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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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枕戦争開始!

「お先でした!」

 いつもの半分くらいの時間で湯殿から駆け出してきたレイの言葉に、湯の準備をして待ってたマークとキムは、揃って呆れたようにレイを振り返った。

「ええ、もっとゆっくりしてくれていいのに……あはは、髪は乾かさずにそのまま出てきたのか。それなら俺達が湯を使っている間に乾かせるな」

「じゃあ、俺達も遠慮なく使わせてもらうよ。ここの湯殿は広いから、普段と違ってゆっくり出来るんだよなあ」

 笑ったマークの言葉に続き、キムも嬉しそうにそう言って二人は揃って湯殿へ向かった。

 普段、マークとキムは兵舎の下級兵士用の湯殿を使っているので、湯を使える時間も限られているし、ゆっくり湯に浸かる時間や場所なんてそもそもない。

 一般兵達に日常的に湯を使わせるのは、ある程度の清潔感を保たせて病気や感染症、あるいは体に付く害虫などを防止する為の意味合いが強い。なので広い湯殿であっても大人数で利用するので、半身浴をして汗を湯で流し髪や体を拭く程度の広さしかない。

 レイは、そもそもゴドの村にいた頃は湯を使う機会など無く水で体を拭く程度の事しかしていなかったし、蒼の森の石のお家では、広い湯殿でタキス達と一緒にゆっくり湯に浸かって暖まり綺麗に体を洗うのを日常的にしていた。竜騎士隊の本部でも同じようにしていたので、逆に一般兵として第六班のカウリ伍長の元へ応援要員の名目で行った時、初めて軍隊式の湯の使い方を知ったレイは、あまりの人の多さと時間の無さに驚きすぎて何も出来ず、ただ着ていた服を脱いで足を少し洗っただけで時間が終わってしまったのだ。

 その日の夜にニコスのシルフ達からその辺りの事情を改めて教えてもらい、翌日からは開き直って、皆と一緒になっておしくらまんじゅう状態になりながらもしっかりと汗を湯で洗い流していたのだった。



「はあ、気持ちいいね」

 シルフ達が風を送って髪を乾かしてくれている間、レイは機嫌の良い竜のようにうっとりと目を閉じて顔を上げ、ご機嫌で時折櫛で髪をときながら暖かな風を感じていた。

「お待たせ!」

「よし、快適だ!」

 髪を乾かしたレイが、用意してくれてあった冷たいカナエ草を飲んでいたところで、さっきのレイと同じくらいに頬を紅潮させたマークとキムが戻ってきた。彼らの髪は短いので、レイとは違ってもうすっかり乾いている。

「せっかくなんだから、もっとゆっくりしてくればいいのに」

 用意した二個のグラスに冷えたカナエ草のお茶を入れてやりながら、呆れたようにレイがそう言って笑う。

「いやあ、いつもそう思うんだけどさあ。身についた習慣ってやつで、ついつい早く上がっちまうんだよなあ」

「確かにそうだよなあ。手足を伸ばして湯に入ると、何だか落ち着かない!」

 キムの言葉にマークも笑いながらそう言い、二人は顔を見合わせてそうだそうだと言って大笑いしていた。

「じゃあ、それも慣れてもらわないとね。はい、どうぞ。冷たくて美味しいよ」

「ああ、ありがとうな」

「湯上がりには冷たいのがいいよな」

 差し出された冷たいカナエ草のお茶を受け取って飲み干す。

 三人揃っておかわりを飲み干したところで、軽いノックの音がしてロベリオを先頭に若竜三人組が部屋に入ってきた。

 三人ともゆったりとした夜着に身を包み、大きな枕を抱えている。

「あれ、俺達が一番だったか」

「いらっしゃい! もう準備万端だよ!」

 飲み終えたグラスをワゴンに戻したレイの言葉に、ロベリオがにんまりと笑って手にしていた枕を大きく振りかぶった。

「それじゃあ、せっかくだから先に始めますか!」

 その言葉と同時に、ユージンとタドラも揃って枕を振りかぶり、レイ達に飛びかかってきた。

 悲鳴を上げたレイ達三人が、慌ててベッドの枕に手を伸ばす。

「させるか〜〜〜!」

 ユージンの言葉と同時にマークが吹っ飛ばされてベッドに倒れ込み、ほぼ同時にレイとキムもロベリオとタドラに枕で殴られてベッドへ倒れ込んだ。

「武器確保〜〜〜!」

 しかし、長い腕を伸ばして並べられていた枕を引っ掴んだレイは、そう叫んで振り返りざまに力一杯枕を振り回した。

「うひゃ〜〜〜!」

 情けない悲鳴を上げたロベリオが勢い余ってベッドから転がり落ちる。

 マークとキムも、何とか枕を引っ掴んで振り回し、反撃を開始していた。

 笑いながらボスボスと音を立ててお互いを殴り、ベッドの陣取り合戦が唐突に始まった。

 羽布団と毛布をまとめて筒状にしたキムがベッドの真ん中にそれを放り投げるみたいにして置き、それを境にして枕で殴り合う。レイ達は壁を背にして守りの体制に入り、ロベリオ達がベッドの陣地を襲撃する側だ。

「増援部隊到着〜〜〜!」

 一進一退の攻防が続いていたその時、開けっぱなしだった扉から両手に枕を持ったルークとヴィゴが飛び込んできた。その後ろには、同じく両手に枕とクッションを持ったマイリーも続く。

「ええ、六対三は卑怯です〜〜〜!」

 一気に劣勢となり、羽布団の城壁を破壊されたレイが、情けない悲鳴を上げて枕を振り回す。

「捕虜確保だ〜〜〜!」

 そう叫んで飛びかかってきたヴィゴだけでなく、マイリーまで参戦しての二人がかりであっという間に押さえ込まれてしまい、全く抵抗出来ずに確保されて毛布で包まれるレイを見て、ルークだけでなくマークとキムまで揃って吹き出す。

「ちょっと! マークとキムまで笑うって酷い! うひゃあ! そこは駄目ですって!」

 毛布越しに二人がかりで脇腹をくすぐられてしまい、情けない悲鳴を上げるレイが勢いよく起き上がる。

「あ!」

 ルークとマーク達は、次に起こる惨状を予想して焦って声を上げたが、さすがの二人は即座に顔を上げて仰け反りレイの頭突きから逃れて、もう一度レイを押さえつけた。

「俺達に頭突きで攻撃しようなんて、百年早いぞ〜〜〜!」

 文字通り袋叩きに遭いつつも何とか毛布の隙間から顔を出したレイは、今度は襟足を二人がかりでくすぐられてまた情けない悲鳴を上げたのだった。



『何ともにぎやかな事だな』

 何故か仲間であるはずのマーク達にまで飛びかかられて全員からくすぐられて、またしても情けない悲鳴を上げて毛布ごとベッドから転がり落ちるレイを見て、ブルーの使いのシルフが呆れたようにそう言って笑う。

『でも、皆笑顔ですね』

『本当にとても楽しそう』

『たまには良いではありませんか』

『そうそう遊びもたまには必要ですよ』

『マイリーがあんなに楽しそうに笑うなんてね』

『確かに良い笑顔ですね』

 それぞれの竜の使いのシルフ達も、無邪気に遊んで枕で殴り合っては大笑いしている愛しい主達をとろけるような瞳で見つめつつ、そう言っては笑って頷き合っていたのだった。

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