くな。だから俺は直接対決をした事は無いぞ」
「俺は、何度かお相手させていただいた事がありますが、ちょっといつもと勝手が違って慣れるまで大変でしたよ。夜会では、何度か攻め方の相談なんかを受けた事がありますね」
マイリーの言葉に、顔を上げたルークがそう言って笑う。
「ああ、俺もそれは何度かあるな。だけど、俺の攻め方はどれも攻撃的に過ぎると苦笑いされたぞ」
「そりゃあマイリーの攻め方は、そもそもボナギル伯爵の進め方とは真逆ですからね。マイリーに相談する時点で、色々と間違ってると思いますね」
「俺もそう思うな。後でボナギル伯爵もそう言って笑っておられたよ」
呆れたようなルークの言葉に、マイリーもそう言って笑っていた。
「それにボナギル伯爵は、特に陣取り盤を初めて間がない十代の若者達や、二十代前半までのあまり陣取り盤が得意ではない子達の為の交流会を定期的に開催しておられるな」
ルークがまだ真っ赤なままのマークを見て、今思いついたかのようにそう教えてくれる。
「ああ、確かによく交流会は開催しておられるな」
マイリーの言葉に、ヴィゴやロベリオ達もうんうんと頷いている。
「で、でも、倶楽部という事は、それはあくまでも貴族の若君が対象なのでしょう?」
言外に自分達のような平民出身の下級兵士は対象外だろうと言いたげなマークの言葉に、ルークがまたにんまりと笑う。
「いやいや、伯爵は陣取り盤をもっと下々の者達にも楽しんで欲しいとお考えなんだよな。だから、下級兵士であるマーク軍曹やキム軍曹が陣取り盤に興味を示していると知ったら、間違いなく大喜びなさるだろうさ」
「そ、それは……はい、頑張ります」
「では、今度ボナギル伯爵に夜会ででもお会いした際に、マーク軍曹が陣取り盤を勉強中だと話しておくとするか」
こちらもにんまりと笑ったヴィゴの言葉に頷き、とうとう耳や首だけでなく腕まで真っ赤になったマークの言葉に、背後でキムが遠慮なく大爆笑していた。
「じゃあ、これからはここへ来た時なんかに、陣取り盤も一緒に勉強しようね。僕もまだまだ勉強中だからさ」
目を輝かせたレイの言葉を聞いて、慌てたように直立して、よろしくお願いしますと声を揃えるマークとキムの二人だった。




