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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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彼女達の新たなるお気に入り

「有意義なお話をありがとうございました! では、顔を洗ってきます!」

 いつもここにいる時に世話になっている部屋付きの執事との密かな対話を終えたキムは、これ以上ないくらいの笑顔になってそう言うと、直立を解いて一つ深呼吸をしてから少し恥ずかしそうに口元を押さえて洗面所へ駆け込んでいった。

 その後ろ姿を見送った執事は、笑顔で一礼するとベッドを振り返った。

「おはようございます。お目覚めでございましたか。これは失礼いたしました」

 ベッドに横になったまま、もうこれ以上ないくらいの満面の笑みで自分を見つめているレイと目が合った執事は、何事もなかったかのように平然とそう言って軽く一礼した。

「おはようございます。ありがとうね。キムを大事にしてくれて」

 腹筋だけで軽々と起き上がったレイは、笑顔でそう言って大きく伸びをした。

「当然の事をしたまでです。ところでレイルズ様、今朝もなかなかに個性的な寝癖となっておられるようですので急ぎ応援を呼びます、どうぞしばしそのままお待ちください」

 優雅に一礼した執事の言葉に慌てたように頭を押さえたレイは、手に当たる硬い塊に気がつき堪える間も無く吹き出したのだった。



 ラスティともう一人執事が駆けつけて来てくれて、シルフ達の手伝いもあってそれほど時間がかからずにレイの髪はいつも通りのふわふわに戻った。

「シルフの皆様、お手伝いいただき感謝いたします」

 髪用のブラシを手にした執事が、レイの頭上を見ながらそう言って軽く一礼する。

 その瞬間、周りにいたシルフ達が一斉に彼の視線の先に集まり得意そうに胸を張ってみせる。

「そうですね。今朝もお手伝いいただいたおかげで、早くレイルズ様の髪が元に戻りましたからね。シルフの皆様方、いつもありがとうございます」

 レイのこめかみの三つ編みに綺麗な紺色の紐を結んだラスティも、レイの頭上を見ながら笑顔でそう言って軽く一礼する。

 お気に入りのラスティの言葉にキャ〜キャ〜と大はしゃぎしたシルフ達は、今度は一斉にラスティに向かって投げキスを贈った。

 しかし、精霊が見えないラスティはそれには気付かず紐の入った平べったい木箱の蓋をして手に持つと、立ち上がったレイに続いて部屋に戻った。

 一連のシルフ達の動きが全て見えていたレイは、ずっと笑顔で嬉しそうにしていたのだった。



「おおい、いい加減に起きろよ〜〜俺もレイルズも、もう起きてるぞ〜〜」

「起きなさ〜〜い。朝ですよ〜〜〜!」

 一人だけまだ熟睡しているマークの頭を、笑ったキムがそう言いながら指でグイグイと突っつく。

 それを見て、こちらも笑顔になったレイがキムの真似をして指でマークの額の辺りを力一杯押した。

「ううん……なんだよ、痛いってば……」

 嫌がるように小さな声でそう言ったマークは、逃げるように寝返りを打って側にあった枕に抱きついて顔を埋めた。


『起きろ起きろ〜〜〜!』

『朝ですよ〜〜!』

『朝なんですよ〜〜!』

『起きないと〜〜〜』

『……何があるんだろうね?』


 呼びもしないのに勝手に集まってきていたシルフ達が、マークの短い髪を引っ張りながらそう言って顔を見合わせて小さく首を傾げる。

「あはは、確かにそうだね。何があるんだろうね。ねえ、マークの髪は遊んでも面白くないの?」

 にんまりと笑ったレイの問いかけに、シルフ達が一斉に頷く。

「じゃあ、こういうのはどうかな? これならマークの髪の毛でも遊べると思うんだよね」

 これ以上ないくらいのいい笑顔のレイは、そう言って手を伸ばすとやや長めに整えられたマークの前髪を軽く摘んだ。

「ほら、この辺りの毛なら僕のこめかみみたいな細い三つ編みが出来るんじゃあないかな?」

 レイの言葉にマークの周りに一瞬で集まってきたシルフ達が、そろってレイを見上げる。

 そして、こちらもこれ以上ないくらいの笑顔で一斉に頷き、嬉々としてマークの前髪をせっせと三つ編みにし始めた。

 とは言っても、レイの髪に比べたらはるかに短くて硬いマークの髪は、三つ編みにしてもすぐに解けてしまいなかなか上手くいかない。

 しかし、逆にシルフ達にはそれが面白かったらしく硬く結んだ三つ編みが、手を離した途端に先の方から解けていくのたびに大喜びで手を叩きながらそれを見ていて、解けてしまうとまたせっせと三つ編みをし始めた。

「おいおい、なんて事をシルフ達に教えたんだよ。俺は知らないからな! ってシルフ! 俺の髪はもっと硬いし短いから、遊んでも全然面白くないって! こら、そんな期待を込めた目で俺を見るな!」

 楽しそうにマークの前髪で遊ぶシルフ達の様子を見て吹き出したキムは、自分の髪をキラキラした目で見つめるシルフ達に気付いて、慌てたように前髪を押さえて必死になって首を振っていたのだった。

 その後、キムの大声に目を覚ましたマークは、洗面所の鏡を見て自分の前髪が何故か癖毛っぽくなっているのに気付き無言になる。

「ちょっと! 二人とも! 俺が寝ている間に何したんだよ!」

「ええ、僕らは何もしていないよ。濡れ衣だ〜〜」

 笑いながら泣く真似をするレイを見たマークは、その隣で笑い転げているキムを無言で見つめた。

「シルフ達が新しいおもちゃを発見したらしいぞ。よかったな、お気に入り認定されて」

 にんまりと笑ったキムの言葉に声なき悲鳴を上げて、マークが膝から崩れ落ちる。


『楽しい楽しい〜〜』

『ふわふわな髪も〜〜』

『ちょっと硬めの髪も〜〜』

『遊んだら楽しいの〜〜〜』

『楽しい楽しい!』

『ぎゅっとしてぎゅっ! なの〜〜〜』


「ぎゅっとするんじゃねえよ!」

 前髪を押さえて叫んだマークの言葉に、揃って吹き出し大爆笑になったレイとキムだった。

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