敵と味方は誰と誰？
「ちょっと！ マークとキムは僕の仲間だったんじゃあないの！」
毛布に絡まったレイが、床に転がった情けない体勢のまま抗議の声を上げる。
「情勢が有利な方につくのは、当然だよなあ」
「確かにそうだな。敵は少ない方がいい」
大真面目に答えるマークとキムを見て、竜騎士隊が全員揃って吹き出す。
「じゃあ、次は未婚組対既婚対決だ！ あ、タドラは結婚確定の婚約者殿がいるんだから向こうな！」
ルークがそう叫ぶなり、隣にいたタドラをロベリオ達の方へ突き飛ばしながら誰もいないベッドに飛び込んだ。
笑って悲鳴を上げたタドラをロベリオ達が受け止めて吹き出す、
ルークの大声から半瞬遅れて、枕を抱えたマイリーがルークの隣に飛び込んで並んで仰向けになる。
「わあい、今度は仲間だ〜〜〜！」
マークとキムを両手で捕まえたレイが、そのまま二人の上へ飛び込んでいく。
「じゃあ、お前らはこっちだ！」
ルークとマイリーの二人がかりで、飛び込んできたレイ達三人を両手両足まで使って自分達の頭上を超えてそのまま背後へ投げ飛ばした。
広いベッドと、ルークとマイリーの二人だからこそ出来た力技だ。
笑いながらも悲鳴を上げたレイ達三人が腹筋だけで起き上がる。当然彼らの手には枕が両手に一つずつある。
「ベッドをよこせ〜〜〜！」
飛び込んできたヴィゴと若竜三人組をルークとマイリーの二人が枕を振り回して防ぎ、背後からレイ達三人が時間差で攻撃してくる。
「くっ！ 二段攻撃とは、やるな！」
満面の笑みになったヴィゴがそう言って、近くに置いてあったソファーに駆け寄る。
そしてなんと、ソファーの座面部分を掴んでそのまま持ち上げたのだ。
「ええ、それって外れるの？」
「驚くのはそこかよ！」
予想外の光景にレイがそう叫び、笑ったルークがそう叫んでマーク達が吹き出す。
「くらえ！」
持ち上げたソファーの座面はちょっとした簡易のベッドくらいはありそうだ。何しろ大柄なレイ達でも座れるように用意された三人用のソファーなのだから。それを勢いよく振り回すヴィゴを見て、ロベリオ達は大喜びだ。
「総員退避だ！」
笑ったマイリーの叫びと同時に、ルークとマイリーがベッドから飛び降りて床を転がって逃げ、マークとキムもほぼ同時にベッドから飛び降りてこちらも転がって逃げる。
「ええ、ちょっと待ってよ！ 皆酷い！」
ベッドの一番奥にいたレイは逃げ損なってしまい、早々に逃げ出した仲間達を見て情けない悲鳴を上げる。
逃げ遅れて慌てるレイを見て笑ったヴィゴが、大声をあげてソファーの座面を振り回しながら襲いかかってくる。
「うひゃ〜〜〜！」
情けない悲鳴を上げつつも、レイは勇敢にもヴィゴを迎え打つ。
大きく振りかぶって叩きつけられた座面を転がってかわし、両手に持った枕で力一杯ヴィゴを殴る。
しかもその際に、足を振り上げてソファーの座面を押さえつけて乗り上げる器用さを発揮したのだ。これでもう、レイの全体重がかかったソファーの座面はそう簡単に動かせない。
予想外の反撃に遭い、ヴィゴの手からソファーの座面が離れる。
「お見事！ 加勢するぞ！」
そう叫んだルークとマイリーが、枕を振りかぶってヴィゴを左右から同時に殴りにいく。
「ヴィゴを助けろ〜〜〜！」
笑いつつも若竜三人組が、こちらも揃って枕を振りかぶってマイリーとルークを殴りにいく。
「加勢しま〜〜す！」
そこへようやく我に返ったマークとキムも加わり、笑い声と小さな悲鳴、そしてボズボスと枕で殴り合う気の抜けるような軽い音が部屋中に響く。
「よし、一番の大物だ。ヴィゴを捕まえるぞ！」
息が切れて殴り合いが止まったところでルークがそう叫び、戸棚から新しいシーツを掴んで戻ってくる。目を輝かせたレイとマークとキムが一緒になってシーツの端を掴んでベッドを振り返った。
タイミングを合わせて滑り込んだマイリーが、ソファーの座面に勢いよく座ってヴィゴを持っていたクッションでしたから思いっきり殴り上げる。
「うおぅ！」
仰け反ったヴィゴがベッドに仰向けに倒れ込んだところへ、レイ達がシーツを広げて襲いかかった。
「大物確保〜〜〜〜！」
レイの歓喜の叫びにあちこちから吹き出す音が聞こえる。
「捕虜はくすぐりの刑だぞ！」
マイリーの叫びにまたあちこちから吹き出す音が聞こえて、何故かロベリオ達まで参加して、全員揃ってシーツに包まれてもがいているヴィゴに飛びかかった。
「おい、ちょっと待て！」
焦ったようなヴィゴの叫びと同時に、また吹き出す音が聞こえる。
「情勢が有利な方につくのは、当然なんだよな！」
ヴィゴの大きな体を押さえつけたマイリーが、そう言って笑いながら彼の体に馬乗りになる。
夜着の上から補助具を付けたマイリーの左足を見てマーク達が一瞬何か言いかけたが、笑ってヴィゴをシーツの上からくすぐるマイリーの様子に揃って吹き出し、何も言わずに飛びかかっていって一緒になってくすぐり始めた。
「ちょっと、待て。お、お前ら……」
シーツに包まれて笑いながら悶絶するヴィゴの抗議の言葉に、もう皆笑いが止まらない。
「だあ！ いい加減にしろ〜〜〜〜！」
いきなりそう叫んだヴィゴの体が大きく跳ねて起き上がり、上に乗っていたマイリーが勢い余って転がり落ちる。
「復活だ〜〜〜！」
シーツを引き裂かんばかりの勢いで飛び出してきたヴィゴが、笑い声を上げながら仰向けに倒れたマイリーに飛びかかっていく。
「大物二人の直接対決だぞ！」
ロベリオの叫びに、レイ達が揃って吹き出す。
手にしたシーツでマイリーを捕まえようとするヴィゴと、両手に引っ掴んだ枕を振り回して必死になって抵抗するマイリー。
しかし、マイリーが捕まる直前に大きく広げた毛布が二人をまとめて捕まえた。
笑い声と共に、その上からさらに追加で持ってきたシーツが広げて被せられ、若竜三人組が揃って飛びかかっていく。レイとマークとキムも、遅れじとそれに続く。
「負けるか！」
下から毛布とシーツ越しに蹴り上げられて、若竜三人組が悲鳴を上げてベッドから転がり落ちる。そのまま毛布とシーツが跳ね飛ばされ、ちょうど飛びかかったところだったレイ達三人に覆い被さる。
「ぶわあ！」
勢い余ってベッドに倒れ込んだ三人を見て、歓声を上げた竜騎士達が全員揃って飛びかかっていき、毛布越しにくすぐられた三人の悲鳴が重なる。
「ちょっと待って！ ねえってば！ 今の敵味方ってどうなってるの？」
毛布の中から聞こえた至極真っ当なレイの抗議の言葉に、全員揃って大爆笑になったのだった。
