表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼竜と少年  作者: しまねこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2039/2485

休憩と密かな働き

「おい! 誰か医務室から大至急先生を呼んできてくれ!」

「急に倒れたんだ。貧血だと思うな、呼びかけにも反応がないんだ!」

 顔面蒼白になって倒れた意識のない神官の両腕を左右から抱えたやや年配の神官達が、祭壇裏の廊下へ出た途端にそう言って焦ったように周りを見回す。

「は、はい! 呼んできます!」

 見習い神官の一人がそう言って、抱えていた蝋燭の箱を隣にいた別の見習い神官に押し付けるように渡して、慌てたように走って行った。さすがに、こんな時に廊下を走るなとは誰も言わない。

「こっちへ、とにかく横にならせないと。ここなら大きなソファーがあります」

 若い神官がそう言って、休憩用に使っている部屋の一つを指差して扉を開いた。

「ああ、すまない。よろしく頼むよ」

 大柄な神官が二人来てくれて、完全に意識のない神官を運んでくれた。

「我らは勤めに戻りますので、彼の事をよろしくお願いします」

 見習い神官と一緒に鞄を抱えて走ってきた医務室担当の医師の資格を持った神官にそう声をかけると、手の空いた二人の神官は急足で礼拝堂へ戻って行った。



 無事に務めを終えてクラウディア達が下ったところで時送りの儀式は終了となり、竜騎士達は一旦城にある竜騎士隊専用の部屋へ揃って戻った。

 今から遅めの昼食を食べて少し休憩したら、午後からは女神の神殿をはじめとした十二神のそれぞれの神殿の祭壇に年末の挨拶を兼ねた参拝に行かなければならない上に、夜にはまた精霊王の神殿の分所で一晩中続く祭事に立ち会わなければいけない。なので、それほどゆっくりはしていられない。



 基本的に竜騎士が日常的に直接参拝をするのは、精霊信仰の最高峰である精霊王の神殿の別館と、それに次ぐとされる女神オフィーリアの神殿、そして軍神サディアスを祀った神殿の別館だけだが、当然城の中に規模の大小こそあるが他の十二神の神々の神殿の別館や分所がある。

 ちなみに別館と分所の違いは、その場の最高責任者となる聖職者の身分の違いによるものだ。別館の方が規模も大きく責任者の身分が高い。分所はそれよりも少し規模が小さく人数も少なくなり、最高責任者の身分も別館よりは二段階ほど低い者が務めるのが慣例だ。

 だが、女神オフィーリアの神殿の分所は、分所の中では最大の規模を誇っている。

 誰がお城の最高責任者を務めるのかは、実は各神殿内でも決める際には色々とあり、高位の神官達の間や各神殿を支援する貴族達の間での密かな権力争いの場となっていたりする。

 唯一、いまだに厳しい戒律を保ち、現世との直接の関わりを極力避けて修行の日々を送る事をよしとする聖グレアムの神殿だけは、城には豪華な祭壇があるのみで勤める神官は誰もおらず、日常的に参る人もほとんどいない。

 精霊王の神殿から定期的に代理の神官達が来て、定められた季節の祭事の際などに決められた祈りを捧げる程度だ。

 レイは、テシオスとバルドがエケドラの神殿に怪我を負いつつも生きて到着したと聞いた後、お休みの日に一度だけここを訪れて、誰もいない祭壇に驚きつつもこっそり参って感謝の蝋燭を捧げた事がある。

 しかし、ついうっかり見習いの制服を着たまま参ってしまった為に、後で彼の訪いを知った神殿関係者が慌てて謝罪に来るほどの騒ぎになってしまい、反省したレイは、それ以降聖グレアムの祭壇に参っていない。



「ねえ、何があったの?」

 竜騎士の為に用意された部屋に入り、ひとまず休憩したところでさっきの一瞬見えた妙な影が気になり、レイは小さな声でそう言って自分の右肩を見た。

「あれ? ブルーがいない」

 先ほどまで一緒にいて儀式を見ていたはずなのに、何故かいつの間にかいなくなってしまっている。いつもなら、レイが呼びかけたらすぐに現れるのに。

「えっと、知識の精霊さん、いますか?」

 周りを見回してどこにもブルーの使いのシルフがいないのを確認したレイは、首を傾げつつ小さな声でニコスのシルフ達に呼びかけた。

『呼んだか?』

『いかがした?』

 すぐに姿を見せてくれたニコスのシルフ達だが、いつも必ず三人一緒に現れるのに、何故か今は二人だけしかいない。

 それでも側にいてくれた事に安堵のため息を吐いたレイは、皆に聞こえないように小さな声で尋ねた。

「えっと、さっきディーディーが光の精霊で高位のフラッシュの術を使ったに時、祭壇前に並んだ神官様の辺りで黒い影みたいなのが一瞬だけ見えたんだ。あれ、見間違いじゃあないよね?」

 小さな声だが問い詰めるような口調の言葉に、ニコスのシルフ達が困ったように顔を見合わせる。

『その答えを我らは持たぬ』

『後ほど蒼竜様が教えてくださるだろう』

『それを待つがよい』

『それを待つがよい』

 首を振るニコスのシルフ達の言葉に、何かを感じたレイは小さく笑って頷いた。

「そっか、じゃあ後でブルーに聞く事にするね。いつもありがとうね」

 笑ってそう言い、一つ深呼吸をしてから伸びをして背もたれに倒れ込む。

 それ以上聞いてこなかったレイの様子に揃って安堵の息を吐いたニコスのシルフ達は、目を閉じたレイの側へ飛んでいき、集まってきた他のシルフ達と一緒になってレイの前髪で遊び始めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ