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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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古き子守唄

「そこで聞いていてね」

 自分を見つめるブルーの使いのシルフに小さな声でそう言って顔を上げたレイは、背筋を伸ばして竪琴を抱え直した。

 そして会場中の視線を集める中、ゆっくりと演奏を始めた。

 初めて聞くその曲に、あちこちから戸惑うようなざわめきが聞こえた。

 竜騎士隊の皆は、興味津々でレイの演奏を見つめている。

 その様子を見た人々は、恐らくこれは蒼竜様がまた失われた歌を蘇らせてくださったのだろうと理解して、嬉しそうに目を閉じて耳を傾けた。



「我が手に来たりしこの命」

「無垢なる微笑()みの愛おしきこと」

(そら)を掴みし小さき手」

「それが掴むは遥けき未来」

「穏やかであれと我ただひたすらに願うのみ」

「健やかであれと我ただひたすらに祈るのみ」


 ゆっくりと歌い始めたレイは、笑顔で目を閉じて竪琴で幾つかの和音を大きく響かせた


「早春の頃」

「小さきその手につかみし若葉」

「伸びゆく新緑(みどり)の美しきこと」

「初夏の頃」

「朝露濡れし花びらの」

(ほころ)ぶ様の美しきこと」

「晩秋の頃」

「散りし木の葉と熟せし木の実」

「色付く様の美しきこと」

「晩冬の頃」

「積もりし雪と凍れる枝葉」

「清き真白の美しきこと」

「日々の生業(なりわい)その全てが」

「愛しき吾子と重なりし喜び」

「健やかにあれと我ただひたすらに願うのみ」

「健やかにあれと我ただひたすらに祈るのみ」


 囁くようなやや高いレイの静かな歌声は、しかし静まり返った大広間いっぱいに広がって響いた。

 その場にいた人々は皆、うっとりと初めて聴くその美しい歌に聴き惚れていた。


「優しき風が運びしは」

「精霊達の祝福か」

「優しき風が運びしは」

「精霊達の悪戯か」

「蒼天の空を連なりて」

「征くは渡りの鳥達よ」

「また戻れよと祈り送る」

「愛しき命に祝福を」

「愛しき吾子に祝福を」

「聖なる光の祝福を」

「聖なる吾子に祝福を」



 歌い終えて最後に大きく和音を響かせて演奏が終わった時、聴き惚れていた人々は誰一人反応も出来ずにいた。

「えっと……」

 戸惑うように、レイがそう呟いて静まり返った場内を見回した途端、我に返った人々が一斉に大きな歓声をあげて拍手をした。

 大歓声と鳴り止まない拍手の中、笑顔の竜騎士達が全員起立してレイも慌ててそれに倣う。

 笑顔で拍手をする人々に向かって深々と一礼してから、マイリーとヴィゴを先頭にして順番に舞台から下がって行ったのだった。



「いやあ、最後のレイルズの歌は素晴らしかったな」

「本当に聞き惚れたよ。これは俺でも楽譜が欲しい」

「確かに素晴らしかったね。楽譜が出来たら僕も欲しい」

 控室に入った途端の若竜三人組の言葉に、部屋に入ってきたレイも笑顔で頷く。

「それなら僕も欲しいです!」

「いや、お前は自分で書けるだろうが!」

 笑ったルークにそう言われて、控え室にいた全員が揃って吹き出した。

「これ、絶対にウーティス卿が、また楽譜を手にして食らいついてくるよな」

「いや、この部屋を出たら絶対に廊下で待ち構えていると思うぞ」

「ゲルハルト公爵も巻き込まれていると見た!」

 言いたい放題のロベリオ達の言葉に、しかしマイリー達も笑っているだけで反対しないので同じ意見なのだろう。

「確かに素晴らしい子守唄だったね。あれはぜひ覚えて歌ってあげないと」

 一緒に控室まで下がったアルス皇子も、嬉しそうにそう言って笑っている。

「赤ちゃんが生まれるのは秋から初冬の頃の予定なのでしょう? それなら覚える時間は充分にありますね」

 からかうようなカウリの言葉に頷いたアルス皇子は、顔を上げてニンマリと笑いながらカウリを見た。

「カウリは早く覚えないと大変じゃあないか。もう、いつ生まれるかわからないのに!」

 アルス皇子の言葉にカウリが堪える間も無く吹き出し、全員揃ってもう一度吹き出して大爆笑になったのだった。

「た、確かにそうだね。じゃあ大急ぎで楽譜と歌詞を書き出してあげるね」

 満面の笑みのレイの言葉に、カウリも苦笑いしつつ大きく頷いたのだった。



『いつもながら、どれも素晴らしい歌と演奏だったな』

『特に最後の、レイの歌った子守唄は素晴らしかったな』

『我も聴き惚れてしまって、うっかり眠りそうになったぞ』

 その時、レイの右肩に現れたブルーの使いのシルフが笑いながらそう言ってレイの頬にキスを贈った。

「うん、教えてくれてありがとうね。ちゃんと最後まで歌えたよ」

 キスを返したレイが、得意そうにそう言って胸を張る。

『まあ、歌詞が少し危ういところがあったようだが』

『なんとか上手く誤魔化せていたな』

「それは言わないで〜〜〜〜!」

 慌てたようにブルーの使いのシルフを両手で包み込むようにして捕まえたレイの悲鳴に、あちこちからまた吹き出す音が聞こえた。

「なんだよ。どこか間違っていたのか?」

 身を乗り出すルークの言葉に、ブルーの使いのシルフを捕まえたままのレイが慌てたようにルークを振り返る。

「間違ってません! 間違いそうになったけど、ちゃんと歌えました!」

 実はニコスのシルフ達に数回間違いそうになって歌詞を教えてもらっているのだが、それは内緒だ。

「まあ、なんであれ見事な演奏だったよ。この後の懇親会で間違いなくもう一度歌ってくれって言われると思うから、頑張って間違わないように演奏してくれよな」

「だから間違っていません!」

 笑いながら抗議の声を上げるレイの言葉に、もう笑いが止まらない一同だった。

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