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それぞれの案内役

『ふむ、問題ないな。良かったではないか。今回の被害は軽微であったようだな』

 何とか自力で起き上がったマークとキムの額を診てやり、特に問題も大きなタンコブもない事を確認したブルーのシルフは、苦笑いしながらそう言って二人の額を軽く叩く。

「ありがとうございました! ああ、よかった〜〜〜額に湿布を貼って案内役とか、何の冗談だよって」

「全くだよな。いやあ軽傷で済んでよかったよかった。診ていただきありがとうございます」

 それぞれ自分の額を念の為ウィンディーネ達に冷やしてもらっているマークとキムが、揃って笑いながらそう言ってまた吹き出している。

「あはは、確かにそれは僕も嫌かも〜〜〜」

「お前が言うな〜〜〜!」

 クッションを抱えて一人平然としているレイの言葉に、左右から真顔の二人が突っ込む。

 顔を見合わせてまた大笑いになる三人だった。



 その時、ノックの音がして先ほど二人をここへ案内してくれた執事が入ってきた。

「大変お待たせいたしました。お嬢様方のご準備が整いましたのでお部屋へどうぞ」

「はあい、今行きます」

 慌てて立ち上がった三人は、お互いの背中を見てシワになった制服を整え合った。

「よし、これでいいね。じゃあ行こうか」

 剣帯に、外していたミスリルの剣を装着すれば準備完了だ。

 三人は笑顔で頷き合い、執事の案内で隣の部屋へ向かった。



「うっわ……」

「お、おう……」

 しかし、扉を開けたところでマークとキムは呻き声を上げたきり固まってしまった。

 イデア夫人とクローディアとアミディアの三人は、どうやら先に戻ったらしくもう部屋にいない。

 部屋にいたのはいつもの巫女服のクラウディアと、華やかな竜司祭の衣装を身にまとい、ごく薄く化粧を施して髪を結い上げたジャスミンとニーカの二人だった。

 小柄なニーカは、ジャスミンと並ぶと一回り以上小さい。

 それでも、背筋を伸ばして顔を上げたその姿は、幼いなりにも竜の主としての誇りと決意を秘めた一人前の女性の顔していた。

「ああ、良かった。いつものディーディーだ」

 ごく小さな声でそう呟いたレイは、完全に固まっている二人を放置したままゆっくりと部屋に入っていった。

「準備完了だね。それじゃあ、行こうか。では、お手をどうぞ」

 今のクラウディアは、化粧をすっかり落としていつもの巫女服を着ている。

 ゆっくりとクラウディアの前に進み出たレイは、優雅に一礼してから彼女の右手をそっと取り、そのままゆっくりと歩いて廊下へ出てきた。

「ほら、何してるの。案内役なんでしょう?」

 横をすり抜けながら左手でマークの腰の辺りを叩いて部屋に押し込んでやる。

「あ、ああ……」

 緊張のあまりろくに返事も出来ない猫背になっていたマークだったが、ジャスミンが恥ずかしそうに自分を見つめているのに気付いて慌てて背筋を伸ばして胸を張った。

「で、では……失礼します。お、お手をどうじょ! じゃなくて、どうぞ!」

 一応、教えてもらった通りに出来たのだが、残念ながら最後の最後で思いっきり噛んでしまい、慌てて言い直す。

 堪えきれずに小さく吹き出したジャスミンは、それでも差し出された手に自分の手をそっと重ねた。

 右手と右足が同時に出るくらいに緊張しているマークを見て、ジャスミンは少し困ったように笑いつつもとても嬉しそうだ。

「あ〜あ。教えてもらった事、絶対全部頭から飛んでいるよな。あれ」

 思わずそう呟いたキムの言葉に。ニーカが口元を押さえて小さく吹き出す。

「では、無骨者ながら案内を務めさせていただきます。お手をどうぞ」

 ゆっくりと一礼したキムが、目を輝かせて自分を見ているニーカの前にそっと手を差し出す。

「よろしくお願いします。キムも格好良いわよ」

「うぐっ、手順を忘れるから、そんな事言わないでくれって」

 割と本気のキムの情けない呟きにもう一度小さく吹き出したニーカは、そのあとはもう満面の笑みでキムに手を引かれて部屋を出ていった。

 三人三様の、それぞれの案内人っぷりの一部始終を見ていた執事は、ややギクシャクとした動きで廊下を歩いていく彼らの背中を満面の笑みで見送ってから、ゆっくりと扉を閉めて六人の後ろをゆっくりとついて行ったのだった。

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