本部への招待
「ええと、持って行く贈り物は、これで全部……あるな。よし!」
空いた机の上に贈り物の包みを並べたマークは、それはそれは真剣に一つずつ確認してから小さな安堵のため息を吐いた
「こっちも大丈夫だな。よし、それじゃあ行くとするか」
同じく自分の机の上に、今日持っていく贈り物を並べて確認していたキムも、小さく笑って顔を上げた。
顔を見合わせた二人は笑顔で頷き合い、お互いの背中を確認して改めて身だしなみを整えてから、用意していた大きな巾着に順番に贈り物の包みを入れていった。
今日は降誕祭の最終日で、竜騎士隊の本部にある休憩室でお茶会が開かれるので二人も招待されているのだ。
「よし、それじゃあ行くとするか」
「ああ、緊張してきた」
もう一度顔を見合わせて苦笑いした二人は、揃って深呼吸をしてから部屋を出て行った。
「こちらが招待状です」
「よろしくお願いします」
竜騎士隊の本部に務めている彼らであっても、勝手に竜騎士達がいる階へ入る事は出来ない。
マークとキムが階段横の詰め所の兵士に見せているのは、ルーク様から渡された今夜のお茶会の招待状だ。これを警備の兵士に見せれば通してもらえると聞いている。
「はい、確認いたしました。どうぞお通りください」
鍵のノームに招待状を確認してもらった警備の兵士は、招待状を返して一歩動いて階段に上がれるように場所を開けてくれた。
「ありがとうございます。お務めご苦労様です!」
直立して敬礼した二人は、返してもらった招待状を胸元に戻してから、贈り物の入った袋を抱えて階段を上がって行った。
竜騎士達のいる階への通行を許されているマークとキムを、周りにいた第四部隊と第二部隊の兵士達は、羨ましそうに横目でこっそり見ていたのだった。
一方、階段を上がって踊り場を曲がったところで一気に豪華になった周囲を見て、マークとキムは揃って小さなため息を吐いた。
「はあ、何度来ても、この豪華さには慣れないよなあ」
「だよなあ。ここへ来るたびに、分不相応って言葉を心底思い知らされるよ」
もう一度顔を見合わせた二人は、揃ってため息を吐いた。
「なんだなんだ? 景気の悪いため息を吐いている奴は何処の誰だ?」
揶揄うようなカウリの声に、慌てた二人が揃って背筋を伸ばして直立する。
「そうだ。しっかりと背筋を伸ばしていなさい」
笑ったヴィゴがそう言ってマークの背中を叩く。
ちょうど二人の後ろから階段を上がってきたところだった二人は、廊下に上がったところで立ち止まって揃ってため息を吐く二人を見たのだ。
「まあ、これからは其方達もこういった会に招かれる機会も増えるだろう。少しずつで構わんから慣れていきなさい」
「うう、ご勘弁ください。辺境農家出身の田舎者に何をやらせるおつもりですか」
顔を覆うマークの情けない悲鳴のような言葉に、ヴィゴとカウリは苦笑いしていたのだった。
「ああ、来てくれたんだね。今から迎えに行こうかと思っていたのに!」
寒いこの時期のも関わらず綺麗に活けられた花がいくつも飾られた広い休憩室には、レイとティミーが座っていて、部屋に入ってきたマークとキムに気付いて揃って満面の笑みになった。
「お招きいただきありがとうございます! 厚かましくも、押しかけてまいりました!」
「本日はよろしくお願いいたします!」
揃って直立する二人の様子に、一瞬レイの眉間が寄る。
「もう、いつも通りにして!」
「いやいや、そんなわけには参りません!」
「レイルズ様。無茶言わないでください。ようこそお越しくださいました。マーク軍曹、それにキム軍曹。どうぞこっちへ来てお座りください」
笑ったティミーがそう言って彼らが座っていた大きなソファーを示す。彼らの横にはまだ余裕で二人分は空いているので、そこに座れと言う事だろう。
「し、失礼します!」
これまた揃ってそう言った二人が、若干ギクシャクとした動きでソファーに座る。
それを見て、一緒に入ってきたヴィゴとカウリがテーブルを挟んで向かい側に置かれたこれも大きなソファーに座る。
「今回は、ちょっと人数が多いのでな。会食はここではなく別室を用意している。まあ、全員揃うまでもう少し時間があるから、ゆっくりしているといい」
お茶の用意をしてくれている執事を横目で見たヴィゴが、少し小さな声でそう教えてくれる。
「ええ、大人数って……あの、どなたがお越しになるのでしょうか?」
てっきり去年と同じ顔ぶれだと思っていたが、違うのだろうか?
密かに焦る二人を見て、笑ったヴィゴとカウリが、今夜の顔ぶれを教えてくれる。
「ボナギル伯爵ご夫妻に、ヴィゴ様のご家族。それにティミーのお母上って……ヴィッセラート伯爵夫人! うわあ、ちょっと冗談抜きで腹が痛くなってきたよ」
「お、俺もだ……どうしよう。無礼をして叩き出される未来しか見えないよ〜!」
「大丈夫だって。何かあったら僕が教えてあげるよ」
「よろしくお願いします〜〜〜!」
揃って頭を抱えるマークとキムのあまりにも情けない様子に、レイは笑って胸を張ってそう言い、二人にしがみつかれていたのだった。




