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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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演奏とそれぞれのアンコール曲

「準備はいいか? では行くとしようか」

 ヴィオラを手にしたマイリーの言葉に、それぞれの楽器を手にした竜騎士達が立ち上がる。

 ルークの演奏するハンマーダルシマーは先に楽器担当の執事が移動式の台の上に乗せて運び出しているので、今彼が手にしているのは演奏用のハンマーだけだ。

 ちなみに、控え室に来ていないアルス皇子が演奏するハープシコードはすでに舞台に用意されていて、彼らが出て行ったら、ティア妃殿下の側にずっとついているアルス皇子もそのまま壇上に上がって演奏する段取りになっている。



『いよいよだな。では、我はここで演奏を聞かせてもらうゆえ、しっかり演奏しておくれ』

 右肩に座ったブルーの使いのシルフの嬉しそうな言葉に、竪琴を抱えたレイは笑顔で頷いた。

「うん、ブルーはそこで聴いていてね。教えて貰ったあの歌。頑張って演奏するからね」

 小さな声でそう言って、ブルーの使いのシルフにそっとキスを贈る。

「ん? また新しい曲を演奏するのか?」

 すぐ横を歩いていたルークの言葉に、レイはこれ以上ない笑顔でルークを見た。

「えっと、ブルーと一緒に考えた最後のアンコール用に用意した曲なんだけど、どんな曲かは内緒なんです!」

 得意げなその言葉に、前を歩いていたマイリー達までが思わず足を止めて揃って振り返る。

「うええ、どうしたんですか? 何か忘れ物ですか?」

 驚いたレイが慌てて自分も後ろを振り返るが、当然そこには誰もいないし何もない。

「いや、今お前が言ったアンコール用の曲……また、ウーティス卿が大張り切りしそうだな」

 ルークの言葉に、ゲルハルト公爵の幼馴染で宮廷音楽家のウーティスさんの、自分が知らない曲に対する貪欲さを思い出して苦笑いするレイだった。

「そうだね。また後で演奏させられちゃうかもね」

「あはは、間違いなくそうなるだろうな。今夜もこの夜会のあとには懇親会があるから、ぜひそこで演奏しておくれ。どんな曲なのか楽しみにしているよ」

 笑ったルークにそう言われて、そうなるだろうと予想していたレイも頷きつつ笑っていたのだった。



 竜騎士達が舞台に出て来て、ティア妃殿下についていたアルス皇子もそれを見て舞台に上がる。

 それぞれが定位置について楽器を構えた途端に、ざわめいていた会場が一気に静かになる。

 マイリーの合図でまず最初に演奏されたのは、こういった夜会では定番の精霊王に捧げる歌で、今回は歌はなく演奏のみ。

 この曲ならもう完璧に暗譜しているレイは、堂々と顔を上げて笑顔で竪琴の演奏を行ったのだった。



 その後に演奏されたのは、竜騎士達が全員集合した時にしか演奏されない、偉大なる翼に。そして空の彼方に。

 これらの曲には、それぞれ数ある合唱の倶楽部の中でも特に有名な、ある程度以上の年齢の男性のみで構成されたエントの会と、同じくある程度以上の女性のみで構成されたハーモニーの輪の方々も一緒に歌で参加してくれて、どちらもそれは素晴らしい演奏になった。

 レイはもう必死になって自分の担当である竪琴を演奏しつつ、竪琴がお休みの場面では演奏の手を止めて一緒に歌いつつ、それはもう美しい歌声と素晴らしい演奏にただただうっとりと聴き惚れていたのだった。

 レイの右肩に座っていたブルーの使いのシルフは、途中からレイが持つ竪琴の上に現れてニコスのシルフ達とともに並んで座り、こちらもうっとりと目を閉じて演奏に耳を傾けていたのだった。



 空の彼方にの演奏が終わったところで場内は大きな拍手に包まれ、もっと聞きたいとの声があちこちから上がる。

 笑顔で頷き合った竜騎士達の中で、まずはアルス皇子が演奏を始めた。

 曲は、これ以上ないくらいに今のアルス皇子に相応しい曲、ようこそ赤ちゃん。

 これはまさにその、ようこそ赤ちゃんと題された喜劇の舞台で演奏される主題曲で、間も無く生まれる初めての赤ちゃんの為に、全くそういった事に無知な夫が回りの言いたい放題する人達に振り回されつつ孤軍奮闘するお話だ。

 曲が始まった途端に、あちこちから笑い声が聞こえて手拍子が始まる。

 レイはその舞台を見た事はないが、そのお話自体は原作である本を読んで知っていたし、竪琴の練習の際にはこの曲の楽譜をもらって練習で何度も演奏した事がある。

 冷やかすような笑い声と拍手の中演奏を終えたアルス皇子に、レイも笑顔で拍手を贈ったのだった。



 続いてマイリーとヴィゴ、それからカウリの三人が立ち上がって演奏したのは、レイも何度か竪琴で演奏した事のある子守唄の、竜と揺り籠。

 それを聞いて、即座にエントの会とハーモニーの輪の方々が歌い始める。

 突然始まった素晴らしい歌声に場内の人達はうっとりと聴き惚れていて、時折あちこちからため息のような声がもれ聞こえていた。

 次に、ロベリオとユージンとタドラの三人が、こちらも先ほどアルス皇子が演奏した、ようこそ赤ちゃんの舞台で歌われる、愛しき命、と題された曲を三人一緒に演奏した。

 ロベリオとユージンの演奏するヴィオラの音に、タドラの演奏するフルートの優しい音が重なる。

 これは元々歌はなく曲のみなので合唱の共演はなく、三人の見事な演奏が終わった途端、これにも大きな拍手が贈られた。

 ルークが演奏したのは、リューンの子守唄、と題された今も母親がよく歌う子守唄の一つで、題名にもなっている通り百年ほど前に王宮に仕えていた宮廷音楽家であるリューン卿が、彼の初めての子供の為に作詞作曲した子守唄だ。

 当然これには歌があるのでエントの会とハーモニーの輪の方々が一緒に歌ってくれて、これにも大きな拍手が贈られたのだった。



 あと、残っているのはレイだけだ。

 竪琴の上に座って笑顔で自分を見つめているブルーの使いのシルフを見て笑顔で頷いたレイは、竪琴を抱え直して背筋を伸ばすとゆっくりと演奏を始めたのだった。

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