様々な贈り物と込められた想い
「ええと、それからこれはクローディアとアミディアに。アミディアには降誕祭の時に贈り物を届けているけど、せっかくだからね」
ようやくマークとジャスミンが復活したところで、レイはまだ渡せていなかったプレゼントを取り出してクローディアとアミディアに渡した。
一応、クローディアは成人して間もないとはいえタドラの婚約者として正式に発表されている。そんな女性に独身男性である自分が贈り物をしていいかの判断がつかなかったため、実は贈り物を選んだ後でクッキーにこっそり相談していたのだ。
直接の知り合いの場合は、よほどの高額品でなければ特に問題ないと聞かされて、慌てて彼女の分も一緒に選んだのだ。
未成年であるアミディアには、降誕祭の贈り物として竜騎士隊の全員から彼女にドレス一式を贈るのにレイも協賛している。個人的には、星の形の石がついた銀細工のネックレスを降誕祭当日にヴィゴの屋敷へ届けてもらった。
今日手渡す追加の贈り物には、星座や花の図案が載った刺繍図案集を用意している。
クローディアには、アミディアに選んだのよりも更に複雑な図案がたくさん載った上級者向けの分厚い刺繍の図案集と、挿絵がとても綺麗だったので二人それぞれに花の図鑑を用意している。
「うわあ、綺麗な図案ね! どれも素敵! 頑張って作らないといけないわね」
「そうね、これは創作意欲が上がるわね」
満面の笑みのアミディアの言葉に、クローディアも嬉しそうに図案集を抱きしめている。
「じゃあ、私からも。レイルズ様にはこれをどうぞ! それからこれがクレアで、これがニーカ、これがジャスミンよ。それから、せっかくなのでマーク軍曹とキム軍曹にも!」
笑ったクローディアが、得意そうにそう言って小さな包みを次々に取り出して渡していく。
「私からも用意しているわ。ありがとう。じゃあ交換ね」
笑顔のクラウディアも、そう言って小さな包みを取り出してクローディアとアミディアに渡した。
「ああ、これってブルーだね!」
クローディアがくれた贈り物を取り出したレイが、それを見てこれ以上ないくらいの笑顔になる。
レイの包みに入っていたのは、彼の手より少し小さいくらいの巾着で表側に綺麗な青い竜の刺繍が施してある。
何色もの青い糸と濃淡のある白糸を使って刺繍されたそれは、まるで生きているかのように立体的で、見ていると今にも動き出しそうだ。
「底の部分はマチがあるから意外に入るんです。良ければ刺繍のお道具を入れるのに使ってください。巾着に仕立てる時には、アミーも手伝ってくれたんですよ」
「ありがとう。もったいないけど、せっかくだから使わせてもらうね」
満面の笑みのレイにクローディアも嬉しそうだ。
彼女からの贈り物はどれも見事な刺繍が施された巾着で、模様は花だったり精霊だったりと様々だ。
どれも本当に見事な出来栄えで、包みから取り出したクラウディア達は揃って歓声を上げていた。
マークとキムに贈られたのは真っ白なレースが周囲に縫い付けられたハンカチーフで、正装の際に折りたたんで胸ポケットに入れるものだ。内側部分にも真っ白な糸で蔓草模様の見事な刺繍が施されていて、それを見たマークとキムも感激の声を上げていた。
クラウディアが、クローディアとアミディアに贈ったのはボビンレースで編んだ花の模様の栞と、同じくボビンレースで作った襟飾りで、その見事な細工に二人とも歓声をあげたのだった。
「あの、せっかくなので俺達からです。どうぞ!」
マークとキムも、包みを取り出してクローディアとアミディアに渡す。
「まあ、ありがとうございます!」
受け取った二人が嬉しそうに小さな包みを開く。
中に入っていたのはお揃いの木製の小箱で、表面に花と鳥の彫刻が施されている。
しかも、土台である木の蓋部分が様々な色の木を複雑に繋ぎ合わせて作られていて、彫刻部分野鳥や花がまるでそこだけ色を塗ったかのようになっているのだ。
「へえ、これはまた面白い細工だね」
クローディアの手元を覗き込んだタドラが、感心したようにそう言っている。
「ええと、何でもドワーフの職人さんが考え出した新しい彫刻なんだそうです。これは小さいし細工も簡単だったので俺達でも買える価格だったんです。評判が良ければ、今後はもっと大きなものも作ってみるんだって聞いたけど、そうなったら俺達では到底手が出ない価格になりそうですよね」
恥ずかしそうなマークの言葉に、横でキムも苦笑いしつつ頷いている。
「木にも様々な色があるから、それを繋ぎ合わせて色を活かした彫刻にするのは、確かに良い考えだよな。だけど、聞いただけでも大変そうだし、確かに大きければそれなりの値段になるだろうな」
感心するルークの呟きに、あちこちから笑い声と同意の声が上がったのだった。
「マーク軍曹とキム軍曹には、竜騎士隊からこれを贈らせてもらうよ。今後の研究の参考にしてくれたまえ」
笑ったアルス皇子の言葉に、二人が即座に直立する。
渡されたのは、精霊魔法に関する何冊もの本が入った木箱だった。中には光の精霊に関する本もあり、本がぎっしりと詰まった木箱を受け取り、嬉しそうに目を輝かせる二人だった。
少女達には、竜の鱗が入ったお守り袋と、銀細工の竜のブローチを、巫女であるクラウディアには、装飾品であるブローチの代わりに、携帯出来るように小さく作られた、銀細工の女神オフィーリアの祭壇が贈られた。
絹の袋に入ったそれは、彼女の掌に乗るほどのごく小さなものだがとても精密に作られていて、ごく小さな扉を左右に開くと、祭壇奥の背景の花に始まり、お供物や灯されている蝋燭や燭台までが忠実に再現されている。しかも、祭壇の真ん中に立つ小指の爪ほどの大きさの、女神オフィーリアの彫像の優しい笑顔までが判別出来る程だ。
「まあ、なんて見事な……」
手の上のそれを覗き込んだ切り言葉が出ないクラウディア。そして、横から覗き込んだジャスミンとニーカもその見事な細工に感動のあまり声もなくそれを見つめていた。
「銀の精密細工の専門であるカリナ工房の新作だよ。あまりに見事だったのでね。敬虔な女神の巫女殿に相応しい贈り物かと思って」
笑ったアルス皇子の言葉に、皆笑顔になる。
実はこれと対になっていた精霊王の祭壇を、アルス皇子がマティルダ様へ贈っている。そして、この女神の祭壇を祖母であるサマンサ様に贈ろうとしたのだが、本人の希望で代わりにクラウディアに贈る事になったのだ。だが、それをここで知っているのは当の本人であるアルス皇子だけだ。
「すごいわ。これなら何処にいてもお祈りが出来るわね」
嬉しそうなニーカの言葉に、言葉もなく頷くしかないクラウディアだった。
「す、素晴らしい贈り物に、心からの感謝を。大切に、大切にいたします」
祭壇を両手で握りしめ、額に当ててその場に跪く。
「どうぞ立って下さい。精霊王と女神オフィーリアの祝福が、常に貴女のもとにありますよう」
アルス皇子の言葉に小さく頷き一呼吸してから立ち上がったクラウディアは、改めてお礼を言って嬉しそうに銀細工の祭壇を両手で包むようにして何度も撫でていたのだった。
彼女の周りでは、様子を見ていたシルフ達が集まってきて、祭壇を撫でたり勝手に祝福を贈ったりしていたのだった。




