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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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1979/2488

無音の舞

「なんて綺麗なんだろう……」

 ごく小さな声でそう呟いたレイは、目の前で繰り広げられる音の無い舞いから目を離せないでいた。



 銀色のリボンの先を燭台の針に留めた巫女達は、リボンを持った左手を高く上げてゆっくりと燭台を中心にして円陣を組んだまま歩き始めた。

 二歩前へ、止まって一歩下がる。また二歩前へ進み一歩下がる。

 八人の巫女達が等間隔のままゆっくりと燭台を中心にして円を描いて進む。

 一周して元の位置へ戻ったところでぴたりと立ち止まり、そこで軽くリボンを引いてリボンを巻き取り始める。

 それを見たシルフ達が当然のように燭台に集まり、針に突き刺さっていたリボンの端を引き上げて上手に針から外したのだ。

 おかげで燭台が倒れる事もリボンが針に引っかかる事もなく、床に落ちたリボンはするすると巫女達の手に戻っていく。

 綺麗に巻き終えたところで、今度は穴の空いたリボンの端を右手に持ち両手を頭上に高々と掲げて再びリボンを軽く振る。

 ふわりと浮いたリボンの周りにまたシルフ達が集まり、リボンはまるで生きているかのようにはためいて床に落ちる。

 ちょうど、リボンの中央が少しだけ床につく長さになっていて、今度は両手にリボンの端を持った巫女達が両手を揃えて右に左にゆっくりと動かし始めた。

 弓のようにたわんだリボンが、彼女達の手の動きを追ってふわりふわりと左右に弧を描いて動く。

 そしてそのまままた、巫女達が動き始めた。

 今度はすり足でそれぞれ違う方向へ動き、あっという間に四人ずつ二列になって等間隔に並ぶ。

 彼女達は祭壇の方を向いているので、レイ達はちょうど真横から、ベンチに座った参拝客達は巫女達の後ろ姿を見ている状態だ。

 穴の空いた方のリボンの端を持った右手を離し、左手を大きく伸ばしたまま降ろす。離されたリボンがそれを追って大きく円を描いていく。



「あ、またシルフ達が……」

 床に落ちる寸前、宙を舞うリボンの端をシルフ達が捕まえ、そのまま隣に立つ巫女の右手にそのリボンの端を渡した。

 それを見たレイが、思わず小さな声でそう呟く。

 全員がリボンの端を掴んだところで、そのまま腕をゆっくりと下ろし、今度はリボンを掴んだ両手を前後にゆっくりと動かし始めた。

 まるで縄跳びをしている時の縄のように、綺麗な弧を描いた長いリボンが前後に揺れる。

 何人かのシルフ達は、それを見て大はしゃぎでリボンを飛び跳ねて遊び始めた。もちろん、リボンの動きを妨げるような事はしないので、それが見えているのは竜騎士達をはじめとする精霊の見える人達だけだ。

 すると今度は、中央に置かれていたテーブルに置かれていたミスリルのハンドベルが突然に鳴り始めた。

 前後に振られるリボンの動きに合わせるように、一定のリズムで。

 もちろん、誰も触れていないハンドベルを鳴らしているのはシルフ達なのだが、精霊が見えない人達にしてみれば、まるで手品のような突然の出来事だ。

 ずっと静かにしていた客席から密やかなざわめきが聞こえる。

 しかし、巫女達は動じる様子を見せずに、またその場でゆっくりと前後に動き始めた。

 前に一歩、後ろへ二歩、前へ一歩。同じリズムで手に持ったリボンもゆっくりと前後に動かしている。

 そのまま今度は右へ一歩、左へ二歩、また右へ一歩動いて下の位置へ戻る。

 どれ一つ取っても、ごく単純な動きでおそらく誰にでも出来る動きだろう。

 しかし、無言でリボンを振って舞う巫女達の動きはとても滑らかで、静かで美しい。皆、無言で彼女達の動きに釘付けになっている。

 時折、一斉に大きく腕を振りリボンが宙を舞う。

 わずかに衣擦れの音が聞こえるだけで、すり足でゆっくりと動く彼女達の足元からは一切の靴音が聞こえてこない。

 時折誰かのもらす感嘆のため息だけが聞こえる中を一糸乱れぬ動きで無音のままに舞う巫女達は、本当の精霊のようだ。



「なんて、なんて綺麗なんだろう……」

 もう一度そう呟いたレイは、まるでその呟きが合図であったかのように巫女達が一斉に動きを止めたのを見て、慌てて口を押さえた。

 右肩に座ったブルーのシルフが、そんなレイを見て密かに笑っている。

 少しだけ眉間に皺を寄せてブルーのシルフを横目で見たレイだったが、その瞬間、一度だけ巫女達が揃って大きく床を蹴って甲高い音を鳴らしたのに驚き、慌てて居住まいを正した。

 足踏みをしたのに合わせて右手のリボンをそれぞれが離し、床に落ちたリボンをするすると巻き取っていく。

 全員同時にリボンを巻き終えたところで、巫女達はゆっくりと動いて祭壇前に横一列になって並び直す。

 そして、祭壇に向かって膝を曲げて深々と一礼した。

 しばし無言で祈りを捧げた後、顔を上げた巫女達がゆっくりと振り返って今度は客席に向かって深々と一礼した。

 次の瞬間、大きな拍手が沸き起こり、それと同時に堂内に鳴り響く、精霊王の別館の一番高い塔の上に設置された巨大な釣鐘の音。

 レイも、手が痛くなるくらいにいつまでも拍手を続けていたのだった。

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