寝過ごした朝と新作寝癖!
『らんらんら〜〜〜ん』
『ふんふんふ〜〜〜ん』
『あっちとこっちをぎゅっとして〜〜〜』
『そっちとこっちもぎゅっとして〜〜〜』
『もぎゅもぎゅ楽しい』
『らんらんら〜〜〜ん』
『もぎゅもぎゅ楽しい』
『らんらんら〜〜〜ん』
冬の遅い夜明けまでまだ少し時間がある早朝、まだまだ熟睡してるレイの周りでは、集まってきたシルフ達がご機嫌で即興の歌を歌いながらせっせとレイの髪を細い三つ編みにして遊んでいた。
今朝は、まずはこめかみの三つ編みと同じくらいの細さに全部の髪の毛を細かく三つ編みにしていき、今度はそれをしっかりと結び合わせてはまた隣の三つ編みとしっかりと結び合わせ、結び目が頭にピッタリと張り付くようにして髪を固めていっているのだ。
硬くて癖毛な髪を短く刈り込んでいるヴィゴのように、いつもはふわふわなレイの髪の毛はいくつもの結び目になって完全に固まってしまっている。
遠目に見れば、これは赤毛を短く刈り込んでいるように見えるだろう。
勤勉なシルフ達の手によりこめかみの三つ編み以外は全て結び固められてしまい、とうとうもう遊ぶ髪が無くなってしまった。
退屈した何人かのシルフ達は床に敷かれた毛足の長い絨毯で遊び始め、また他の何人かは窓辺に吊るされた植木鉢用のハンガーの紐の端で遊び始めた。
それ以外の子達は、未練がましくレイの周りに集まって、硬く結ばれた結び目を叩いたり押したり、結び目の横の短くなった三つ編みの端を叩いたり引っ張ったりして遊び始めている。
「う、うん……」
しかし、額の生え際ギリギリのところにある短い毛を見つけたシルフ達がそれを引っ張って遊び始めた為、顔をしかめたレイが不意に寝返りを打って反対側を向き、嫌がるようく小さく唸ってそのまま毛布の中に深く潜り込んでしまった。
それを見て、周りにいたシルフ達が慌てたように毛布を引っ張るが、毛布の端をレイが握り込んでる為に毛布から顔を出す気配がない。
『もぐっちゃった〜〜〜』
『引っ張っても駄目だねえ』
『駄目だねえ』
『駄目駄目』
『駄目駄目』
レイが潜り込んだせいでこんもりと膨らんだベッドの毛布を見て、シルフ達は顔を見合わせて笑い出した。
『ええん遊べないよ〜〜』
『遊べないよ〜〜』
『ええんええん』
何人かのシルフ達が、楽しそうに笑ってそう言いながら泣く真似を始めている。
『でももう遊ぶ髪が無いよ?』
『確かに無いねえ』
『ないない』
『ないない』
それを見た別のシルフ達が呆れたようにそう言って揃って首を振ると、周りにいた他のシルフ達も笑いながら同意するようにうんうんと頷き、顔を見合わせてまた笑う。
その時遠くで六点鐘の鐘の音が鳴り、それから少しして扉がノックされた。
「おはようございます。レイルズ様。朝練に行かれるのならそろそろ起きてください」
いつもの白服を手にしたラスティの声が聞こえたが、まだ熟睡しているレイは起きる気配がない。
「おや、今朝はまだお休みのようですね。珍しい」
部屋に入ってきたラスティは、ベッドから全く返事がないのに気が付いて思わずそう呟く。
いつもなら、ラスティが起こしにくる前に起きている事も多いし、大抵の場合は軽く声をかけただけで起きてくるのに、しかし今朝は気持ちの良い寝息がここまで聞こえてきているので、これは本当に熟睡しているようだ。
朝練の参加は強制ではないし、どうやら昨夜は解散した後も大人組と若竜三人組に分かれてまた呑んでいたらしく、実は今朝はまだ誰も起きてきていない。
ティミーは起きていても、指導役のロベリオとユージンがどちらも朝練に不参加の場合は、彼もお休みしている事が多いので今朝の朝練はおそらくだが不参加だろう。
「ではもう、今朝はこのままお休みいただきましょうか。失礼いたしました」
小さく笑ってそう言うと、こんもりと膨らんだベッドに向かって一礼して白服を手にしたままラスティは部屋を出ていった。
そんな彼を見ていた何人ものシルフ達が、揃って彼の後ろ姿に投げキスを贈った。
もちろん精霊が見えないラスティはそれに気付かずにそのままドアを閉めてしまったが、気にする様子のないシルフ達は顔を見合わせて笑うと、熟睡しているレイの頭上に集まって楽しそうに手を取り合って踊り始めた。
窓辺に座ってラスティの様子を黙って見守っていたブルーの使いのシルフは、そんな彼女達を見て小さく笑うと、ふわりと飛んでいき一緒になって楽しそうに踊り始めたのだった。
「ううん……あれ?」
レイが目を覚ましたのは、それからかなりの時間が経ってからの事だった。
『おはよう、よく眠れたか?』
レイが目を覚ますとすぐにブルーの使いのシルフが枕元に現れて、笑顔でそう言って鼻先にキスをくれた。
「おはようブルー、えっと、もしかして僕……寝過ごしちゃった?」
いつもの時間ならこの時期は夜が明ける前なのでまだ暗いはずなのだが、開けられたカーテンから見える外はすっかり明るくなっている。
『ついさっき九点鐘の鐘が鳴っていたぞ』
笑みを含んだ声でそう言われて、まだ横になったままだったレイは腹筋だけで即座に起き上がった。
「ええ、それは寝過ぎだね」
ブルーの使いのシルフと顔を見合わせて笑ったレイは、ベッドに座ったまま腕を上げて思いっきり伸びをした。
「ううん、じゃあ起きよう。今日の予定は聞いていないけど、もし時間があればちょっと体を動かしたい。なんだか少し体が鈍っている気がする」
肩を回しながらそう呟き、そのまま顔を洗うために洗面所へ向かおうとして違和感を覚えて立ち止まる。
『ん? いかがした?』
一緒についてきていたブルーの使いのシルフが、不思議そうにそう言って急に足を止めたレイを見る。
「えっと……なんだか嫌な予感がするんだけど……」
小さな声でそう呟き、恐る恐る右手を上げて自分の頭をそっと触る。
「あれ? 何だこれ? ねえ、これって……頭に何か被せてあるの?」
いつもとは全く違う手触りに首を傾げたレイが、周りで目を輝かせながら自分を見ているシルフ達を見上げて頭を触りながらそう尋ねる。
『新作なの〜〜〜』
『新作新作〜〜』
『楽しかったんだよ〜〜』
『らんらんなの〜〜〜』
口々にそう言って嬉しそうに笑うシルフ達を見て苦笑いしたレイはとにかく洗面所へ向かい、鏡を覗き込んで自分の頭を見た瞬間、驚きのあまり大声を上げてしまった。
「ええ〜〜〜! なにこれ〜〜〜!」
突然聞こえた大声に何事かと血相を変えて部屋に飛び込んできたラスティと執事は、扉が開いたままの洗面所へ先を争うようにして飛び込んでいった。
そして、床に座り込んで大爆笑しているレイの頭を見てほぼ同時に堪える間も無く吹き出し、揃って膝から崩れ落ちたのだった。
『大成功〜〜〜』
『新作は大人気だね〜〜〜』
『大人気大人気〜〜〜』
揃って床に座り込んで笑い転げる三人を見たシルフ達は、手を叩き合って得意そうにそう言いながら大喜びで笑っていたのだった。




