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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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2071/2491

懇親会にて

「カウリ、あれから何も言ってこないけどどうなったんだろう」

 部屋にいくつも置かれた大きなソファーの一つにルークと並んで座りながら竪琴を抱えたレイは、心配そうにそう呟いて小さなため息をひとつ吐いた。


 先程まで参加していた陛下主催の新年の夜会の終了直前、奥方が産気づかれたとの伝言を受けて血相を変えたカウリが陛下直々の許可を得て帰って行った後、竜騎士隊の面々はアルス皇子以外の全員が別室にて行われた懇親会に参加していた。

 今回も、この懇親会に参加しているのは男性のみで、女性の方々は、また違う部屋で同じように女性のみでの懇親会を行なっているのだそうだ。

「きっと、あっちの話題はカウリの事でいっぱいだろうな」

 笑ったルークと若竜三人組の言葉に、周りにいたほぼ全員が苦笑いしつつ頷いていたのだった。



「早く産まれたって知らせが来ないかなあ。あ、そうだ! ねえ、シルフ。チェルシーとカウリの赤ちゃんはまだ産まれていないの?」

 呼びもしないのに勝手に集まってきて、隣のソファーで吸い始めた葉巻の煙で遊んでいたシルフ達が、レイの呼びかけに一斉に振り返る。


『まだだよ』

『まだまだ』

『まだだもんね!』

『ね〜〜〜!』


「ええ、まだなんだ。早く産まれないかなあ」

 残念そうに口を尖らせるレイの呟きに、隣の席から葉巻をもらおうとしていたルークが驚いたように振り返る。

「お前、無茶言うなって。出産ってそう簡単には終わらないぞ。そりゃあ安産であっという間に生まれてくる場合もたまにはあるって聞くけど、下手すりゃ一日がかりだぞ」

 もっと簡単に終わると思っていたレイは、呆れたようなルークの言葉に目を見開く。

「ええ、そんなにかかるものなの? 僕もっと早く終わるんだと思ってました! っていうか、赤ちゃんを産むのに一日がかりって、そんなに長い間何をするの?」

 矢継ぎ早に質問されて、ワインを手にしたルークが嫌そうに首を振った。

「俺に聞くな。今なら奥方の出産を知ってる経験豊富な方々が周りに大勢おられるんだから、詳しい話はそっちに聞け! ってかお前、そんなに詳しく知りたきゃ、今から婦人会主催のあっちの懇親会に参加してこいよ。普通なら男子禁制だけど、間違いなくお前なら入れてくれるぞ。今後の為にも、しっかり勉強しておかないとな!」

 笑ったルークが、良い事思いついたと言わんばかりに目を輝かせてそんな恐ろしい事を言う。

「やめてください! 魔女の巣窟に一人で入っていけなんて、ルークは僕を殺す気ですか!」

 割と本気で叫ぶレイの声に、あちこちから吹き出す音と笑う声、それから、それは自分もごめんだと同意する声が聞こえてきて、ルークとレイも顔を見合わせて揃って吹き出した。

「あはは、さすがのお前でも、魔女の巣窟に入るのは嫌か」

「嫌って言うか……さすがに一人では無理です! せめて増援をください!」

 そう言って必死で首を振るレイの様子に、またあちこちから吹き出す音と笑い声が聞こえてきたのだった。

「まあ、その話はまた後でな。そろそろ準備が出来たかな?」

 ルークがそう言って指をさすところには、それはそれは真剣な様子で顔を付き合わせて先ほど書き取った譜面と歌詞の確認をしている、ウーティス卿とあと二人の宮廷音楽家の人達がいる。

 この後、先程レイが演奏した子守唄をここで演奏してウーティス卿が譜面を取る事になっているのだ。



「レイルズ様。大変お待たせいたしました。ではよろしくお願いいたします」

 手にした板に白紙の楽譜の束を留めていたウーティス卿と後二人の宮廷音楽家の方達はレイの前に来て並び、満面の笑みでそう言って揃って一礼した。

「準備出来ましたか? じゃあゆっくり歌いますね」

 レイも笑顔でそう言って頷き、竪琴を抱え直す。

 それに気づいた部屋にいたほとんどの人達が、ワインを飲むのをやめ、話すのをやめて一斉にレイに注目する。

 そんな人達にも笑顔で一礼したレイは、先程歌った子守唄をさっきよりも少しゆっくりと竪琴の演奏をしながら歌い始めたのだった。



 結局合計三回、歌と竪琴で子守唄の演奏を行ったレイだったが、三度目の時にはなんと横でずっと聞いていて旋律を覚えたマイリーとヴィゴ、それからディレント公爵までがヴィオラの演奏で一緒に参加してくれ、さらには歌詞を覚えたアルジェント卿をはじめとするエントの会の倶楽部の方々が低音の合唱を即興で合わせて一緒に歌ってくれたおかげで、部屋でワインを片手に聞いていた人達にとってはなんとも贅沢なひとときとなったのだった。

「本当にありがとうございました。では清書した楽譜と歌詞は、早急に本部の方へお届けいたします。いやあ、特に最後は本当に素晴らしい合唱と演奏でした。レイルズ様、皆様方も本当にありがとうございました」

 楽譜の束を抱えたウーティス卿の言葉に、レイも笑顔で頷いたのだった。



 そのあとはゲルハルト公爵おすすめの貴腐ワインをいただきながら、ヴィゴやゲルハルト公爵を始めとする父親達から、それぞれの子供が産まれた時の大騒ぎの様子を、時に笑いを交えながら詳しく話してもらった。

 それらの話は単なる好奇心から聞いているレイだけでなく、いずれ自分達にも関係する話である為、若竜三人組をはじめとする若者達もそれぞれ真剣な様子で聞き入っていたのだった。

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