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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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陣取り盤

「おお、さすがは古竜。マイリーが押されているなんて、初めて見る気がするね」

「確かに押されていますね。こんな展開、俺も初めてみますよ。いやあさすがだ」

 アルス皇子の関心したような呟きに、同じくヴィゴもうんうんと頷きつつそう呟いていた。

 マイリー対ブルーの直接対決は、開始早々こそマイリーが有利に進めていたが、あっという間に形勢は逆転してしまい、そこからはもう怒涛の攻撃をひたすらマイリーが受ける展開が続いた。

 見学組は、最初のうちこそ面白そうに色々と好きに感想を言っていたが、もう途中から始まったブルーの怒涛の連続攻撃に、次第に声も消え呆然と眺めている事しか出来なくなっていた。

「ああ、悔しいがこれで詰みだな。さすがは古竜。冗談抜きで完敗だよ」

 健闘虚しく攻守の要である騎士の駒を取られてしまい、守備の陣が崩壊して王様の駒の前がガラ空きになってしまったところで、マイリーが大きなため息を吐いてそう言った。こうなってしまっては、もう王様を守れない。

 両手を軽く上げて降参のポーズを取るマイリーの言葉に、レイの右肩に座っていたブルーの使いのシルフは笑って拍手をした。

『其方の戦いぶりも相当だったよ。我は、もっと早くに音を上げるかと思っていたんだがな』

「お褒めいただき恐悦至極。ああ悔しい! 待ってろよ。次は叩きのめしてやるからな!」

 苦笑いしつつも悔しそうなマイリーの言葉に、ブルーの使いのシルフも満足そうに笑って頷いた。

『では再戦を楽しみに待つとしよう』

 ふわりと飛んだブルーの使いのシルフがマイリーの目の前まで行き、彼と軽く手を叩き合ってからすぐに戻ってきた。

『レイもお疲れだったな。どうだ。勉強になったであろう?』

 やや得意そうなブルーの言葉に、しかしレイは大きなため息を吐いて首を振った。

「お疲れ様、ブルー。だけど僕、ブルーに言われるままに駒を動かすだけで、もう必死だったからさ。正直言って、何がどうなっていたのか全然分からなかったよ! ねえ、誰か今の対決を再現して見せてください!」

 最後は、他の竜騎士達に向かって大きな声で叫ぶ。

「あはは、じゃあレイルズ君の今後の為に、今の二人の対決を一から詳しく解説してあげよう」

 笑ったルークが、別の陣取り盤をレイの目の前に押し出すようにして持ってくる。それを見たロベリオ達が、慌てたように立って座り直し、レイのための場所を開けてくれる。アルス皇子は何やら興奮したようにマイリーと顔を寄せて話をしながら、再現された陣取り盤を見つめていた。

 途中からはマイリーとブルーも加わって、先ほどの対戦を順番に解説しながら再現していく。

「ああ、そうか。ここの攻めが甘かったんだな。もう一段階押し込めたのに!」

 途中でマイリーが悔しそうにそう言って、自分の僧侶の駒を横から突っつく。

『やっと気がついたか。まだまだ未熟よのう』

 面白がるようなブルーの言葉に、マイリーが悔しそうに地団駄を踏む。

「ラピス! やっぱりもうひと勝負だ!」

『おう、いくらでも相手してやるぞ。せいぜい足掻くがいい』

「ああ、悔しい! ほら、ここに座って!」

 妙に嬉しそうなブルーの言葉に、何故かこちらも嬉しそうにそう言ったマイリーが先ほどの陣取り盤の前に座る。

 当然のようにレイの頬を突っついたブルーのシルフが笑って頷き、苦笑いして一つため息を吐いたレイがマイリーの前に座る。

 早速始まった対決を、周りは無言で見つめていたのだった。



 二度目の対決はほぼ互角の戦いが続き、最終的には双方の陣がほぼ同時に総崩れとなってしまい、引き分けで終わった。

 古竜を相手に一歩も引かずに引き分けに持ち込んだマイリーに、アルス皇子をはじめ全員が感心しきりだったのだが、本気で勝ちに行っていたらしいマイリーは、何度も悔しがってブルーの使いのシルフも苦笑いしていたのだった。



「ううん、駒の動きをようやく理解したくらいの俺達には、もう全く別の世界の対決だけど……」

「それでも見ていて面白いよな!」

「うん、すっげえ面白い。どれだけ攻め方があって守り方があるんだって話だよな」

 先程の二人の対決を再現しては、ああだこうだと好きに話をしている竜騎士達を見て、完全に見学者状態でいたマークとキムは顔を見合わせてうんうんと頷き合っていた。

「よし、なんか、今ならすっごく上手く打てる気がしてきたぞ。後で、初心者同士でひと勝負しようじゃあないか!」

「おう、受けて立つぞ。だけど初心者用の参考書なんてここにあるかな? 俺、まだ何も無しだと自信ないぞ」

 まだ、入門書を見ながらでないと攻め方どころか駒の動かし方が分からなくなるくらいの初心者の二人の会話は、実はこの場にいる全員の耳に届いている。

「それでしたら、こちらをどうぞ。駒の動かし方に始まり、初心者向けの攻め方などがいろいろと載っておりますので、戦う際の参考になるかと思います」

 にっこりと笑った執事が、一番最初の基礎の基礎から詳しく描かれた数冊の入門書を持ってきてくれる。

「ああ、ありがとうございます!」

「ありがとうございます。へえ、こんなのがあるんだ。ちょっと見せてもらおう」

 嬉しそうに受け取ったそれを、二人が真剣な様子で読み始める。

 その様子を見て目を輝かせたレイが、二人の前に別の陣取り盤を持ってきて置く。

「じゃあこれを使ってね。ねえ、見ていてあげるから一度やってみてよ」

「うええ、だからまだ俺達なんて、初心者も初心者。駒の動かし方も朧げなくらいなんだからな!」

「そうそう。まだ対決とかのレベルじゃないからな」

 焦った二人の言葉に、レイは嬉しそうに頷く。

「誰だって最初は初心者だよ。ほら、最初の駒の位置は分かる?」

 駒の入った木箱を開けて見せるレイの言葉に、苦笑いして頷いた二人がややぎこちない手つきで駒を受け取って並べていく。

 周りの者達は素知らぬ顔をしつつもこっそりと横目で興味津々で見つめている。

「じゃあ、マーク軍曹にはレイルズがついてやれよ。俺はキム軍曹についてやるからさ」

 笑ったルークがキムの横に座るのを見て、レイも笑顔で頷いてマークの隣に座る。

 マークが先行で始まった初心者二人の対決を、レイは目を輝かせて見つめていたのだった。

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