秋の蒼の森に行く
秋は実りの季節である。
森は、厳しく長い冬を前に沢山の木の実をつけ、動物達は森の恵みを必死に蓄える。
自由開拓民の貧しい村に生まれた少年達にとって、この季節は大変だけれど楽しい季節でもあった。
普段は立ち入る事の許されない蒼の森に、木ノ実やキノコを手に入れるために堂々と入ることが出来るからだ。
「レイ、それじゃあカゴを渡しておくから、採ったキノコや木ノ実はここに入れてきてね。木ノ実はこの袋に入れてくるのよ。それから、森の奥へは絶対に入らないようにね」
母から大きなカゴを手渡されて、レイは大きく頷いた。
「まかせて!母さんの好きなキリルの実も沢山採ってくるからね!」
「楽しみにしてるよ」
母の笑い声に送られて外に出ると、村の仲間の二人の少年達が、すでに準備を整えて待っていた。
森で採れた木ノ実やキノコ、薬草などは、8世帯二十人の皆で分け合う。
少年達にとっては、年に一度の責任重大な仕事でもある。
金髪で背の高い一番年長のバフィは、三人のリーダーだ。
もう一人は、榛色の髪にソバカスだらけのマックス。
彼はレイと同い年なのに、頭半分は背が高い。
レイは燃えるような赤い髪に翠の瞳の背の低い小柄な少年だ。
でも、母さんに聞いた話では、亡くなった父さんはとても背が高かったそうだから、これから伸びるんだと信じている。
三人の少年達は、途中駆けっこを楽しみながら、村から少し離れた場所にある蒼の森と呼ばれる深い森へ向かった。
蒼の森は、奥深くへ入ると恐ろしい幻獣や魔獣がいると言われている、とても危険な場所だ。
その為、人が入ることができるのは、森の入り口付近の、背の低い木々が生い茂る場所だけである。
それでも、ジャムにすると美味しい、キリルと呼ばれる真っ赤な実を付ける茂みが群生する場所があるし、一見、雑草のように見える草達も、薬になったり、お料理に使えるものが沢山あった。
少し探せば、木の根元には、キノコが生い茂る場所もある。
大人達から教わった通りに、少年達は必死になって森の恵みを拾い集めた。
時々、真っ赤なキリルの実を口に入れるのは、まあ頑張ってるご褒美だと思っている。
カゴが森の恵みでいっぱいになる頃には、日も傾き始めていた。
「そろそろ戻ろう、暗くなる前に村へ戻らないと」
リーダーのバフィが、空を見上げながら声をかけた。
三人はそれぞれにカゴを持ち寄り収穫を確認する。
これだけあれば、村中で分けても十分な量のキリルのジャムが作れるだろう。
キノコは、このところ雨が少なかったせいか思ったほど採れなかった。
「キノコは、また明日、森の東側へ探しに行こう」
バフィがカゴを見てそういった。
確かにこの量では、保存用の干しキノコを作るには心許ない。
「明日もお天気良さそうだから、頑張って集めようね」
マックスが言う声に、レイも頷いた。
東側の森にはキリルの茂みは無いけれど、どんぐりの木が沢山ある。
どんぐりの実を食べるにはアク抜きの手間が必要だが、大切な森の恵みだ。
頭の中で、どんぐりの実で作った蒸し団子を思い浮かべながら、重くなったカゴを抱えて村への道を歩いていった。