若竜三人組の場合
「ううん、カウリから未だになんの連絡も来ないって事は……」
「難産なのかなあ」
「そうみたいだね。本当に大丈夫なのかなあ。ちょっと心配になってきたよ」
ロベリオの心配そうな呟きに、ユージンとタドラもそれぞれ心配そうにそう言って揃ってため息を吐いた。
三人はロベリオの部屋に集まって、タドラが持ってきたグラスミア産のウイスキーを飲み始めたところだ。
いつもならば他愛もない馬鹿話で盛り上がるところだが、今夜の話題はどうしてもカウリと生まれてくる子供の事になる。
それぞれに心配そうにしつつもロベリオとユージンは何故かいつもと様子が違っていて、二人揃って時折何やら考え込む風で、目敏くそれに気づいたタドラが不思議そうに首を傾げた。
「二人ともさっきから様子が変だけど、どうかした? ああ、グラスが空だね。はい、どうぞ」
置いてあったウイスキーの瓶を手にしたタドラが、無言で差し出されたグラスにゆっくりと注ぐ。
ロベリオがウイスキーの瓶を受け取りタドラのグラスにもゆっくりと注いでから、顔を見合わせた三人は揃って口を開いた。
「精霊王に感謝と祝福を!」
笑顔で頷き合ってゆっくりとウイスキーを口にした。
しばらくの沈黙の後、一つため息を吐いたロベリオが真顔でタドラを見た。
「実はさあ……」
しかし、それっきり言葉が途切れて続かない。
心配そうな視線を感じて誤魔化すようにまたウイスキーを口にしたロベリオは、一つ深呼吸をしてから意を決したように顔を上げてタドラを見た。
「実は、フェリシアがさ……」
「うん、奥方がどうかなさったの?」
心配そうなタドラの言葉に、何故か一緒に聞いているユージンも困ったようにため息を吐いてからタドラを見た。
「実は、サスキアもなんだ」
ユージンの言葉に、タドラは驚いて二人を交互に見た。
ロベリオの奥方であるフェリシア様は女性としても、人としても非常に魅力的な方で、話題も豊富だし知識欲も旺盛だ。また、タドラの婚約者となったクローディアをとても可愛がってくれていて、夜会などでご一緒する機会があった際には、場慣れしない彼女を気遣ってさりげなく助けてくれた事が何度もある。
ユージンの奥方であるサスキア様も、同じく女性としても人としても同じく魅力的な方で、クローディアの事もとても可愛がってくださっていると聞いている。
姉が欲しかったのだと笑ったクローディアは、フェリシア様やサスキア様の事を姉のように慕っている。
そんなお二人に何かあったのだろうか。割と本気で心配したタドラがグラスを置いて先を促すように二人を交互に見た。
「まあ、まだ確定って訳ではないんだけどさ……」
「うん、何かあったの? 僕に何か手伝える事はある?」
心配そうなタドラの言葉に、ロベリオとユージンは苦笑いして首を振った。
「おう、ありがとうな。だけどこれに関しては、タドラにも俺にもユージンにも、何も出来ない事だけは分かってるんだよなあ」
「そうだよなあ。確かに何も出来ないよなあ」
揃って大きなため息を吐いたロベリオとユージンのその言葉に、しばし無言になったタドラだったが目を見開いてロベリオとユージンをまた交互に見た。
「ねえ、間違っていたらごめんね。もしかして、もしかしてお二人揃ってそういう事? ティア妃殿下と同じ?」
「みたい、です……何でも少し前から、その……月のものが無いんだって」
「実を言うと、サスキアも同じらしいんだ。少し前から月のものが無いって……」
恥ずかしそうにそう言って顔を覆ったロベリオとユージンの言葉にタドラが歓声を上げ、二人揃って真っ赤な顔になる。
「実は、今日の夜会の前に彼女達からその話を一緒に聞かされて、もう俺達二人して大感激だったんだよ。しかも、もし本当に妊娠しているなら、二人の子供ってほぼ同じ頃に生まれるみたいなんだよ」
「ええ、おめでとうございます!」
目を輝かせるタドラの言葉に、苦笑いした二人が揃って首を振る。
「だけどまあ、まだ妊娠初期だし」
「まだこちらから公表はしないから、一応その……」
「でも、竜騎士隊の人達には伝えてもいいでしょう?」
不思議そうなタドラの言葉に、また二人が揃って困ったように顔を見合わせる。
「そこなんだよな。何でも明日、ガンディにシルフを使って確認してもらうらしい。そうすれば、少なくとも妊娠しているかどうかは確定するだろうからさ。報告するとしたら、それ以降だな」
「聞けば今のところ月のものが遅れているってだけで、悪阻らしい症状も全くないし、二人とも体調は全くいつも通りらしいんだ。だからまあ、ぬか喜びになる可能性も充分にあるって言われたんだ」
「そうなんだね。じゃあ無駄になるかもしれないけど言わせて! おめでとうロベリオ。おめでとうユージン。二人の元に元気な子供が生まれてくるように、毎日、僕も精霊王に祈らせてもらいます!」
「おう、ありがとうな」
「ありがとうね」
恥ずかしそうな、それでも嬉しそうな二人の言葉にタドラもこれ以上ないくらいの笑顔になる。
「じゃあ乾杯しようよ。生まれくる全ての子供に祝福あれ! 精霊王の感謝と祝福を!」
笑顔のタドラの言葉にそれぞれウイスキーの入ったグラスを掲げて乾杯し、恥ずかしそうに頷き合って笑い合う三人だった。
そんな彼らの肩の上には、それぞれの竜の使いのシルフ達がいて、愛しい主に何度も何度もキスを贈っていたのだった。




