手合わせと嬉しい報告
「ありがとうございました〜〜〜!」
起き上がったレイが目を輝かせながら大声でそう言って頭を下げるのを見て、手を止めたヴィゴは苦笑いしつつも同じように頭を下げてくれて、手合わせが一旦終了した。
「いやあ、ヴィゴも凄いけど、レイルズの何度叩きのめされても即座に復活して挑んでいくあの元気がどこからくるのか、冗談抜きで教えて欲しいもんだねえ」
「本当だよねえ。教えてくれたら拾いに行くんだけどなあ」
「確かに僕も教えて欲しいかも。拾ってきたらもうちょっと踏ん張れたかなあ」
揃ってヴィゴに弾き飛ばされて吹っ飛び、床に転がったまま好き勝手な事を言っている若竜三人組を見て、最後にレイを庇って弾き飛ばされたルークも呆れたように笑いながら、それなら俺も欲しいなあ、と小声で呟いてマイリーに頭を叩かれていた。
若竜三人組とレイに、ルークまで加わって行われた激しい乱打戦だったが、実質その五人対ヴィゴの対決の構図となっていた。と言っても、今回は作戦会議など無しでの即興の攻撃となった。
最初は少し押し気味に攻められたが、しかし若竜三人組が次々にヴィゴに各個撃破されて脱落してしまい、ルークとレイ対ヴィゴの対決となったあとは、もうほぼ一方的に二人が攻められる構図となり、見かねたマイリーが乱入してきて押し返したもののルークとレイがほぼ同時に弾き飛ばされ、そこで手合わせは終了となったのだった。
「はあ、やっぱりヴィゴはすごいなあ……もっと頑張らないと」
レイは床に座ったまま何度か深呼吸をして息を整えながら、マイリーと笑顔で話をするヴィゴを尊敬の眼差しで見つめていたのだった。
そのあとは、夕刻までヴィゴとマイリーとルークに交代で棒や木剣で手合わせをしてもらい、良かったところや悪かったところなどを詳しく教えてもらって過ごした。
今日は夜会の予定も会食の予定も無いので、一段落したところで一旦部屋に戻って汗を流してから食堂で夕食を食べ、そのまま何となくいつもの休憩室へ皆で行ってのんびりと寛いだり陣取り盤をしたりして過ごした。
マイリーとルークの対決を目を輝かせて見ていたレイとティミーだったが、いつもなら一緒になって見て横から今の攻撃方法など詳しい説明をしてくれるロベリオ達が妙に大人しいのに気が付き、レイは密かに首を傾げていた。
結局マイリーの勝利で終わったその勝負の後、いつものように先ほどの勝負を再現しつつマイリーに解説してもらったあと、ずっと黙ったまま呑んでいたロベリオとユージンを振り返った。
「えっと、僕の気のせいかもしれないんだけど、ロベリオとユージン、今日は二人揃って具合でも悪いの? なんだか午後からずっと元気がない気がするんだけど、大丈夫?」
心配そうなレイの真っ直ぐな質問に、呑んでいた手を止めた二人が何故か慌てたように揃って何か言いかけて揃って咳き込む。
いつもと違うその様子に、マイリー達も何事かと驚いて二人を見た。
「確かに二人の様子がいつもと違うな。事務所での件もあるし……冗談抜きで何かあったのか?」
同じく心配そうなルークの言葉に、顔を見合わせたロベリオとユージンは、揃って大きなため息を吐いた。
「あの、では報告させてください!」
「僕からも報告させてください!」
いきなり居住まいを正した二人の大声に、何事かとティミーを含む全員が慌てて居住まいを正した。
「じ、実はその……」
唐突に真っ赤になったロベリオが、消えそうな声でそう言って両手で顔を覆う。
「俺達二人、子供が出来ました!」
横から、ユージンが大声で叫ぶようにそう言ってこちらも真っ赤になる。
「ええ? ロベリオとユージンはどっちも男性なんだから子供は出来ないでしょう?」
真顔のレイの言葉に、レイ以外の全員が揃って吹き出し大爆笑になったのだった。
「まったく、お前は……ちょっと考えたら分かるだろうが!」
笑いながらのティミーに説明してもらってようやく理解したレイは、ルークに頭を小突かれながらこちらも顔を真っ赤にして大笑いしていた。
ロベリオとユージンも、一緒になって恥ずかしさを誤魔化すようにレイを突っついては笑っていたのだった。
聞いていたそれぞれの竜の使いのシルフ達も、一緒になって笑ったあとはロベリオとユージンにそれぞれ祝福の言葉とキスを贈っていたのだった。
『ふむ、めでたい事は続くものなのだな。願わくば今年は良き事ばかりが続くよう、我からも精霊王に祈らせてもらうとしよう』
笑ったブルーの使いのシルフの言葉に、あちこちから同意の声が上がっていたのだった。




