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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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2035/2489

それぞれの年末

 降誕祭が終われば、年末まではあっという間だ。

 竜騎士見習いとして初めての年末を迎えるレイも、教えられるままに定期的に神殿で行われる祭事に交代で参加しては竪琴の演奏や歌を担当していた。

 祭事が無い日もほぼ夜会や昼食会で予定が埋まっていて、こちらもルーク達と一緒に、時には分担してせっせと参加しては愛想笑いを振りまいていたのだった。



「はあ、降誕祭から年明けまでが一年で一番忙しいって聞いてはいたけど、本当に忙しいんだね。疲れたよ〜〜〜」

 その日も、午後からずっと神殿での祭事に竪琴の演奏で参加していたレイは、かなりの遅い時間になってようやく戻ってきて、部屋に入るなり大きなため息を吐いてそう叫ぶと、そのままソファーに倒れ込んでしまった。

「まあ、確かにこの時期が一年で一番忙しいのは事実ですね。ほら、まずは装備を外してください。シワになりますよ」

 呆れたようにそう言ったラスティは、ソファーに倒れ込んだレイを見て軽く背中を叩き、手早く剣ごと剣帯を外して上着を脱がせた。

「はあい……」

 クッションに顔を埋めたまま返事をしたきり動かないレイは、全くの無抵抗でされるがままだ。

「湯の用意が出来ておりますから、とにかくまずは湯を使ってきてください。温まると疲れも取れますからね」

 もう一度背中を叩いてから腕を引いてレイを起き上がらせ、そのまま手を引いて湯殿まで連れて行ってやる。

「かなりお疲れのようですね。湯を使うのにお手伝いが必要ですか?」

 貴族の若者とは違い、日常での過度な世話を嫌がるレイの性格を知っているラスティが、あえて心配するような口調でそう言って顔を覗き込む。

「だ、大丈夫。自分で入れます!」

 慌てたように顔を上げて首を振ったレイは、誤魔化すように笑って顔の前で手を振ってから、一つため息を吐いて湯殿へ駆け込んでいった。

 扉が閉まるのを待って、左手に持ったままだった剣帯と上着を見たラスティは小さく吹き出す。

「おやおや。どうやらあのご様子を見るに、今日はかなりの腹ペコ具合のようですね。さて、夜食に何をご用意しましょうか」

 面白そうに笑ったラスティは、急いで別室に控えている執事の元へ向かった。

 そしてレイが神殿で食べた夕食の内容を確認してから、急ぎ夜食の準備をお願いしたのだった。



「はあ、確かにしっかり温まったら疲れも取れた気がするね」

 しばらくして、温まって髪に負けないくらいに真っ赤になったレイが湯殿から出てきた。

「ああ! 夜食がある! しかもすごく豪華だ!」

 机の上に用意されていた夜食を見て、嬉しそうな声をあげる。

 神殿で用意されていた食事は野菜が中心で量もあまりなかった為、実を言うとかなりお腹が空いていたのだ。

 カナエ草のお茶を用意してくれているラスティを見て笑顔で頷いたレイは、そそくさと席についた。

 目の前に置かれたお皿にあるのは、レイの大好きな生ハムが丸パンにぎっしりと挟まれた一品だし、それ以外にも柔らかな燻製肉や一口大のチーズ。ニコス特製のレバーペーストもあるし、キリルの砂糖漬けや干し葡萄、栗の甘露煮もある。

 確かに夜食にしてはかなり豪華だし量も多い。

「夕食はかなり少なかったと聞きましたので、いつもより多めにご用意しました。多ければ残していただいても構いませんからね」

 カナエ草のお茶をお皿の横に置いたラスティの言葉に、レイが首を振る。

「もちろん全部いただきます! ありがとうね。実を言うとかなりお腹が空いていたんだ」

 無邪気にそう言って笑ったレイは、しっかりと食前のお祈りをしてから、生ハムを挟んだパンを手に取ったのだった。




「はあ、それにしても、降誕祭が終われば本当に年明けまであっという間ですね」

 その夜、いつものように皆で飲んでいたタキスは、赤ワインの入っていたグラスを置いて小さなため息を吐きながらそう言って笑った。

「確かにそうだな。まあ、レイはこの時期は相当に忙しくしていると思うぞ。降誕祭から年が明けるまで、神殿での祭事は途切れなくあるし、夜会や茶会もひっきりなしにあるからなあ」

 貴族社会の様子を知るニコスも、同じくグラスを置いて苦笑いしながらそう言ってため息を吐いた。

「そうなのか? 冒険者をしておった頃は、この時期は商売あがったりで飲んでいた記憶しか無いなあ」

 面白がるように笑ったギードは、そう言ってこちらの空になったグラスを置いてため息を吐く。

「ロディナにいた頃は、この時期はもう寒いばかりで外に出るのが嫌だった記憶しかありませんね。あの辺りはここほどの雪は降らないんですが、竜の背山脈から吹き下ろす風がかなり強いんですよね」

「ああ、竜のため息とも呼ばれる竜の背(おろし)、この時期特有の突風だな。確かにあれが吹く中、外に出たくはないのう。まあ、それのおかげでここの上の草原には雪がほとんど積もらんのだがな」

 笑ったアンフィーの言葉に、ギードも笑ってそう言って頷いている。

「ここは吹くのはほとんど朝だけだから、まだ良いじゃあありませんか。ロディナの辺りは日中も、しかも突然吹くんですからそりゃあ寒いんですよ」

「聞いただけで寒いですね」

 両腕を抱いて寒がるふりをするアンフィーの言葉にタキスとニコスもマネをして寒がるふりをする。それから顔を見合わせて吹き出し全員揃って大笑いになったのだった。

「さて、今年の火送りの儀式でも、レイの火の守り役は蒼の森まで来てくれるかのう?」

「そうですね。頑張って探さないと」

 暖炉に燃える火を見ながらのギードの言葉にタキスも笑って頷き、全員揃って改めて笑顔でレイのこれからを祈って乾杯したのだった。

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