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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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書斎での時間

「うわあ、すっげえ。読んだ事のない本がこんなにある!」

 簡単に分類しただけで、机の上には見た事も読んだ事もない本が見上げんばかりに積み上がり、三人は揃って歓喜の叫びをあげた。

「だよなあ。本当に凄すぎるよ……ああ、俺は純粋にここの本を読む時間が欲しい!」

「確かに〜〜! 資料集めのための拾い読みじゃあなくて、俺も気がすむまでここの本を熟読したい!」

 大きなため息と共に肩を落とす二人を見て、苦笑いしたレイが一冊の本を手に取って開いた。

「確かにそうだね。僕も時間を気にせずじっくり読みたいなあ。あ、じゃあ今度ここで本読みの会をしようか。きっと有意義な時間が過ごせると思うよ」

 笑ったレイの言葉に、顔を上げた二人は揃って目を輝かせ、三人揃って笑顔で何度も頷き合った。



「えっと……この本の著者は初めて見る名前だけど、これは二百年くらい前の光の精霊魔法に関する大学での論文がまとめられた本のようだね。って事は、著者は大学の光の精霊魔法の教授なのかな? 二百年前なら、今とは少し魔法陣の描き方が違っている部分もあるだろうけど、術そのものが変わったわけではないからこれは参考になりそうだね」

 笑顔のレイが、そう言って手にした本をマークの前に置く。

「ううん、これは目次を拾い読みしているだけでもあっという間に時間が過ぎそうだ。とりあえず、先に資料用の本を集めよう。このままだと絶対に期限内に資料作りが終わらないぞ」

 そう言って大きなため息を吐いたキムは、積み上がった未整理の本を見てからまたため息を吐いて、いつもの本棚の精霊魔法に関する書物が並んだ一角に向かった。

「確かに、これは時間のある時にじっくり読まないと無理だな。じゃあ名残惜しいけどこっちはやめて、俺達は向こうのいつもの本を見るよ」

 苦笑いしたマークは、先ほどレイが渡してくれた本を手にキムの横に並んでいつもの本棚を見上げた。

「じゃあ、レイルズにはそっちの新しい本棚の本を見てもらって、何か俺達に必要そうな新しい本があれば教えてくれよ」

「いいなそれ。資料作りでレイルズに手伝って欲しい事があればその時には遠慮なくお願いするから、とりあえずそっちは任せた!」

 笑ったキムの言葉にマークも笑顔で頷き、二人揃ってレイルズを振り返った。

「ええ、お手伝いするつもりだった、いいの?」

 新しい本を開いていたレイが、その言葉に驚いたように顔を上げて二人を見る。

「もちろん、手伝って欲しい事があったらその時は頼むからさ」

「特に、最後の確認と検算とかだな」

「あはは、了解。それじゃあ、何か良さそうな本を見つけたらそっちへ持っていくからね」

 笑ったレイの言葉に、二人も笑顔で頷く。

 そこからは、マークとキムは書斎に置かれた大きなテーブルに遠慮なく資料を広げて、時折顔を寄せて相談をしながら取ってきた本を開いては熱心にノートに書き写したり、真剣な様子で計算をしたりしていた。



 それからしばらくの間、聞こえてくるのは静かな息遣いとページをめくるかすかな音、それからカリカリとペンを走らせる音、時折聞こえる算術盤の音だけというとても静かな、それでもそれぞれに充実した時間を過ごしていた。

 本棚に並んで座ったり頭上に集まったりしてそんな彼らをしばらく眺めていたシルフ達だったが、全く相手をしてくれない三人の様子に次第に退屈してしまい、くるりと回って次々に消えていった。

 それでも時折不意に現れては、読んでいる本のページを勝手にめくろうとして止められたり、散らかった資料でこっそり遊ぼうとして無言で止められたりしていた。

 ブルーのシルフとニコスのシルフ達は、基本的にはレイの肩に座って一緒に本を読んでいたが、時折マークやキムのところへ飛んでいってはその手元を勝手に覗き込んでいたりもしていた。

 二人はそんなシルフ達の様子に気がついていたが特に何か言うような事もなく、静かで穏やかな時間が過ぎていったのだった。



「はあ、ちょっと休憩……ううん、肩がガチガチだ」

 ノートを閉じて一つ深呼吸をしてから顔を上げたキムが、小さくそう呟いて腕を伸ばす。

 その時、部屋中に唐突に大きな音が鳴り響いて三人同時に吹き出す。

「ご、ごめんなさい。今のは僕のお腹の音です」

「ええ、俺も鳴ったぞ」

「そうなのか? 俺も鳴ったと思うぞ」

 苦笑いしたレイが右手を挙げて白状すると、驚いたように目を見開いたマークとキムも、それぞれのお腹を押さえながらそう言ってお互いの顔を見た。

 もう一度三人揃って思いっきり吹き出す。

「あはは、腹の虫は正直だな。確かに腹減ってきたよな。ええと、今って何時なんだ? 鐘の音って聞こえたか?」

 立ち上がったキムがそう言って首を傾げながら頭上を見る。

『少し前に午後の二点鐘の鐘が鳴っていたぞ。隣の部屋では、そろそろ其方達に食事をするように勧めるべきかと、執事達が真剣な顔で相談しておるな』

 レイの右肩に座ったブルーの使いのシルフの言葉に、三人が揃ってまた笑う。

「鐘の音、全然気が付かなかったなあ」

「確かに。まあ集中していると元々鐘の音なんて無意識に聞き流しているからなあ」

 小さくため息を吐いたマークとキムが、揃って苦笑いしながらうんうんと頷き合っている。

「僕も、集中していると鐘の音って聞き流しちゃうね。特にここは窓も開いていないし、城の鐘楼からも少し離れているから、この書斎にいたら鐘の音はほとんど聞こえないんだよね」

 笑ったレイの言葉にマークも伸びをしながら立ち上がる。

「じゃあ、一度休憩にして食事をさせてもらうか……って、ちょっと待て! レイルズって、今日はどなたかの昼食会に誘われているって……言ってなかったっけ……?」

 唐突に真っ青になったマークの叫ぶような言葉に、キムも一気に真っ青になる。

「あ……本当だ……」

 困ったようにそう言ったレイは、首を傾げながら閉まったままの扉を見た。

「ええ、大丈夫なのかよ……?」

「ううん、どうしよう。すっかり忘れていたけど、今更どうしたらいいんだろう?」

 マークの困ったような呟きに、レイも同じぐらい困った顔をしてそう呟いていたのだった。

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