お疲れ様
「はあ、これで終わりっと」
最後の歌の伴奏が終わり、聖歌隊の神官達が下がったのを見てからレイは小さくそう呟いて肩掛けを外した。
「お疲れさん。じゃあ戻ろうか」
遅い時間にも関わらず大勢の人達が参拝していた礼拝堂を見廻し、立ち上がったルークがそう言って軽く肩を回す。
「本日は素晴らしい演奏をありがとうございました。心より感謝いたします」
進み出てきた年配の神官の言葉に、気を抜いていたレイは慌てて居住まいを正した。
「お疲れ様でした。では戻ろうか」
立ち上がったヴィゴが笑顔で神官にそう答えると、マイリーの腕を引いて立たせる。
神殿の椅子には手すりがついていないので、マイリーが立ち上がるのに少し苦労するからだ。
「ああ、すまんな」
同じく肩掛けを外したマイリーがそう言って駆け寄ってきた執事にヴィオラを渡す。
「お願いします」
レイも、来てくれた執事に竪琴と肩掛けをまとめて渡した。
改めて順番に精霊王の祭壇に退去の挨拶をしてから礼拝堂を後にしたのだった。
「年明けまで、交代であと二回演奏の担当が回ってくるからな。ラスティに予定は知らせてあるから、戻ったら確認しておいてくれよ」
本部へと続く渡り廊下を歩きながらのルークの言葉に、レイは笑顔で頷く。
「了解です。明日は精霊魔法訓練所へ行ってもいいんですよね」
「おう、年内最後だからな。楽しんでおいで。まあ彼女達は多分来られないだろうけどさ」
「年末年始は、女神の神殿も忙しいって言ってましたからね」
ちょっと残念に思いつつも、一生懸命に勤めているであろう彼女達を思って笑顔になる。
「それと、俺は年末頃に毎年、女神の神殿にはお菓子の詰め合わせを送っているんだよ。今年はお前との連名にしてやったから、あとで一緒に届けるカードを書いておいてくれよな」
さりげなく言われたその言葉に、レイは目を見開く。
「ええ、そうなんですね。何かした方がいいのかと思っていたんだけど、やり方が分からなかったから、あとでラスティに聞いてみようかと思っていたんです。ありがとうルーク。じゃあ頑張って綺麗なカードを書きます!」
「おう、頑張れ」
笑ったルークの言葉に、満面の笑みになるレイだった。
「はあ、ちょっと疲れたかなあ」
本部の廊下でルーク達と別れて部屋に戻ったレイは、大きなため息を吐いてそう呟くと、ソファーに倒れ込むようにして座った。
「おや、いかがなさいました? 大丈夫ですか?」
装備の剣も外さずにソファーに座ったレイを見て、驚いたようにそう言ったラスティが駆け寄ってきてくれる。
「うん、大丈夫だよ。ちょっと疲れたなあって……思っただけです。ふああ……」
答えながら大きな欠伸をするレイを見て、苦笑いしたラスティは、手早くレイの剣帯を外して上着を脱がせてくれた。
「用意は出来ておりますから、とりあえず湯をお使いください。温まると疲れも取れますからね」
笑って腕を叩かれ、苦笑いしたレイは何とか立ち上がって大きく伸びをした。
「ううん、ずっと座って演奏していただけなのに、案外疲れました。じゃあ湯を使ってくるね」
首を回しながらそう言って笑ってラスティを見たレイは、そのまま湯殿へ向かう。
「おやおや、かなりお疲れのようですねえ。あれはおそらく、お腹が空いているのもあると思いますよ」
小さくそう呟いたラスティは、湯殿へ入って行ったレイを見送ってから、急いで軽食の準備をお願いする為に別室に控えている執事の元へ向かった。
身近で接していて、レイ本人は気づいていないようだが、ラスティは気がついている。
レイは疲れてお腹が空いていると途端に元気がなくなるのだ。しかも、それは役目が終わって気が抜いた時に限って。
「不機嫌になって周りに当たり散らすと言う話はたまに聞きますが、元気がなくなると言うのはなんともレイルズ様らしいですね」
小さくそう呟いて、すぐに用意してくれたパンケーキのお皿をワゴンに置いた。
暖まって赤毛に負けないくらいに真っ赤になったレイが湯殿から出てきて、テーブルの上に用意された果物とチョレートソースのかかったパンケーキを見て感激の声を上げるのを、ラスティは満足そうな笑顔で見つめていたのだった。




