嬉しい話
「おまたせ! それで、どうだった?」
事務所の隣の空いた小部屋に駆け込んだロベリオは、ソファーに座りながら一緒に入ってきたシルフ達をすごい勢いで振り返った。
『ああ忙しい時にすまない』
『先ほど診察が終わったよ』
『それでガンディによると』
『その……間違いないと』
『間も無く三月程だろうってさ』
ソファーの前に置かれた低めのテーブルに並んで座った伝言のシルフ達が、この伝言のシルフ達を寄越した奥方であるフェリシアの嬉しそうな笑顔まで一緒に伝えてくれる。
「ああ精霊王よ感謝します! おめでとうフェリシア。どうか大事に!」
ソファーから立ち上がったロベリオは大声でそう言って伝言のシルフに顔を寄せた。
「それで体調は? 今はもう大丈夫なのか?」
実は、昨日本当なら彼女もガンディの診察を受けて妊娠しているかどうかをシルフ達に調べてもらう予定だったのだが、彼女が急に体調を崩してしまい、しかも腹痛と貧血に加えて軽い嘔吐の症状まであった為に、まずはそちらの治療を優先してもらったのだ。
そして容体が落ち着いた今日、改めてガンディにシルフを使った診察をしてもらい、結果が分かれば伝言のシルフを寄越すと聞いていたのだ。
実を言うと今日のロベリオはそれはもう朝から全く落ち着かず、平然と仕事する振りはしていたものの書類仕事も全く捗っていなかったのだ。
その後、しばらく話をしてから伝言のシルフ達を見送ったロベリオは、大きなため息を吐いて顔を覆った。
「うわあ、予想はしていたけど、実際彼女の口から聞くとめちゃめちゃ嬉しい……どんな顔して事務所へ戻ればいいんだよ〜〜〜!」
顔を覆ったままソファーの背もたれにもたれかかったロベリオは、まるで子供のように足をジタバタとさせてから
もう一度大きなため息を吐いて軽く身震いをした。
「今ならカウリの気持ちが分かるよ。嬉しいけど……嬉しいけど、本当に俺なんかに父親役が務まるのかな……」
自信なさげなその呟きを聞いたロベリオの竜の使いのシルフが、ふわりと飛んできてそんな彼の指先にそっとキスを贈る。
「ああ、アーテル。聞いてた?」
指の隙間から自分の愛しい竜の使いのシルフを見たロベリオが、顔を覆っていた手を下ろして少し恥ずかしそうに笑って声をかける。
『もちろん聞いていたよ』
『おめでとうロベリオ』
『奥方にも心からの祝福を贈ろう』
『お二人の子供なのだから』
『きっと最高に可愛い子が産まれるだろう』
『本当に楽しみな事だ』
とろけるようなその優しい言葉に、ロベリオもこれ以上ないくらいの笑顔になる。
「そうだな。まずは元気に生まれてきてくれるように、これから毎日精霊王にお祈りする事にするよ」
最後は少しふざけた風にそう言って笑ったロベリオは、もう一度ため息を吐いてからまた顔を覆った。
「うああ〜〜まじで嬉しい!」
小さな声でそう呟いて、また足をジタバタさせる。
その時、軽いノックの音がして慌てて扉を振り返る。
「入っていいか?」
「おう、もう終わったから入ってくれていいぞ」
伺うような遠慮がちなユージンの声に、ロベリオは笑って答える。
「で、どうだったんだ?」
部屋に入って扉を閉めるなりそう尋ねたユージンの言葉に、ロベリオはもうこれ以上ないくらいの笑顔で大きく頷く。それを見たユージンも笑顔になり、駆け寄ってきて頭上で手を叩き合った。
「じゃあ、今夜にでも皆に改めて報告かな?」
「だな。しかし二人して一緒の頃に生まれるって、なんと言うか……」
「だなあ……」
改めて顔を見合わせた二人はそう言ってほぼ同時に吹き出して、それからもう一度頭上で手を叩き合ってから大笑いになったのだった。
『どうやら、二人揃っておめでたい話のようだな』
笑ったブルーの使いのシルフの言葉に、事務所の窓辺に並んで座っていたそれぞれの竜の使いのシルフ達が揃って笑顔で頷く。
特に、ユージンの竜であるアンバーの使いのシルフとロベリオの竜であるオニキスの使いのシルフは、揃ってとろけるような笑顔で何度も頷いている。
『新たな命の誕生は』
『我らにとっても大いなる喜びだからね』
『無垢なる命は』
『何よりも愛おしきものだからね』
口々にそう言って笑顔で頷き合うそれぞれの竜の使いのシルフ達を、ブルーの使いのシルフも嬉しそうな笑顔で見つめていた。
『良き事は続くものよな。さて、我が主殿にもいつかこんな時が来るのであろうかな?』
笑ったブルーの使いのシルフの言葉に、他の竜の使いのシルフ達も笑顔になる。
『きっとすぐですよ』
『その時のラピスの様子を楽しみにしておくとしよう』
『きっと大騒ぎになるでしょうからね』
『ああ全くもってその通りだな』
次々にからかうようにそう言われて反論しかけたブルーの使いのシルフだったが、少し考えてから笑顔で頷いた。
『そうだな。恐らく張り切って色々とレイや彼女に教える事になるだろうから、その時慌てぬように、今のうちから必要な情報は集めておくべきだな』
『そうですね。では色々と教えて差し上げましょう』
この中では唯一の子持ちの主であるヴィゴの竜であるガーネットの使いのシルフが、胸を張ってそう言いブルーの使いのシルフの横に移動する。
『それならば我も参加せねばな』
得意げにそう言って反対側に姿を現して座ったのは、アルス皇子の竜であるルビーの使いのシルフだ。
二人に挟まれたブルーの使いのシルフは、小さく吹き出してからうんうんと頷く。
『そうだな。では、我が主殿の今後の為にも、経験豊富な先輩方に教えを請うとしようか』
大真面目なブルーの言葉に、他の竜の使いのシルフ達が一斉に笑う。
『ならば我らも教えてもらわねばな』
『その通りですね』
オニキスとアンバーの使いのシルフが、これも大真面目にそう言ってガーネットとルビーの左右に座る。
『うむ、ではよろしく頼む』
笑ったブルーの使いのシルフの言葉に、並んで座ったそれぞれの竜の使いのシルフ達だけでなく、呼びもしないのに勝手に集まってきていたシルフ達までもが楽しそうに揃って声を上げて笑っていたのだった。




