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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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午後の休憩時間

「はあ、午後から長いですね」

 途中休憩のため、城の中に幾つかある竜騎士専用の控え室へ通されてソファーに座ったところで、レイが小さなため息を吐いてそう呟く。

 隣に座ったカウリも、その言葉に全く同じ事を思っていたので苦笑いしつつ小さく頷く。

「確かに長いなあ。まあ、普段見ない色々な祭壇を見られるから、それなりに面白くはあるんだけどなあ」

 二人の会話に、並んだソファーに座ったルーク達も苦笑いしつつ頷いている。

「確かにそうだね。神殿によって個性っていうか、明らかに違うってのがあるよね」

 笑顔でそう言ったレイの前に、たっぷりのクリームとベリーのジャムが盛り付けられたパンケーキのお皿が置かれた。

「夕食まで、まだかなりかかりますので、どうぞお召し上がりください。足りなければまだありますので、遠慮なくお申し付けください」

 カナエ草のお茶の入ったカップを置いた執事の言葉に、レイがとても嬉しそうな笑顔になる。

「ありがとうございます。実を言うとちょっとお腹が空いていたので嬉しいです」

「それはよろしゅうございました。では失礼いたします」

 レイの言葉に一礼した執事は、ワゴンを押して下り、裏部屋に入ったところにいた別の執事と無言で目を見交わして笑顔で満足気に揃って頷き合った。



 レイが正式に竜騎士見習いとしてお披露目されて以降、お腹が空くと元気がなくなるレイを心配したラスティから、竜騎士のお世話をする全ての執事に申し送りがされている。

 レイの様子を見て元気がなくなっていると判断した場合、すぐに食事の時間になる時以外は、出来るだけ休憩の際にはカナエ草のお茶と一緒にお腹にたまるような軽食やお菓子を出すように、と。

 なので城の竜騎士達専用の部屋にある裏部屋には、以前から必ず用意されていた軽食や簡単につまめるお菓子などの種類と量がかなり増えている上に、それらが出される機会が増えて、他の竜騎士達は密かに喜んでいるのだ。

 特に、降誕祭から年末年始にかけての時期のように、基本的な食事を神殿側がまとめて用意するような場合、神官達の日常の食事に倣って質素なものになる事が多い。場合によっては、食事をする事も祭事の一部として扱われる事もあるので、竜騎士隊側から注文をつけられない部分が多いのだ。

 だが軍人である竜騎士達と神殿に務める神官達では、そもそもの体格が明らかに違う。同じ食事では、竜騎士達が足りないと思うのはある意味当然だろう。

 しかし元々軍人であるヴィゴやマイリー、そしてカウリはそういった状況に慣れているから、文句も言わなければ当然のように空腹を我慢出来る。逆に生粋の貴族であるロベリオやユージンは、お腹が空けば我慢する事など考えもせず、執事に言って何か用意させて食べるのが当然と思っているし、ルークやタドラは、幼い頃の経験もあってある時に食べるのが当たり前で、無ければ仕方がないとも思っているから、これも足りないと思っても文句など言わない。

 レイのように、お腹が空いても黙って我慢して元気が無くなる人というのは、様々な人を世話してきたラスティをはじめとする従卒達や執事達にとっても実は初めての経験なのだ。その為特にレイに関しては、常に複数の執事達が身近にいて、彼の様子を常に確認している。



「そういえば、さっきの聖グレアムの祭壇は、黒とグレーと白しかないのにすっごく綺麗だったね」

 用意されたパンケーキを綺麗に平らげたレイは、二杯目のカナエ草のお茶を飲み込んでうっとりとそう呟いた。

「確かにそうだな。他の神殿はなんて言うか金ピカなのが多いんだけど、聖グレアムの祭壇は、確かに金色が一切なかったな」

「飾り金具や燭台は、全部いぶし銀だったけど、金細工とはまた違った美しさがあってあれは見事だったね」

 頷いたカウリの言葉に、タドラもそう言ってうんうんと頷いている。

 聖グレアムは、臨終の際に迎えに来てくれる、いわば輪廻の輪へと繋がる死出の旅路の最初の道案内をしてくれるとされる神様で、華美な装飾を一切せず。黒い衣を纏っているとされる。

 その為、聖グレアムを祀る神殿では金を一切使わず、銀と黒から白のみを使った祭壇が作られるのだ。

 燭台や飾り金具などは全て銀製品で作られていて、歳月を経たそれらは美しいいぶし銀となって独特の輝きを放っている。

「ほら、この後は水の神殿だぞ。あそこは金銀ピカピカで豪華だからこれも見応えがあるぞ。だけどその前に、そろそろ休憩時間は終わりだからレイルズはその前に顔を洗ってこい。クリームを付けたまま出ていく事になるぞ」

 レイを見たルークが、自分の鼻先を指差しながらそう言って笑う。

「ああ、教えちゃあ駄目だって。いつ気が付くか賭けていたのに〜!」

「ううん、残念。横からルークが教えるのは、設定に入っていなかったなあ」

「ちょっと! 二人とも何してるんですか! 気が付いていたのなら教えてくださいよ〜〜!」

 三人の言葉を聞いて慌てて鼻を触り、手にクリームが付いているのを見たレイがそう叫んでロベリオ達が吹き出し、当然レイのクリームに気が付いていたカウリ達も次々に吹き出して、部屋は暖かな笑いに包まれたのだった。

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