様々な仕事
「ううん。これはもう、僕がする事がほとんどありませんね」
積み上がっていたワゴンの資料を整理していたティミーの呟きに、顔を上げたレイが不思議そうに首を傾げる。
「だって、もうほとんどの仕分けが終わっていますから、僕がしたのって、内容を確認しながら綺麗に並べ直して、書類を整えただけですよ」
「ええ、その内容を確認するのが大変なんだけどなあ」
両手に書類の束を持ったレイの言葉に、ティミーは苦笑いしつつ首を振る。
「だから、その前のレイルズ様が仕分けしてくださっている時点で。ほぼ整理が終わっているんですよ。ねえ、これってちょっとすごいですよね。マイリー様!」
振り返ったティミーの言葉に、顔を上げたマイリーも苦笑いしつつ大きく頷く。
「ああ、レイルズの整理整頓術は素晴らしいよ。いつも大いに助けてもらっているぞ」
「な、俺達がレイルズを当てにする意味が分かっただろう?」
ルークまでもが何故か得意そうにそう言って笑っている。
「だから〜! そこで、ちょっとは自分でやろうって考えは出ないんですか?」
「適材適所だ!」
呆れたようなレイの言葉にマイリーとルークの答えが見事に重なり、またあちこちから吹き出す音が聞こえた。
「二人して開き直ってるし」
遠慮なく大笑いしたロベリオの呟きに、またしても全員揃っての大笑いになったのだった。
「よし、これでマイリーの分は多分大丈夫だと思います。えっと、こっちは意味不明の書類と、不要分と思われるメモとか覚え書きです、一応確認しておいてくださいね」
「おう、ありがとうな」
まとめた要確認分の入った書類入れをマイリーに渡したレイは、大きなため息を一つ吐いてから伸びをした。
「ううん、さすがにちょっと疲れました。お腹が空いてきたけど、そろそろお昼かな?」
「さすがに正確な腹時計だな。さっき十二点鐘の鐘が鳴っていたよ」
「確かに、俺もちょっとお腹が空いてきた」
レイの呟きに、ロベリオとユージンが同じく伸びをしながらそう言って立ち上がる。
ティミーは、整理の終わったマイリーの書類を何やら真剣な様子で読んでいて顔も上げない。
「何をそんなに真剣に読んでいるんだ?」
立ち上がったロベリオが、ティミーの後ろから手元の書類を覗き込む。
しばらく無言で書類を見ていたロベリオは、黙って後ろに下がって首を振った。
「うん、マイリーが書いた、現行の元老院の問題点とその改善案。の、草案。またおっそろしいものを読んでいるなあ」
呆れたようなロベリオの言葉に、大人組が全員揃って吹き出す。
「確かに、今まで誰も触れてこなかった禁忌に近い部分ですよね。でも非常に興味深い案件です」
書類から目を離さないティミーが、少し笑ってそう答える。
「ああ、ティミーならその書類には興味を示してくれると思っていたよ。後で、ぜひとも君の意見を聞かせておくれ。まあ、例のテシオスとバルドの一件以降元老院内部の改革もかなり進んでいるから、逆に今ならもう少し話が進むかと思って書いてみた草案だよ。一応、陛下と両公爵には、既に報告済みだ」
「うわあ、マイリーが根回ししている!」
横で聞いていたルークのわざとらしい悲鳴に、マイリーが吹き出す。
「酷い言われようだな。以前も言ったと思うが、別に誰彼構わず喧嘩を売りに行っているわけではないさ。必要とあらば根回しだってするよ。もちろん、必要とあらば誰とでも戦うがな」
「怖い、怖すぎる〜〜!」
これまたわざとらしいルークの声に、顔を上げたカウリとヴィゴがすごい勢いで頷いている。
「頼りにしているよ。是非とも父上の代で元老院の問題点については改革して欲しいからね」
アルス皇子の割と本気の呟きに、乾いた笑いをもらす大人組だった。
「まあ、これは殿下と違って直接政治に関わらない俺の立場だからこそ出来る提案だよ。もちろんその提案が全て通るなんて、そもそも俺だって考えていないさ」
顔を上げたマイリーの言葉に、聞いていたティミーが笑顔になる。
「最初に一番無茶な提案をしておいて、その後で絶対に通したい部分だけを、いかにも妥協案であるかのように提案する。交渉術の基本ですからね。さすがはマイリー様です」
うんうんと頷くティミーの感心したような呟きに、またしてもあちこちから吹き出す音が聞こえたのだった。
「ううん、マイリーの後継者はもうティミーに決定だね」
「知のティミーと武のレイルズ。確かに竜騎士隊の将来は安泰だな」
「あはは、確かにそうかも。頼りにしてるね。ティミー!」
「ちょっと待て。ティミーよりも年上のお前らの立場は!」
呆れたようなルークの言葉に、他人事のように笑って若竜三人組は揃って誤魔化すように肩をすくめたのだった。




