降誕祭の贈り物
まず全員が揃った所で通されたのは、いつもの庭が見える部屋だ。
大きなツリーの下に並べられた贈り物を見てティミーとジャスミンが目を見開く。
「ほら、見てきなさい」
笑った陛下にそっと背中を押された二人が、戸惑うように頷いてから揃ってツリーの下へ駆け出していった。
見事な細工の入ったミスリルの短剣を手にしたティミーは、声も無くその短剣に見惚れていた。
ジャスミンは、オルベラート産のこれも見事なレース編みのケープとスカーフ、それからヘッドドレスを手に取ったままこちらも固まってしまっている。
「こ、こんな見事な品を……」
二人の口から全く同じ言葉がもれる。
「ミスリルの短剣は、今の其方にならばちょうど良かろう。気にせず、普段から身につけなさい。背が伸びてそれが不足になれば、また新しい剣を贈らせてもらうよ」
「はい、本当にありがとうございます! 大切にします!」
陛下の優しい言葉に、頬を紅潮させたティミーは、嬉しそうにお礼を言って剣を抱きしめた。
「ジャスミンへのレースの品々は、私とティアの二人で選んだのよ。気に入ってもらえたみたいで嬉しいわ」
「そのヘッドドレスは、私の一番のおすすめよ。ジャスミンの栗色の髪に合わせるなら、絶対にそれだって思ったの」
得意そうなマティルダ様とティア妃殿下の言葉に、ジャスミンも笑顔になる。
それ以外にもいくつもの贈り物があって、二人は一つ贈り物を開けるたびに嬉しそうな歓声をあげていて、年相応の無邪気なその様子を、大人達は優しい眼差しで見つめていたのだった。
贈り物の開封が一通り済んだ所で、いつもよりも広い部屋に案内されて全員が席につく。
アルス皇子と並んで座ったティア妃殿下の隣にはジャスミンが座る。それを見て、ティア妃殿下が嬉しそうにジャスミンに顔を寄せて内緒話を始めた。
結婚式前の花嫁のおこもり期間中、お世話係を務めたジャスミンとティア妃殿下はすっかり仲良くなっていたのだ。
両陛下とアルス皇子は、そんな彼女達を愛おしげに見つめていた。
レイがすすめられて座ったのは、いつものようにマティルダ様の隣だ。
「あの、サマンサ様はどうなさったのですか?」
いつもならマティルダ様の隣に座った自分の反対側には、車椅子のサマンサ様がいらっしゃるのに。今日は一度も顔を見ていない。
レイの心配そうなその言葉に、マティルダ様が少し眉を寄せて首を振った。
「母上は、降誕祭が始まった頃からずっと風邪気味でね。本人は大丈夫だからって今日の昼食会には出るおつもりだったみたいなんだけど、まだ熱も引いていないし、咳もあるので今日の昼食会はお休みいただくことにしたの」
「だ、大丈夫なんですか?」
久しぶりにサマンサ様に会えると思って楽しみにしていたのに、お風邪を召していると聞いて急に心配になって戸惑うようにそう尋ねる。
「大丈夫だから心配しないでね。義母上も、貴方に会えるのを楽しみにしていたのにって、とても残念がっておられたわ。でも、貴方達に風邪をうつすといけないからね」
マティルダ様の言葉に、陛下も頷く。
「母上は、このところ少し体調がすぐれなかった事もあって、思ったよりも体力が落ちていたようでな。少々風邪が長引いておる。ガンディに診てもらったが、暖かくしてゆっくり休んでいただくのが一番と言われた。以前も話したが、年齢からくる老いに勝てるものはおらぬよ」
そう言って、目の前に置かれた豪華な料理を見て笑顔になる。
「母上には、しっかり養生していただいてお元気になってもらわなくてはな。孫を抱いていただかなくてはならないのに」
用意された豪華な昼食が目の前に置かれた瞬間だったが、陛下のさりげないその言葉に、竜騎士隊全員が顔を上げて一斉に陛下を見た。その目は揃ってこぼれ落ちんばかりに見開かれている。
軽く咳払いをして、少し頬を染めて横を向くアルス皇子と、口元に手をやり真っ赤になって目を逸らすティア妃殿下を見て、陛下とマティルダ様が嬉しそうに頷き合う。
「ようやく安定したらしいのでな。まずは其方達に報告だ。降誕祭が終わったら正式な発表をする予定だ。まあ、ティアの体調を見て、場合によっては、正式な発表は年明けになるかも知れぬがな」
笑顔の陛下の言葉に、アルス皇子も照れたように頷く。
「おめでとうございます!」
目を輝かせたジャスミンの言葉に、その場は拍手に包まれたのだった。
昼食会は、終始笑顔の絶えない時間となった。
レイも普段よりも豪華な食事を楽しみつつ、マティルダ様からティア妃殿下の普段の様子や妊娠が判明した時のアルス皇子の慌てぶりを聞いては、その度に竜騎士達の皆と一緒に殿下を揶揄っては何度も笑い合ったのだった。
ティア妃殿下のまわりには、常に何人ものシルフ達が集まってきていて、彼女の頬や額だけでなく、お腹にも何度も先を争うようにしてキスを贈っていたのだった。




