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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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2029/2485

朝練にて

「ま、まあシルフの皆様、どうぞお手柔らかに。願わくば、レイルズ様への悪戯はほどほどでお願いいたします。それから今後も、髪を解く際には、どうぞお手伝いいただけますようお願い申し上げます」

 軽く咳払いをして、空中に向かって言い聞かせるように話しかけたラスティの言葉に、レイは驚いて彼を振り返った。

「ええ、今の会話ってもしかしてラスティにも聞こえてたの?」

「まさか。私には通常のシルフの皆様のお姿もお声も聞こえませんよ。でも、今のはレイルズ様のお言葉だけで、どのような会話だったのかが容易に想像出来ましたからね。要するに、万年筆は禁止したのは分かってくれましたが、レイルズ様の髪は、これからも引き続きシルフの皆様の大好きな玩具になると。飽きる事なんて絶対にない、と。そう言う事ですよね?」

 笑ったラスティの言葉に、レイは目を見開く。

「ラスティすごい! 大正解だよ!」

 満面の笑みでそう言ったレイが小さく拍手をすると、二人の会話を目を輝かせて聞いていたシルフ達までが、レイを真似て揃って拍手をしていたのだった。



「おおい、今朝は朝練はお休みか〜?」

「おはようございますレイルズ様〜朝練はお休みですか〜?」

 ノックの音の後、ロベリオが扉を開けて部屋を覗き込みながらそう言ってもう一度開いた扉をノックする。ロベリオの足元では、ティミーも笑顔でそう言って部屋を覗き込んでいる。

「はい! 今着替えますからもうちょっとだけ待ってください!」

 洗面所から駆け出してきたレイが、豪快に寝巻きをまとめて脱ぎながらそう返事をする。

「あれ? また寝癖だったの?」

 部屋に入ってきた若竜三人組とティミーが、慌てて着替えているレイを見て笑っている。

「えっと、前髪が塊になってて、こことここに角が出来ていました!」

 タドラの言葉にレイは、自分の髪を引っ張りながら身振り手振りも交えて先程の髪型を報告する。

 それを聞いたシルフ達が、目を輝かせてレイの髪をまた引っ張り始める。

「もう、朝練に行くから今朝の遊び時間は終了です! また明日ね!」

 慌てて前髪を押さえたレイがそう言って、振り払うようにブルブルと首を振る。


『きゃあ〜〜〜!』

『飛ばされちゃった〜〜〜』

『大変大変』

『飛ばされちゃった〜〜〜』

『誰かお助け〜〜!』


 次々に飛ばされる振りをしたり妙に嬉しそうな悲鳴を上げてレイの周りで遊び始めたシルフ達の様子に、見ていた若竜三人組とティミーが揃って吹き出したのだった。



「おはようございます!」

「よろしくお願いします!」

 若竜三人組とティミーと一緒に朝練に向かったレイは、いつものように来てくれたマークとキムと一緒に、まずはしっかりと準備体操と柔軟体操、それから荷重訓練を行なった。

「えっと、今日は僕は精霊魔法訓練所へ行くんだけど、二人は?」

 重りをゆっくりと持ち上げながら、小さな声でレイが隣にいたマークに尋ねる。

「おう、俺達も今日は一日訓練所だよ。年が明けたら、以前言っていたみたいに質問内容をまとめてそれを議題にして、全員参加の討論会形式をやってみる事になったからさ」

「今日の午後からは、ダスティン少佐も訓練所へ来てくれるんだ。だから手の空いた教授達とダスティン少佐も加わって、いわば予行演習って事で、討論会形式を通しでやってみる事にしたんだ」

「ああ、それは良いね。実際にやってみれば具体的に問題点も見えるだろうからね」

 笑顔で頷いたレイの言葉に、二人は苦笑いしている。

「実を言うと、もっと簡単に出来るかと思ったんだけど、実際に講義を受けてくれている方々に事前に質問事項や問題点を書き出してもらったら、そりゃあもう大量に出てきてさ」

「それをまとめるだけでも、どれだけ苦労したか」

 二人が揃ってそう言いながら泣く真似をする。

「あはは、そうだったんだね。ご苦労様。じゃあ頑張って討論会へ向けての問題点を洗い出さないとね」

 重りをゆっくりと持ち上げるレイの言葉に、同じく重りを持ち上げつつ乾いた笑いをこぼすマークとキムだった。



「それじゃあまた後でね」

「はい、ありがとうございました!」

 荷重訓練用の道具を片付けたマークとキムは、レイに向かって直立してそう言ってから仲間達のところへ戻っていった。

 訓練所へは一緒に行くことにしたのだが、離れた途端に急に他人行儀になった二人の挨拶に密かにため息を吐いて口を尖らせるレイだった。

「分かってはいるけど、ああやって改めて敬語を使われると、やっぱりなんだか嫌なんだよなあ」

『分かっておるのなら無茶を言うでない。これだけ他の兵士達がいる場で、彼らが其方に対して敬語を使わなければ、そちらの方が問題だよ。下手をすれば彼らが処罰されるぞ』

「分かってるよ。だからこれは単なる愚痴です〜〜」

『分かっておるのなら良い。まあ、愚痴程度ならば好きなだけ言うが良いさ』

 悔しそうに口を尖らせるレイの言葉に、ブルーのシルフは面白そうに笑っていたのだった。



 ロベリオ達やティミーも、今日は別室へは行かずに一緒に準備運動をしていたので、後半は来てくれたキルートも加わって、若竜三人組と交代で手合わせをしてもらった。ティミーは一人で素振りをしている。

「ううん、もうちょっとで勝てそうなんだけどなあ」

 三人と順番に手合わせをしたところで、悔しそうにレイがそう呟く。

「皆様、今回はどなたもかなり守りに入っておられましたからねえ。ああなると逆に、向こうが余程のミスをせぬ限りレイルズ様の方から互角以上の戦いに持っていくのは至難の業ですよ」

 横に来たキルートが、苦笑いしながらそう教えてくれる。

「ああ、そういう事だったんですね。ううん、どうやれば良いかなあ」

 キルートの言葉に真剣に悩み始めたレイを、キルートは面白そうに眺めている。

「では、最後は私と手合わせを願います。まあ、そういった場合の攻め方のコツ程度は教えて差し上げますよ」

 最後は小さな声でそう言われて、目を見開く。

「それって……」

 にんまりと笑って頷かれて、目を輝かせたレイは即座に持っていた木剣を構えた。

「お願いします!」

「よし来い!」

 レイの元気な大声と、キルートの大声が響いた直後、甲高い木剣同士が打ち合わされる音が訓練所に響き渡ったのだった。

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