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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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再現実験と冬将軍の到来

「同時に三つ以上の精霊魔法を合成させる。いずれ誰かが言い出すだろうとは思っていたが、意外に早かったな」

 面白がるようなブルーの言葉に、マークが驚いたようにブルーを見上げる。

「其方達から合成魔法について聞いて以来、我も、何か出来る事はないかと色々と考えてみた。その一つが、三つ以上の精霊魔法の同時合成だった。実際にやってみた事もあるぞ」

「そ、それでどうだったのですか!」

 まさか古竜であるブルーが自分と同じ事を考えていたと知り、マークはもう大興奮状態だ。隣では、キムとレイも同じくらいに目を輝かせてブルーを見上げている。

「我は、先ほどの実験とは逆に、光の精霊魔法に火と風の精霊魔法を加えるやり方でやってみた」

 真顔の三人が、それはそれは真剣な顔で自分を見上げているのを見て、目を細めたブルーは喉の奥で笑った。

「結果は失敗だった。急激に温度が下がり炎は吸い込まれるように爆散した」

「急激に温度が下がり炎が吸い込まれるように爆散した? それってつまり、温度が上がるのではなく急激に下がった事で、圧力がかかって……」

 マークが自分の手を見つめたまま、何やら真剣に考え込む。

「あの、実はですね……」

 口を開きかけたマークが、不意に黙り込む。

「構わぬから言ってみなさい」

 ブルーに促されたマークは、真剣な顔で頷いて二人から少し離れた。

「実は以前、それと似たような結果になった事があります。ええと再現してみますので、また万一の際にはお守りください」

「もちろんだ。何があろうと守ってやる故好きにしなさい」

 笑ったブルーに改めてお礼を言ったマークは、一つ深呼吸をしてからレイとキムを振り返った。

「実は以前、思いつきでこんな実験をこっそりやってみた事があるんだ。これは危ないと思って途中で咄嗟にやめたんだけど、今なら出来ると思う。あれと同じ状態を再現出来るかどうか分からないけど、ちょっとやってみるから、念のためもう少し離れていてくれよな」

 頷いて少し下がってブルーの近くへ行ったレイとキムを見て、マークは先ほどのように真剣な顔で一度深呼吸をしてから両手を顔の前にあげた。

 しかし、先ほどとは違って人差し指だけを伸ばして残りは握った状態だ。

 指先同士を20セルテほど離した状態で右手の指先には小さな炎が、そして左手の指先にはごく小さな旋風が巻き起こった。

 そして指をそっと近づけて付き合わせるようにした瞬間、光の玉が現れてその間へするりと潜り込んだ。



「ああ!」



 次の瞬間、レイとキムの驚いた声が重なる。

 炎と風に光の玉が重なった瞬間、マークの指先は第一関節まで凍りついていて、その指先には子供の握り拳ほどの氷の塊が現れていた。

「痛い! 冷たい!」

 焦ったようなマークの悲鳴の直後、苦笑いしたブルーが軽く首を振るとウィンディーネ達とシルフ達が一斉に現れてマークの指先を叩いた。

 キン!

 金属を叩いた時のような甲高い音がして、マークの指先にくっついて固まっていた氷の塊が一瞬で弾けて消える。

「あ、ありがとうございます……うわあ、思った以上にデカい氷になったなあ」

 両手で指先を揉むようにして温めながら、マークが小さくそう呟く。

「ええ、ちょっと待って! 合成するのに使ったのは同じ火と風、それから光の精霊魔法だよね。さっきはマークが火傷をするくらいの熱風になったんだよ? それなのに、今回はマークの指先までが凍りついた。同じ精霊魔法を合成したのに結果が真逆になるってどういう事なの?」

 真顔のレイの叫びに、ブルーは満足そうなため息を吐いた。

「まず、そこに気がつけば第一段階は合格だ。では、どうしてこうなったと思う?」

 三人が揃って無言になった時、はらりとレイの鼻先に何かが落ちてきた。

「あ、雪だ……」

 キムの呟きにレイも慌てて空を見上げると、まるでさっきのマークの氷に呼ばれたかのように、良いお天気だった空には真っ黒な雲が頭上いっぱいに広がっていて、チラチラと真っ白な雪が舞い始めていた。

「おやおや、冬将軍殿を呼んでしまったようだな。このところ良いお天気が続いたので安心しておったが、そろそろオルダムも雪に埋もれるかな?」

 面白がるようなブルーの呟きの直後、冷たい風が吹き付けてきて三人は震え上がった。

「うん、今の実験の検証は部屋に戻ってやろう。このまま外にいたら僕達三人とも氷ついちゃうよ。ねえブルーはどうする?」

 あっという間に降り始めた粉雪を片手で払いながら、レイがブルーを見上げてそう尋ねる。

「まあ、我にとってこの程度の雪ならば問題はないが、其方達が部屋に戻ったら我も一旦湖へ戻らせてもらうよ。検証にはシルフを寄越すゆえ一緒に考えるとしよう」

「そうだね。それじゃあまたね」

 差し出された大きな頭に抱きついて鼻先にキスを贈ったレイは、笑顔でそう言ってから手を離し、二人と並んで建物の中へ駆け込んで行った。



「うああ、寒い〜〜〜!」

 建物の中へ駆け込んだところで、マークが頭についた雪を払いながらそう言って震えるふりをする。

「どうぞ、これをお使いください。温かいお茶を先程のお部屋にご用意致しておりますので、どうぞ暖まってください」

 控えていた執事に綺麗に畳まれた柔らかな布を渡され、揃ってお礼を言った三人はとにかく濡れた髪や制服を急いで拭った。

「なあ、俺達が普段汗を拭いたり雨に濡れた時に使っている布とは全然違うよな。柔らかいし、めっちゃ水吸ってくれる」

「確かに、これなら顔を拭いても痛くないぞ」

 顔を見合わせた二人がそう言って笑っているのを見て、レイも笑顔で頷いて顔を拭った。



 一息ついたところで執事の案内で先ほど食事をした部屋に行き、新しく用意されていたお菓子の数々を前に大喜びの歓声を上げた三人は、暖かいカナエ草のお茶と一緒にお菓子をいただきながら、我慢出来なくなって先ほどの実験についての持論を思いつくままに話しては楽しそうに激論を交わしていた。

 ブルーの使いのシルフはレイの食べていたお皿の縁に座ってそんな三人を愛おしげに見つめながら、時に横から会話に加わり魔法理論の矛盾点を指摘したり、お皿に残ったチョコレートソースで魔法陣を嬉々として描き始める三人を呆れたように眺めたりしていたのだった。

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