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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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枕戦争終結とカナエ草のお茶

「ちょっと待って! ねえってば! 今の敵味方ってどうなってるの?」

 毛布の中から聞こえてきた、レイの至極真っ当な抗議の言葉に竜騎士達が揃って吹き出し大爆笑になる。

「そりゃあ、情勢が有利な方につくのは戦略上重要な作戦だぞ」

「だよなあ。敵は少ない方がいいんだからさ!」

 モゴモゴと毛布が蠢き、笑ったマークとキムの言葉の直後にレイの情けない悲鳴が聞こえた。

 それを聞いて揃ってもう一度吹き出した若竜三人組が、手を伸ばして毛布を勢いよく跳ね上げる。

 見えたのは、マークとキムに二人がかりでくすぐられて悶絶するレイだった。着ていた寝巻きの裾は豪快にめくれあがっていて、(へそ)どころか胸元辺りまで見えている始末だ。

 それを見て、また全員揃っての大爆笑になる。

「もう、勘弁してくれ……」

「は、腹が……痛い……」

 マイリーとヴィゴが、二人揃って床に座り込んで笑い崩れている。

 その隣では同じく床に座り込んだルークが、枕を抱えたまま遠慮なく口を大きく開けて大爆笑していた。



「はあ、冗談抜きで明日は腹筋が筋肉痛になりそうだよ」

 笑いすぎて出た涙を拭いながら、ルークがそう言ってもう一度小さく吹き出し、マイリーとヴィゴも笑いながらうんうんと頷いている。

「裏切り者〜〜〜〜」

「なんの事だか〜〜」

「分かりませ〜〜ん」

 ベッドの上では、マークとキムを捕まえて笑いながら抗議をするレイと、毛布やシーツを畳みながら素知らぬ顔でそう言って笑うマークとキムがいて、ベッドや床に座り込んだ竜騎士達は、もうずっと止まらない笑いに呼吸困難に陥ったり半泣きになっていたりしたのだった。



「はあ。それじゃあ、枕戦争は……引き分けかな?」

 今は、ベッドの真ん中辺りにレイとマークとキムの三人が並んで座り、ベッドの端にルークとタドラが並んで座り、床に転がり落ちたソファーの座面にロベリオとユージンが座っている。

 そしてヴィゴとマイリーは、揃って枕やクッションを抱えて床に座り込んでいる。

 一つため息を吐いたレイのその言葉に顔を上げて頷き合ったマークとキムが、揃ってベッドの端に座っていたルークとタドラを引っ掴んだ枕でいきなり背後から殴り飛ばした。しかも力一杯に。

 突然の死角からの攻撃に、なすすべもなくベッドから転がり落ちる二人を見てまた竜騎士達が揃って吹き出す。

「いやあ。マークとキムも、俺達に遠慮が無くなったもんだなあ」

「今は無礼講なのだから、別にいいではないか」

 笑ったマイリーとヴィゴのしみじみとした呟きに、もう皆笑いが止まらない。

「やったな〜〜〜!」

 ルークとタドラが揃ってそう叫んで起き上がり、歓声を上げながらベッドに飛び込んでいく。

 レイと若竜三人組も参戦して、若者組によるベッド争奪戦がまたしても再開された。



「はあ、喉が渇いたよ」

 ベッド争奪戦には参加せず、ヴィゴの肩に手を置いてゆっくりと立ち上がったマイリーが、苦笑いしながら部屋の端に寄せてあったワゴンに向かい、用意されていた冷えたカナエ草のお茶を飲む。

「ああ、これはハチミツ入りだった。無しはこっちか」

 ピッチャーの持ち手部分に結び付けられたリボンには、ハチミツ入り、ハチミツ無し、とそれぞれに注意書きが書かれている。

 それを見て苦笑いしたマイリーは、ハチミツ無しと書かれたピッチャーからもう一杯空いたグラスにお茶を注いだ。

「お前も飲むか?」

「おう。ハチミツ無しを頼むよ」

 若干向きがおかしくなっているソファーに座ったヴィゴは、手にしていた枕とクッションをソファーに並べて置き、大きなため息を一つ吐いてから天井を見上げた。

「いやあ、久しぶりに童心に帰って心置きなく遊ばせてもらったよ。しかし、さすがにちょっと疲れたな」

 用意したグラスを渡してやりヴィゴの隣に座ったマイリーは、そう言って補助具をそっと撫でる。

「ん? 痛みがあるのか?」

 少し心配そうに小さな声でそう聞かれて、マイリーは笑って首を振った。

「いや、痛みはないんだが、どうしても夜になるとある程度のむくみが出るから補助具をずっと付けているとちょっと窮屈なんだよ。部屋では普段、湯を使ったあとは車椅子を使っているからな」

「そうだな。じゃあそろそろ俺達は退場させてもらうか。まあ、あいつらはまだまだ遊びたいみたいだがな」

 まだ楽しそうにベッド争奪戦を繰り広げている若者組とマーク達を揃って振り返り、呆れたように笑うマイリーとヴィゴだった。



「俺はそろそろ部屋に戻らせてもらうよ。お前らもいい加減に休めよ」

「はあい」

「それじゃあ、おやすみ」

 ベッドから気の抜けた返事が返ったのを見て右手を軽く上げたマイリーが、執事に付き添われて部屋を出ていく。

「じゃあ、俺も戻らせてもらうよ。また明日な。おやすみ」

 それを見送ったヴィゴもそう言ってソファーから立ち上がり、執事に付き添われて部屋を出て行った。

 一方、二人がいなくなった後も大いに盛り上がったベッド争奪最終戦は、ルークが抜けて若竜三人組対レイとマークとキムでの対決となり、結局レイ達がベッドを死守して一応の決着を見たのだった。



「はあ、喉が渇いた」

 途中からはソファーに避難して見学しながら好き勝手に応援して遊んでいたルークが、そう呟いてワゴンを見てごく小さな声で何かを呟く。

 集まってきたシルフ達が、嬉々としてワゴンを押してソファーのすぐ横まで持ってきてくれる。

「おう、上手くいった。ありがとうな」

 笑ってお礼を言ったルークが、ワゴンに置かれた冷えたカナエ草のお茶を飲むのを見て、レイが目を輝かせる。

「ルーク凄い! ねえ、シルフ! 僕も喉が渇きました!」

 嬉々としたレイのお願いに、集まってきたシルフ達が顔を見合わせて頷いた後、また別のワゴンを引っ張ってレイの目の前まで持ってきてくれる。

「ありがとうね」

 起き上がってワゴンに置かれていたピッチャを取り、グラスに注いてぐいっと一気に飲み干す。

 しかし、そのピッチャーはマイリー達の為に用意されていたハチミツ無しのお茶だった為、驚いたレイがまるで庭の池に置かれた石の魚の噴水のように口に含んだお茶を全部吹き出してしまい、油断して寛いでいたマークとキムは、突然降り注いだカナエ草のお茶に揃って情けない悲鳴を上げる羽目になったのだった。

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