家へ帰ろう
レイが目を覚ました時、最初に目に入って来たのは、自分を覆う様に広げられたブルーの翼と、半分だけ見える空だった。
横を見ると、タキスが彼を抱く様に添い寝していて、足元には、ギードが座ったままブルーの足にもたれて眠っていた。
そっと起きたがブルーに気づかれてしまい、翼を畳んだことで他の二人も目を覚ました。
「おやおや、すっかり眠ってしまいましたね。蒼竜様、良い日陰をありがとうございました」
タキスが伸びをして言った。
「それでは、戻ると致そう」
ブルーがレイに頬擦りしながら言った。
「もう一度、飛んで帰るのか……」
ギードが頭を抱えているのを見て、ブルーが大真面目に言う。
「嫌なら置いて帰っても良いぞ」
「いやいやいや、是非乗せてください!よろしくお願いします」
大慌てで必死に言うギードを見て、皆が笑った。
「あっ、いい事思いついた!目をつぶってたら良いんじゃない?」
「そ、それは……」
「確かに一理ありますね。試して見ては?」
来た時と同じ様に、まずタキスが背に上がってレイを引っ張り上げ、それからギードが、荷物を渡してから上がった。
「それでは、行くとしよう」
翼を大きく広げて丘を走り、段差から飛び出す。ふわりと体が浮いて飛び立った。
この世の終わりの様な、ギードの悲鳴を残して。
どうやら、見えないと何がどうなっているのか分からず、余計に怖かったらしい。
しばらくの遊覧飛行を経て、蒼の泉に戻ってきた。
「地面がこんなに安心する場所だとは……」
転がる様に蒼竜から降りたギードは、地面に両手を広げて倒れている。
「蒼竜様、貴重な経験をありがとうございました。それでは、我らはこれにてお暇致します」
「あ、ありがとうございました。まっこと二度と無い貴重な経験でございました……」
苦笑いしながら、ギードも起き上がり礼を言った。
「ドワーフは、空が苦手というのは本当であったのだな」
笑いを含んだ声で、蒼竜が言った。
「ご存知だったとは何とも……正直、もう空はご勘弁頂きたいもんです」
「お空の上は、とっても気持ちよかったのにね」
ブルーを撫でながら無邪気に言うレイの様子に、タキスはまた堪えきれずに吹き出した。
茂みをかき分け楡の木の元へ戻ったところで、また一同は驚くことになった。
彼らを待っていたベラとポリーの後ろには、酷く弱ったラプトルが二頭、隠れるようにして並んでいたのだ。
「おいおい、野生のラプトルが並んで待っておる訳あるまいに、どう言う事だ?」
そっとギードが近づくと、怯える様に後ずさるが、逃げる様子はない。
よく見ると、あちこち怪我をしているのか、鱗が剥がれている所が何箇所もあり、鬣も汚れて酷く絡まっていた。
『それは嫌な奴らが乗ってた子達』
『呪で縛られてたから切ってあげたの』
『サーベルタイガーに襲われて一人いなくなった』
『助けてって言ってる』
『助けてって言ってる』
あちこちから風の精霊達が現れて教えてくれた。
「なるほど、先日森に入ろうとした馬鹿どもの乗っていた騎竜か」
「この背中の傷は、サーベルタイガーの爪にひっかけられたようですが、それ以外の傷は……」
「どう見ても鞭の後だな。馬鹿どもから酷い扱いを受けておったようだ」
ギードも背中や足に残る酷い傷を見ながら言った。
しばらく考えていたが、タキスがラプトルに話しかけた。
「我々と一緒に来ますか?」
二匹は怯えるように震えた後、頭を下げて甘えるように鳴いた。
「どうやら、また家族が増えたようだな」
その様子を見てギードが笑う。
「分かりました、では一緒に帰りましょう。我々について来られますか」
すると、代わりにポリーが返事をするように高く鳴いた。
「おやおや、あなたが面倒を見てくれるんですね。それでは任せて行きましょう」
「ならば、我が家へ帰ると致そう」
ギードがレイの頭を撫でながら笑った。
タキスが笑ってポリーに乗り、手を差し伸べる。
「僕は荷物じゃないよ」
ギードに、また持ち上げられて渡されながら、声を上げて笑った。